calling herself Rin is the girl.part3 (three worlds)
やっと”white snow”と”外の世界”の話を繋げることができました。
僕は雪を見ていた。
永遠に降り続けるのではないかと思わせる雪、けれどそれが永遠に続かないということを僕は知っている。
「お前は自分が誰だったか憶えているか?」
陣内は瓦礫の山を崩していきながら僕に訊いた。
「ああ。―――憶えている」
旅人のような雪に憧れた。僕もかつては旅をしていたからだ。
雪が嫌いだった。雪を見るたび、息苦しくて仕方なかった。―――どうして? 決まっている。雪の色は、『光の楽園』を思い出させるからだ。
「陣内」
「何だ? 斉木」
「メグリヤを見つけたかもしれない」
陣内は瓦礫の駆除を止めた。「本当か?」
『メグリヤ』。彼女の本名は『巡矢 恵』。前世の僕が愛していた女性―――。
僕は彼の念押しに強く頷けなかった。
「分からない。もしかしたら、違うかもしれない」
「そうだな。あまり期待はしない方がいいかもしれない。……それにしても、なぜ俺とお前だけが前世の記憶を持っているんだ?」
「分からない。今までこんなことはなかった。僕らは運命に逆らえなかった。もしかしたら、世界の秩序が失われてきているのかもしれないな」
「秩序が失われるとどうなるんだ?」
僕はまるで根拠のないことを言った。
「世界が終わるのさ」
「何も憶えていないのはどっちだ?」
僕はリン―――本人の意思を尊重して、リンということにしておこう―――と共に廃病院の中にいた。ここなら誰かに話を聞かれる恐れがなくなる。
山の上の病院。『斉木 和也』―――。
リンは訝しげな表情で僕を見た。「それはどういうことだ? ―――あっ、おい待てって!」
病院内を知り尽くしているかのようにクリフトは歩いて行った。慌ててリンが追いかける。
見慣れた風景、しかし『昔』と違って院内は瓦礫や硝子の山になっている。白衣の者たちの姿も見当たらない。クリフトはとある病室の前で立ち止まった。
「メグリヤじゃない」
「え?」
陣内は驚いて振り返った。そこには斉木がいた。彼は何とも言えないような表情をしていた。そして、もう一度同じことを告げる。
「メグリヤじゃなかったよ、彼女は」
「―――そうか」
「アーティは……あいつはフローラだ」
フローラ。断ち切れぬ連鎖に巻き込まれた同胞。
「それで?」
「?」
「それで、お前はどうするんだ。フローラを倒すのか?」
斉木は首を横に振った。陣内には理解できなかった。―――あいつはオレたちを皆殺しにした女だぞ。
「もういいんだ」
斉木はゆっくりと息をはきだした。―――辛くはない。絶えず感じていた息苦しさも、もはやなかった。
「いいんだよ、陣内。今なら彼女の気持ちが少しだけ分かる気がするんだ」
気付くと、親しかった者たちはどこにもいない。どこを探しても見つからず、たとえ見つかったとしても記憶を所有していない。彼女は常に孤独だった。
「終わらせるんだ、こんな馬鹿げた芝居は。だから―――」
今まででは有り得なかった終わり方をしようじゃないか。
「まさかお前……」
陣内が固唾を飲んだ時、斉木はふと思い出したかのように話を変えた。
「ずっと思っていたんだけど、どうしても君に訊けなかったことがある。君は、どうしてずっと僕の傍にいてくれたんだい? 陣内―――」
「『陣内』。それが、もう一人の君だった」
クリスは鈴に話しかけた。彼は困惑する鈴を見て、話すのを止めようかと思った。
「続けろ……!」
鈴は憎しみがこもった目をクリスに向けたまま、それでいてどこか辛そうに話の延長を求めた。クリスは鈴を冷ややかな目で一瞥した後、淡々とした口調で話に戻った。
「僕は誰がフローラなのかを悟った。いつもなら気付くことなく彼女に殺されていたはずだ。そうなることが『普通』であり、彼女以外の転生者が記憶を保持していたことは『異常』だった」
「……じゃあ、あんたはフローラに殺されなかったんだな?」
「見方によればそうなるのかもしれない。確かに僕は『全てを知った後で彼女に殺された』」
「何だよそれ……!? あんた、馬鹿じゃないのか?!」
自分のことのように怒りだす鈴を見て、クリスは僅かに笑った。無邪気さはなかった。
「君はいつも同じことを言う。優しいね」
「誤解するなよ、オレはあんたを許していないからな!」
「許されるとも思っていないよ。陣内が―――かつての君が―――あの後何て言ったか知っているかい?」
『オレは斉木、あんたを殺してやりたほど憎んでいる。だがな、あんたはお人好し過ぎるんだ。オレが殺さなくてもあんたは勝手に死んでくれる。オレが今ここにいるのは、あんたの死に様を見てやろうと思っているからだ』
『何だい、それ。君にしては面白味に欠けたブラックジョークじゃないか』
「姉を探しているんだろう?」
僕が言うと、鈴は弾かれたように顔を上げた。
「そうでなきゃ、君がいくつもの探偵事務所を回る理由を説明できない。あの時君が姉であるはずの人間の姿も名前も分からないと言ったのは嘘ではなかった。探し求めている人物は、まだ会ったこともない他人と化していたからね」
「……相変わらず、頭の回転だけは良いんだな」
鈴は呆れたように言う。「考えることは嫌いじゃない」と僕は言い返した。
「僕なら君に協力することができる。だが、それはもちろん君の許可が出た場合だけどね。―――裏切り者を利用したいのなら、君が先に僕を裏切ることだ」




