Cyako
「政府の犬め!! これでも食らえ!!」
ターゲットが僕に向かって銃を乱射した。僕はそれをかわし、すでに汚れきっている鎌をターゲットに振り下ろした。
鮮血が飛び散る。それと共に、ターゲットはその場に倒れた。
動かない。
もう二度と―――。
鈴がそれを回収しに来た。彼女は携帯を取り出すと、フローラに死体の処理を頼んだ。
複数犯なら証人は一人でいい。単独犯であれば、LECは罪人を殺さない。罪を償わせた後に殺す、それが僕らのやり方だった。
返り血を浴びた。鼻にくる独特な臭いが辺りに充満した。首を狩り取られた罪人は、切断面から肉塊を醜く曝け出していた。
空は依然として曇っている。今にも雨が降りそうな勢いだった。
雨なら嫌いじゃない。
その時、鈴の携帯が鳴った。
「もしもし」
鈴は二、三受け答えをすると電話を切った。彼女は振り返って「ヒバリたちの方は、もう終わってたみたいだぜ」と言った。その口調はどこか皮肉めいていた。僕にはその理由が分かった。
「僕が真剣に仕事をしなかったことに怒っているのか」
鈴は不機嫌そうな表情を崩さないまま頷いた。
「人の命を弄ぶなんて」
「許せない?」
「そうだ」
処刑が確定している罪人を追いつめては逃がし、追いつめては逃がしの繰り返しだった。罪人を追う僕の後についてきた鈴はその度に憮然としていた。
生きるか死ぬかの瀬戸際。
僕はそれを楽しんでいた。
言われるまでもない。もう狂っている、何もかも―――。
『斉木』が死ぬ前に望んだもの。
それは狂気だ。
「神はいる。僕らは神の玩具に過ぎない。戦うだけの人生なんて、もううんざりだ。それでも君は神を信じるのか?」
滅びゆく世界。何もかもが壊れている。
大切だったものはすでに失われていた。もはや考えることに何の意味もない。
感覚の麻痺。
「信じる信じないはともかく」
鈴は淡々と言った。
「オレは現実を誤魔化さない」
それは。
そんな風に思えるのは。
僕は鎌を担ぎ直す。
「それはまた、君らしい答えだね」
猫の鳴き声がした。
「チャコ!」
虎縞の猫の名を呼んだ。猫は欠伸を噛み殺しながら、どこからともなくやって来ると、ふわりとクリスの右肩に降り立った。
「もう終わっちまったのかよ。つまんねえな」
チャコは人間の声でも、ましてや動物の声でもない独特な―――機械音に近い―――声だった。鈴は突然の出来事にびっくりしている。
「あぁ? 何だ、このガキ。お前の『トモダチ』か?」
チャコはわざと強調して言った。クリスは冷ややかな態度で頷いた。鈴が反論しようとしたところを彼は制して「そういうことにしておこう」と言った。
否定するとややこしいことになりそうだ。
鈴はチャコを一瞥した後、納得した。
「鈴、この猫は僕の友人だ。チャコって言うんだ。―――チャコ、彼女は鈴だ」
するとチャコは「あっ」と手を打った。
「例のマセガキか」
「なっ?! オレはそんなんじゃねえ!!」
鈴はチャコに銃を突きつけた。チャコはおどけるように笑う。
「やっぱガキだな」
「テメェっ!!」
鈴が振り下ろした手をチャコはひらりとかわす。
「おっ、やる気か? オレは別に構わないぞ? 面白いことなら大歓迎だ!」
「はぁ……。チャコ、いい加減にしなよ。大人げないなぁ」
「ヒヒッ! 法に触れなくて楽しいことならいいじゃねえか。何でも楽しまなきゃ損だぞ、クリス?」
「はぁ……」
クリスは再び溜息をついた。
「あっ、いたわ!! こっちよ!!」
聞き慣れた声に振り返ると、レイチェルとゼロがこちらに向かって来るところだった。




