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white snow  作者:
you were laughing up your sleeve at me.
55/60

a fragment


 「何だよコレっ……! どうなってんだよ?!」

 鈴は驚愕に目を見開いた。目の前にいるのは―――。









 一時間前。

 「なあ、ここって……」

 鈴はそびえ立つ高いビルを見て引き気味に言った。

 忘れたくても忘れられない、あの忌々しい場所。彼女が連れ去られた、あの場所にいま自分はいる。

 「まだ残っていたんだ……」

 ぽつりと呟くように言うクリス。夢遊病患者のようにフラフラと建物に近づき、ぼんやりとそれを眺めていた。誰よりも一番、ここに訪れるのが億劫だったかもしれない。

 「残っているのではない」

 フローラはクリスの隣に来て言った。

 「これは幻じゃ」

 「幻?」ヒバリは訝しげに訊く。

 「ヒバリ、わしらがここに来た理由を覚えておるか? 罪人ターゲットがこの近辺に潜んでいるという噂を聞きつけたからじゃ。奴らは幻術に長けておるらしい。じゃから今まで政府が捕まえられなかった」

 「なるほどな~。ランクが高い理由はそういうことか」

 「つまらないブラックジョークだ」

 クリスはわざとらしく肩を竦めた。

 「悪趣味だな」サクラは吐き捨てるように言う。

 未だに何も思い出せていない……が、ここがこいつらにとって嫌な思い出でしかないということは分かる。そして敵の中には恐らく、前世のこいつらを知っている奴がいるということも。

 今回の任務は少し難しいかもしれないとサクラは思った。防衛本能で襲いかかって来る単純な奴らならまだしも、ここまで用意周到に出迎えてくれるとは……。

 奴らはきっと何か知っている。思い出さないように、古傷に触れないようにと彼らが細心の注意を払っている何かを。僕が思い出せずにいること全て―――。

 




 「楽しい楽しいサーカスの始まりダ」





 「? 何か言ったか?」

 フローラ、クリスと共に先を行くヒバリが立ち止まって振り返る。

 「いや、何も」

 サクラたちは一様に首を横にした。だが、声が聞こえたのは確かだった。

 「―――ともかく。この幻術を解くには奴らを倒さなければならぬな」

 「どっからでもかかってきなさい! 私が相手してあげるんだから!」

 「待て」

 さあ行こうと足を踏み入れようとしたレイチェルを止めたのはサクラだった。

 「どうかした?」

 「一気に敵の本拠地に乗り込むのは危ない。ここは一人ずつ、それぞれ違う経路で行くべきだ」

 連繋プレーを得意とするチームならともかく、彼らはそれぞれが個人主義である。視界に入った罪人ターゲットが自分の担当であり、その他は我関せずなのだ。

 それに、彼らの過去を知っている奴がいるとするのなら、仲違いさせるのは容易なはず。奴らがそれを目的としているのなら、一緒に行動する人数が多ければ多いほど不利になるのは明らかだった。

 「……分かったわ。それじゃあ、みんな気をつけてね!」

 レイチェルはそう言うと、隣のビルに向かって行った。恐らく窓から飛び移り、一気に潜伏地の中層に行くつもりなのだろう。

 「さすが俺の妹だぜ! じゃ、俺も先に行くな!」

 ヒバリは快活に笑い、彼女と正反対の方に向かって行った。

 「まったく、元気な兄妹じゃ。それならわしは上から行くとするかの」

 フローラはそう言うなり姿を消した。残るはクリス、鈴、サクラのみである。

 「じゃあ、僕も行こうかな」

 クリスは辺りを見渡して、侵入できそうな場所を探していた。

 「クリス」鈴が声をかける。

 「どうしたんだい? 鈴」

 「二度と裏切るなよ」

 鈴の表情は真剣そのもので。

 クリスは思わず笑ってしまった。

 「僕はもう大丈夫。だから、心配しなくていいよ」

 「べ、別に心配なんかしてないからなっ!! あんたに寝返られたら俺たちが迷惑なんだよっ!!」

 口を尖らせて言うところが、自身の言葉を裏切っている。クリスはそれに気付いていたが、指摘すると鈴はさらにムキになってしまいそうなので、止めておいた。

 鈴もまた、ビルの中へと消えていく。

 「君はどうするんだい?」

 クリスはサクラに尋ねた。彼は暫くビルを睨んでいたが。

 「確かめたいことがある」

 サクラは堂々と正面から中に入って行った。

 ―――真っ直ぐだなぁ。

 彼を見送った後、クリスは半ば感心しながらそう思った。自分にはない正直さが彼にはある。

 「君は昔からそうだったよね、レイ―――」

 

 

 

 





 「見てくださいよ、ねえ。あいつら、仲間割れしちゃってますよぉ~」

 チャールズは『彼女』に話しかけた。

 「何だか楽しくなってきちゃいましたねぇ。そうは思いません? 『メグリヤ』ちゃん?」

 ガタガタと物が動く音に続き、噛みつくような声が響く。

 「何も楽しくなんかないわ!! 私をここから出しなさいっ、チャールズ!!」

 「無理なんですよ、無理ムリ!! 君をここから出すことは僕ちんが許しませ~ん! だってキミは今も昔もずーっと僕ちんの玩具オモチャなんだから……ね」

 チャールズはさも面白くなさそうな笑みを浮かべた。

 「あのヒバリとか言う奴に君のまがい物―――抜け殻の魂―――を埋め込んでみたけど、あいつら見事に私の罠にはまってくれちゃってますねぇ。『あれ』が君だと信じて疑わない。君という『意思』がない限り、『あれ』は君であって君でないというのに」

 生き物は肉体と魂で構成されている。魂がなければ肉体は朽ち果てるし、肉体のない魂は生物に成りえない。 

 「前世って、どうして忘れちゃうか知ってます?」

 チャールズはメグリヤに問いかけた。無論、答えは返ってこない。それでも彼は話し続ける。

 「それはね、魂に『意思』がないからですよ」

 肉体と魂が分離することによって生物は死を迎える。肉体は自然に還ることで地上から消滅し、魂は浄化を受けることによって来世に繋がれる。その際、魂に刻み込まれた『意思』は消滅するのだ。

 『意思』を消滅させることによって、生き物は新たな生を得ることができる。新たな道を切り開くことができる。だが、もし魂を浄化させなかったとしたら? 

 「面白いですよねぇ、記憶保有者ああいうのを見ていると。いつでも、どんな時でも苦悩している。たとえ幸せになれたとしても、いずれ死んでしまう。そして、気付いたらまた目の前にスタートがある。死んでは生き返るの繰り返しだ。彼らにゴールというものは存在しない。それなのに、救いを求めること自体が間違いなんだということに気付かないなんて、愚かなことです」

 「何て人なの?! そうやって私たちを縛っていたのね……!!」

 「『縛っていた』んじゃないですよ。『縛っている』んです」

 「狂ってるわ!!」

 メグリヤは声の出る限り叫んだ。チャールズはそれを無視し、嘲るように言った。それは独白だった。

 「……抜け殻のキミを見破れるかなぁ、あいつらは」

 

 

 

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