fanaticism
すばる視点です。
『思い出してよ』
彼女は何を知っているのでしょうか。思い出せと言われても、知らないものはどうしようもないのですが。―――いや、そうじゃないですよね。そういう問題ではないことを私は知っていたはずでしたのに。どんなことにせよ、知らないままじゃ駄目です。分かろうとしなければ、それは永遠に分からないということなのですから。
ある日突然やって来た鈴という少女。彼女は自らのことを転生者だと言いました。それは本当なのでしょうか。
鈴の母親は至って普通の人に見えます。やや頑固そうですが。でも、こういう人って結構いるんですよね。……私の周りに限ってかもしれませんが。彼女の母親を追い返すのにはサクラも大変苦労したそうですよ。
「どうした? すばる」
ああ、噂をすれば何とやらですね。当人がお出ましです。ちょうどいいところに来たとは言わずに、私は謎かけと称して彼に訊いてみました。
「前世というものは憶えているものなのでしょうか」
「そんなわけないだろう」
即答です。
「やっぱりそういうものなんですかね……」
「ああ。記憶を受け継ぐごとは不可能だ。普通はな」
「?」
「中には教えたこともないのに母国語以外の言葉を喋れる五歳児がいたり、戦争を経験した男の記憶を持つ少女がいたりする。それが本当かどうかは定かではないが、事実彼らは事細かくそれを語る。また、身体的特徴を受け継ぐ子供もいるらしい。現に―――」
サクラは鈴を見やった。彼女はクリスと一緒にいた。楽しそうに遊んでいるように見える。歳が近いせいか、気が合うのだろう。
「現に、鈴は自分がまったくの他人だったと言っている。自分は男だったと。その証拠に、彼女は言動が男っぽいだろう?」
「性同一性障害かもしれませんよ」
「僕もその意見に賛成だ。彼女が意図的に口で騙っているのは有り得る話だし、何より『前世の自分』を証明できるものが何もない。詰まる所、証拠がなければ何も証明できないんだ」
「嘘じゃないよ」
そう言ったのは、ミーナだった。いつの間に来ていたのでしょうか。
「嘘じゃないよ。鈴の言っていることは嘘じゃない」
なぜ言い切れるのか。
ミーナは変わってしまった。彼女は私の知っている彼女ではなかった。まるで別人のような―――。
いつからなのでしょうか、ミーナは随分と大人びた喋り方になっていました。サクラもそれに気付いたらしく、怪訝な顔つきをしています。いえ、もしかしたらミーナが私たちが導き出した仮定に反論したからかもしれません。
「全てはフローラ様が知っているわ」
「『フローラ様』?」
彼女は神を崇めているかのような調子で言った。フローラとは、つい最近クリフトを探してやって来た『魔女』のことです。たった数日で、彼女はミーナを洗脳してしまったようです。私はぞっとして魔女の姿を探しました。魔女は私に気付くとにやりと笑いました。何とも形容し難い―――まるで蛇が格好の獲物を見つけたかのような―――目をしていました。そして、私にこう言ったのです。
「わしがお主の忘れた記憶を思い出させてやる。この娘のようにな―――」




