calling herself Rin is the girl.
「ふうん、なるほどね」
探偵事務所の扉を開いたミーナは中を一通り眺めた後、呆れるように言った。「いつからここは託児所になったの?」
「知るか!!」
サクラはバンッと机を叩く。来客用のソファには、小学四年生くらいの女の子がいた。長めの髪を二つに縛っている。それだけなら、普通の子供だと思うだろう。だが、彼女は違った。ごく普通の子供とは到底思えぬような不機嫌さを醸し出していたのだ。
「依頼者の子供さんですかね。それで、当のお客様はどこにいるんです?」
こういう子の親なのだから相当扱いづらい客なのだろうなと思いつつ、ミーナはサクラに尋ねる。すると、不服そうな色を込めた子供特有の甲高い声が事務所内に響いた。
「オレが依頼者だ!」
発信源は、あの少女である。ミーナは自分の目と耳を疑った。
「オレが依頼者だよ、文句あるか!」
少女―――リンと名乗った―――はふんぞり返るようにソファに座っている。
「そうですか……すみません。では、さっそく相談内容を聞かせていだだけませんか?」
サクラはリンに向き直った。ミーナが急いで紅茶を運んでくる。
「オレの姉ちゃんを探してほしいんだ」リンは単刀直入に言った。
「お姉さん?」
「ああ」
「失礼ですがお姉さんのお名前、身体的特徴、性格などを教えてください」
サクラがそう言った途端、リンは気まずそうに歯切れを悪くした。「それが……分からないんだ」
「やっべ、遅れた!」
ヒバリは腕時計を気にしながら探偵事務所の階段を登っていた。約束の時間から三十分は過ぎている。彼の後ろをついてくるクリフトは、泣きそうな顔をしてヒバリに謝った。
「ごめんなさい、僕のせいでバスに乗り遅れちゃって……」
「元々あそこはバスの本数が少ないんだ、仕方ないさ」
探偵事務所を目前にして、ヒバリは急に立ち止まった。中から話声が聞こえる。お馴染みの声に、聞き覚えのない声が一つ。
『オレが依頼者だよ、文句あるか!』
「……お客さん?」
突然の大声に驚いたクリフトは目をぱちくりしてヒバリに尋ねた。
「ああ。そうみたいだな……」
これでは中に入りづらいではないか。
二人は遅刻してきた気まずさから、中に入れずにいた。だが、好奇心から、わずかだが漏れてくる声に―――プライバシーの何とやらはどうなっているんだとヒバリは思わず心の中で突っ込んだ―――耳を傾ける。
『オレの姉ちゃんを探してほしいんだ』
『お姉さん?』
『ああ』
『失礼ですがお姉さんのお名前、身体的特徴、性格などを教えてください』
『それが……分からないんだ』
「『分からない』? 自分のお姉さんのことなのに?」
クリフトは不思議そうに首を傾げる。
その時、凄い剣幕をした中肉中背の女が階段を駆け上がって来るのが見えた。
「あんたたち! ちょっとそこどいて!!」
「は、ハイッ!!」
間髪入れずに二人は道を開ける。四、五十代くらいのその女はセンスを疑いたくなるような真っ赤なヒールで喧しく音を立てながら探偵事務所の中へと消えた。
「何だったんだ? 今の……」
呆然とするヒバリ。しかし、それはつかの間だった。先程の女と、依頼者であるはずの子供が何やら言い争っているのが聞こえた。
「どうする、ヒバリ? 事務所の中に行く?」
クリフトは引き気味に言った。
―――行くしかないだろう。そうしないと、後からあの探偵に何を言われるか分かったもんじゃない。
「しょうがねえ、巻き込まれてやるか」
何故に少女ばかりが登場するのかと今更ながら疑問に思いました。『女の子』ではなく『女性』でも良いだろう、と。反省。




