the girl they met was very hungry.
もう雪は降っていなかった。寒さだけが取り残される。
斉木と陣内は滑りそうになりながらも慎重に山を下った。医師たちが追いかけてくる様子はない。患者用の服とコート一枚、そして病院用のサンダルを履いているだけの斉木はもはや死人と言っても過言ではないほど蒼白な顔色をしていた。だが、彼は諦めない。陣内に肩を貸してもらいながら、何とか歩いている。
「頑張れ、斉木。あともう少しで街に入る」
陣内の言葉通り、十分もしない内に、だんだん街の様子がはっきりしてきた。もう夜明けだ。
斉木は言葉を失った。―――これのどこが『街』なんだ?
道端にはゴミが散乱し、家の屋根は崩れ落ちている。未だについている外灯はほとんどない。眼を光らせた野良猫が道を闊歩している。痩せた野良犬がゴミを漁っている。日本ではほとんど見ることのなかったホームレスが点在している。ここは、斉木の知っている日本ではなかった。
その時、街中に響き渡ったのではないかというくらいの怒鳴り声が聞こえた。
「失せろっ、このクソガキがぁ!! いつも店の商品くすねやがって!!」
続いて乱暴に扉が閉まる音。
「これは……」
斉木は目の前で起きていることから目が離せなかった。信じられるものではなかった。陣内は彼の言葉を引き継ぐように言った。
「現実だ、斉木。これがお前の知りたがっていた『現実』なんだ」
道端に転がり出てきたのはまだ幼い少女だった。彼女は店主に蹴られた腹を庇いながら、何とか立ち上がる。
「関わるな」
陣内は低くくぐもった声で言った。
「関わると厄介なことになる。……同情はするな。これが暗黙のルールだ」
少女に手を差し出そうとした斉木は寸の間で手を止めた。彼が、陣内が何を言っているのか分からなかった。
「君は」
斉木は息を飲む。
「君は、いつからルールにこだわりを持つようになったんだ?」
僕の知っている陣内はこんな奴ではなかった。困っている人を見捨てるなんてこと、絶対に―――。
すると、陣内は俯いて言った。
「あの時、お前も言っていただろう? ……変わったんだ、何もかも」
「違う!!」
気付くと僕は叫んでいた。陣内が驚いてこちらを見たのはもちろんのこと、他の人たちも険しい目つきで僕を見ていた。けれどもう構っていられなかった。
「変わったんじゃない。何もしなくなったんだ。……全てを政府のせいにして、僕らは現実を見ようとしない」
「そんなことはないさ。悪いのは政府だ。奴らが県という制度を廃止し、地区制度にしたから土地争いが起こったんだ」
現在、日本は県制度を廃止して10000個の地区に分けている。あまりにも狭すぎた土地の中で、彼らはこう考えた。『そうだ、県制度を復活させれば良いんだ』と。だが、反対する人間も当然いる。そして内戦が始まった。
狭い土地で何ができるかということは大きな問題だが、日本はそれよりも重大な問題を抱えていた。
ロシアとアメリカの戦争。そしてそれには中国も参戦している。周囲の国々が争う中、いつ日本が侵略されてもおかしくない。そう考えた日本政府は、国民をある事柄に基づいて各地に散在させたのだった―――。
その時、少女が動き出す。
「助…ケテ……」
彼女は確かにそう言っていた、斉木を見て。
「どちらにしろ」
斉木はきっぱりと陣内に言い切った。彼はもう迷わなかった。
「僕は、僕が正しいと思っていることを貫くよ」




