white snow
チャコと別れた後、僕はヒバリが来るのを待っていた。彼が僕を追いかけて来ているのは知っている。勝手に事務所に戻ったら、入れ違いになってしまうに違いなかった。
視界の端に白いものが映った。僕は顔を上げた。
―――雪だ。
いつの間にか空は鉛色になっていた。車の喧しい走行音も聞こえなかった。時間が止まってしまったかのように思えた。
「こんなとこにいたのかよ」
息を切らしてやって来た、背が高く顔立ちの整った青年。彼は紺のピーコートを羽織っていた。事務所を出る時、雪はすでに降っていたのかもしれない。僕が気付かなかっただけで。
「ほら、戻ろう。風邪引くぜ」
その言葉を聞いたら何故だか無性に泣きたくなった。彼はどうして今、僕の前にいるのだろう。放っておいてくれれば、僕は―――。
「俺、結構好きだぜ」
ヒバリは唐突に言った。「晴れている日よりも、こういう天気の日の方が好きだ」
それは僕に対する当てつけなのだろうか。雪は、嫌いだ―――。
「まあ、そう邪険するなよ。ちゃんと理由があるんだ」
「理由?」
「ああ。でも、教えない」
「何でだよ?」
するとヒバリは意地の悪い笑みを浮かべて「お前が素直じゃねーから!」と言った。
「意味分かんないよ!!」
僕は思わず拳を掲げて立ち上がった。ヒバリはさして驚く様子もなく、昇降口まで走って逃げる。
「危ない危ない。……さては図星だな?」
言葉に詰まった。
こういう時、ヒバリはメグリヤの生まれ変わりなんだなと実感させられる。たとえ記憶がなくとも彼女は彼女のままだった。
その時、ふいに身体が宙に浮いた。天と地が逆さまになる。いつ近づいて来たのか、ヒバリが僕を担いだのだった。
「さて、帰るか」
ヒバリはそのままスタスタと歩き始めた。
「ちょっ、降ろしてよ! このまま帰るつもり?!」
「降ろしたら逃げるじゃん」
ヒバリは当然のように言い放つ。
―――メグリヤ、君はいつも手厳しいよ……。
「記憶なんて」
すばるはフローラから視線を放さなかった。
「忘れてしまった記憶なんて、そんなものいりません」
それが彼の答えだった。
フローラは理解できないと言うように眉を顰めた。
「記憶を取り戻したくないと言うのか。……お主、置いて行かれるぞ。これから皆、記憶を取り戻していく。それなのにお主は思い出したくないとそれを拒む。それでは、これから先に起こる戦いについていけぬ。戦いは迫っているのじゃ」
「―――つかぬことをお尋ねしますが」
「何じゃ?」
話の腰を折られたフローラはやや不服そうだったが、ちゃんと応対した。
「仮に神を倒しに行くとして、どうやって神がいるところまで行くのでしょうか」
「ふん、愚問じゃな。無論、魔法を使って『神の国』まで行くのじゃよ」




