an assassin
唐突で申しわけないのですが、私は偉大なるチャールズ様に仕える者でございます。
私の名をお教えすることは、残念ながらできません。これは『神の国』にいる者の掟でございまして、未だに下界で燻っている連中とは訳が違うのでございます。下界の連中はまったく憐れなもので、取るに足らないことをいつまでもいつまでもクヨクヨウジウジ悩んでおります。
再会を喜び、仲良しなフリをして戯れるそんな彼らを私は冷ややかな目で見ておりました。
「それで、これからどうする?」
小柄な少女が男勝りな口調で面々に尋ねます。まったく、最年少だというのに無礼な子供ですね。物事を考える、ということを知らないのでしょうか。
すると、少女とさほど変わらない年齢の少年が執行人の証でもある馬鹿でかい鎌を軽々と担ぎながら「とりあえず本部に戻ろう」と答えました。忌々しい鎌と、その真っ白な刀身から滴れ落ちる赤い液体が彼の子供らしさを削いでいることは一目瞭然でした。
和気あいあいとした雰囲気なのにも関わらず、私は思わず身震いをしてしまいました。なぜなら、彼の本性を知っているからです。我が神に近しい御方であるチャールズ様は全てを私に教えてくださりました。
あの少年の本性は冷酷、そして非道でございます、間違いありません。私がこう頑なに言い張るのにも、ちゃんとした理由があるのです。それは、チャールズ様が私にくれた『未来』のメモ。それだけではございません、私はしっかりと『未来』で聞いたのです。
チャールズ様のご友人―――と言っても、ただ利害関係が一致するだけの希薄な友情ではありますが―――マルス様と彼の会話を。
「今までどこに隠れていたんだい?」
「易い質問だな。そんなことを聞いてどうするつもりだ」
「まあ、こういう性質なもんでね。その逸材から埃が出るなら何だってするんだよ、僕は」
「フローラに聞いた通りだったな。お前は偽善者―――いや、策略家だ。自分でも自覚しているのだろう?」
「元々優しさなんて備えていないんだ。あれは……そう、ただの真似事だよ。困った時にどうすればいいか。それが上手く対処できる人を見つけて真似しているだけ。どうすれば相手に不快感を与えないか知っているだけだ」
……話が逸れましたね。
我が神は全知全能ではありますが、ご自身がお創りになった世界に興味がございません。チャールズ様の方がよっぽど『彼ら』を気にかけております。
「ねえサクラ、LEC本社ビルってどんなところだった?」
「僕が知るものか」
「何だァ? オマエ、一回行ったことあるんじゃないのか?」
黒髪紅眼の女性に続き、喋る猫が質問を重ねます。ああ、あれが噂の使い魔ですか。聞いたことはありますが、見たのは初めてです。なるほど、喋る猫とは思った以上に不気味ですね。『あんなこと』があったのも無理がありません。
「行ったのは、受付までだ」
「ふーん、じゃあ一緒だな。オレも入会手続きをする時、受付まで行っただけで、他のところには行かせてもらえなかったぜ」
ヒバリは快活に笑って言いました。
私と同じく、それらのやり取りを静かに眺めていたのはゼロという青年でございました。彼は冷めた目で本来の目的を忘れかけていた愚かな一同を一瞥した後、「行こう」と促します。マルス様が彼を気にかける理由が何となく分かったような気がしました。聡明で物静かなマルス様は確かに騒がしい者どもをお嫌いになるでしょうからね。
とまあ、こんな感じにマルス様のことは分かります。ですがね、私には肝心のチャールズ様の御心が分からないのでございますよ。なぜにしてあのような小娘を玩具にしておられるのでしょう。あのように浅はかな小娘を、なぜ―――。
……少々取り乱してしまいました、申し訳ございません。今は違いますね、あの憎々しい小娘はすでに女ではないのです。私が心配する必要もありませんでした。それより、私はとてつもなく罪深いことを考えてしまったことに自己嫌悪してしまいました。私が愛してやまないチャールズ様は心の広い方なので、きっと許してくださるでしょうけど。
目の前にはそびえ立つビル。天に届くのではないかと錯覚してしまいますね。どうやら私が色々と考えている内に、LEC本社ビルに到着してしまったようです。




