God
「……リ! ヒバリ!!」
――――遠くで誰かが俺のこと呼んでるみたいだな。
「ヒバリっ、しっかりしろって!」
あー、この声は鈴だ、多分。あいつは昔っから何事にも一生懸命だからな。
ん? 俺、どうしてそんなことが分かるんだよ。……まあいいや、何か眠いし。辺りがすっげえ騒がしいけど、何か大変なこと起きてんだなーってことは分かるけど、俺そういうの関わりたくない性質だから。逃げるが勝ちって言うじゃん。
それにしても眠い。眠いし、頭痛いんですけど。
「どうだ? すばる」
「駄目です、間に合いません! 出血が酷くて……!!」
「ヒバリ! しっかりしなさいよ! あんたがいなくなったら家族みんな寂しくなるでしょうが!!」
『いなくなる』? ……ハハっ、何だそういうことかよ。
俺は死ぬのか。
死ぬのはちょっと……いや、まだ随分早いんじゃね? こんだけピンピンしてるんだし、多分大丈夫だろ。
……多分な。
「クリス」
フローラは何気なく声をかけた。暇を持て余しているように見える。
「何だ?」
「お主、嫌われたのぅ」
やれやれと言うように溜息をつくフローラ。心なしか、哀れみを滲ませた口調だった。
「……は?」
一体何のことだ?
だが、それでもクリスは表情を変えなかった。フローラの放った魔法弾がヒバリに命中し、彼は重傷を負ってしまったのだ。
―――傷が深い。すばるに診てもらうまでもないことに彼は気付いていた。
「わしには分かっておる。その男、お主がかつて愛した女―――メグリヤ―――じゃろう?」
「それがどうした」
クリスは治癒系の魔法が使えなかった。このままでは、ただ黙って見ていることしかできない。ただ一つの方法を除いて―――。
「皮肉なものじゃな。長年探し求めていた女は記憶を持ち合わせておらず、女ですらなくなっている。どう考えても彼女に嫌われたとしか思えんじゃろう。……それでもお主はこの世界で生きていこうとするのか? お主がわしを倒さぬせいで仲間が傷つけられるのを黙って見ておるのか?」
……僕は。
「君も助けたいんだよ」
『ボクを助けて、斉木』
そう言って、彼女は泣いた。あの言葉は嘘じゃなかったはずだ。
僕はずっと気づいていた。けれど、あまりにも現実味が無くて気付かないフリをしていた。どうしようもないことだと見て見ぬフリをしていた。僕は彼女を解ろうとしていなかった。
「わしを助けるだと? まったく、意外なことを口にしてくれる。わしは助けなど求めておらぬし、誰かに助けてもらおうとも思っておらぬよ」
「確かにそうかもしれない。でも、君はずっと苦しんでいたんだろう? 神の命令には逆らえないから―――」
神。この世界の創世主。
僕らはずっと、戦う相手を間違えていた―――。




