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white snow  作者:
the innocent boy
33/60

she-devil srecollects a memory when she was...

 少女は憶えていた。―――何を? 自分が生まれる前のことをだ。

 少女はかつて一国を治めていた女帝だった。彼女―――フローラ―――には常に忠実な兵士がいる。決して彼女を裏切らない兵士……だった。

 何かがおかしい。

 フローラは困惑していた。

 絶対に裏切らないはずの兵士は自分を見捨てた。生き残るはずだった彼は醜く生きるより自害を選んだ。外の世界を知った青年は己が殺されることに何の疑問も抱かなかった。いや、分かっていて自らの死を選んだのかもしれない。そして何より、いつもならすでに帰って来ているのに、西村春子の元へと送り出した少年は一向に帰って来る様子がない。

 「世界の秩序が失われてきておるのか……」

 フローラは少女らしくない口調で呟いた。








 もう秋の半ばだというのに、朝の太陽は遠慮というものを知らない。何なんだ、この殺人的な日差しは。

 直射日光に嫌々ながらも起こされたヒバリは悪態をついた。彼は朝に弱い人間ではないのだが、それでも睡眠の邪魔をされるのは許せないらしい。彼は日の当らない場所に移動し、二度寝しようとする。だが―――。

 「まじかよ……」

 ヒバリは舌打ちする。目の前にはすやすやと眠る少年がいた。

 ヒバリは二度寝するのを諦めた。いくら歳が離れているとはいえ、野郎ヤロウと寝る気はさらさら無い。彼は知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。俺より年上の美女だったら大歓迎なんだけどな、と。

 ―――朝からカップラーメンはマズイよな。

 いくら同居人の性別が残念でも、体調管理はしてやらないといけない。それが最低限の―――無理矢理押し付けられた身としての―――責任だと思う。

 これまで自堕落な生活を送ってきたヒバリも一応料理は作れるのだが、自分一人のために手間をかけて作ることはしない。よって、冷蔵庫の中に食材は存在しなかった。

 「何か買ってくるか……」

 面倒くせぇ、と文句を言いながらもヒバリは家を出た―――。









 家に帰ると、そこには不貞腐れた少年がいた。クリフトだ。

 「……どうしたんだ?」

 ヒバリは条件反射で思わず訊いてしまった。クリフトは不服そうに「どうして僕も連れて行ってくれなかったの?」と言った。

 「どうしてって、お前が気持ち良さそうに寝てたからだろ。わざわざ起こすの悪いし」

 実のところは違うのだが。本当は、起こすのが面倒臭くて放っておいたのだ。するとクリフトは非難めいた目を向けながら「次からはちゃんと起こしてよね」と念を押す。ヒバリは曖昧な返事をして朝食の準備に取り掛かった。と言っても、ご飯やみそ汁を作るとさらに時間がかかる。すぐ食べれるものにしなければ。

 「何か食べたいものあるか? あんまり凝ったものは作れないけどな」

 クリフトは首を横に振った。「何でもいいよ。『メグリヤ』が作ってくれるなら」

 ―――ずっと疑問に思っていたのだが。

 「なあ、『メグリヤ』って誰?」

 度々会話に出てくる単語。恐らく日本人名の『巡矢』だと思うのだが。

 クリフトは一瞬驚いたようにヒバリを見て、どこか哀しげに俯いた。

 「そっか。憶えていないんだね……」

 「? ああ。―――悪いな」

 何故だか謝らなければならないような気がした。そんなヒバリの思いを余所に、クリフトは台所へとやってくる。その頃にはすでに、人懐っこい笑顔を浮かべていた。

 「あっ、これ知ってる! ミソでしょう? 日本で有名な」

 「有名かどうかは不明だが、まあ日本人には欠かせないものだな」

 その時、電話が鳴った。ヒバリは近くに置いてあった子機を取る。

 「もしもし?」

 『あ、ヒバリですね』

 「その声はすばる兄さん? どうしたんだ?」

 『さっそく仕事が来ましたよ。そっちに連絡入ってます?』

 「いいや、初耳だ」

 『それじゃあ、午前十時に桜木事務所に来てください』

 「分かった。じゃあな」

 電話を切る。やはりと言うか何と言うか、クリフトは興味津々「どうしたの?」と訊いてきた。

 「仕事だ。十時にはここを出る」

 「ヒバリの仕事って、サクラの手伝いをすることだよね! 探偵の仕事かぁ~、どんなことするんだろう」

 「お前も来るか?」

 「えっ、いいの?! 邪魔にならない?」

 目をきらきらさせて身を乗り出すクリフト。溜息が出そうになるのを抑えて、ヒバリは頷いた。

 「ありがとうっ、ヒバリ!!」

 クリフトはぎゅっとヒバリに抱きついた。

 「分かった、分かったから離れろ!」

 好奇心旺盛という言葉はこいつ―――クリフト―――のためにあるに違いないと思ったヒバリだった。

 

 

 

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