my name is Clift.
「それで? 僕にどうしろと言うんだ」
サクラは冷めた目を向けた。……まあ、そういう反応になるだろうな。
「だから、こいつをどうにかしてくれ」
ヒバリの隣には、物珍しげに事務所内を見渡す少年の姿があった。ヒバリが一瞥くれると、少年と目が合った。彼はヒバリを見ると、大きなアーモンド型の目を細めて無邪気に笑う。サクラは溜息をついた。
「どうにもできない。拾って来たのはお前だろ、お前が何とかしろ」
「変な言い草をつけるなよ。拾ってきたんじゃない、勝手について来たんだ」
まあまあ、とすばるが二人を宥める。「来てしまったものは仕方ないですよ。彼の身元を調べてご両親にお返しするのが一番かと」
「それもそうだな。―――ミーナ、できるか?」
「もちろん!」
ミーナは胸を張って答えると、すぐさま作業に取り掛かった。すばるより正確さは欠けるが、ヒバリのように面倒がらないところが彼女の良いところだとサクラは内心思っている。
「ねえ、君」
ミーナは振り返って少年に訊く。「名前は何て言うの?」
少年は大きなアーモンド型の目をぱちぱちさせ、不思議そうに首を傾げる。彼は日本語に精通していないのだ。ミーナが言ったことをすばるが英語に訳すと、彼は「なるほど!」と納得した表情を浮かべた。
「クリス」
少年はぽつりと呟く。
―――それは、遠い昔の記憶に存在する名前だった。僕は自分の名前を知らない。かつての僕は『クリスチアナ』であり、『斉木』でもあったということを覚えている。
僕には二つ前世があった。先程挙げた二つの名は、どちらも僕の前世だった人の名前だ。けれど、僕が憶えているのはそこまでだった。彼らがどのように生きていたかまでは分からない。
膨大な量の記憶は脳に障害を与えると言われている。それを防ぐためなのかどうかは知らないが、僕が憶えている『彼ら』に関する記憶は断片的なものでしかなく、しかも曖昧だ。簡単に言えば、プロフィールを見ているようなものだ。
外の世界。僕は何もかも失った。
白い雪。常識が通用しない狂った場所で、それでも僕は生きていた。
ずっと思い出せなかった。何も思い出せないまま、僕らは同じことを繰り返していた。
点と点と点の世界。棒のように真っ直ぐではなく繋がっていないからこそ何度も何度も発生する現象、『生まれ変わり』。
「**? *****?」
ミーナと呼ばれている人が身ぶり手ぶりで何か尋ねてきた。その動きから察するに、「何て言ったの?」とでも言ったのだろう。
僕は咄嗟に思いついた名前を口にした。
「僕、クリフトって言うんだ」




