表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
white snow  作者:
Kazuya Saiki (a preface)
PR
3/60

the man left a sick room is he.


 「どこに行く気だ? 斉木」

 振り返ると、そこには帰ったはずの陣内がいた。彼は不機嫌そうにこちらを睨んでいる。

 「どこって……。ちょっと散歩に」

 「真夜中に散歩する病人がどこにいる? そいつは病人ではなくただの不審者だ。このことからするに、お前は不審者なんだろう?」

 「病院内で点滴を腕につけて、迷いもせずに正しいルートを歩く不審者なんていない。もしいたとしたら、それはただの患者だ。つまり僕は患者だ」

 僕が反論すると陣内は不服そうに顔を顰めた。「お前の言うことは間違っている」

 「え?」

 何か間違っていることなどあっただろうか。

 「お前は患者じゃない。ただの患者だ」

 陣内は『ただの』を強調して言った。屁理屈にも程がある。

 「それで、どこに行こうとしていたんだ?」

 どうやら嘘は通じないらしい。僕は観念して言った。「外に」

 「外?」

 陣内は意外そうに訊き返した。僕は頷いた。彼は暫く考え事をするように腕を組んだ後、真面目に言い放った。それは至極まともな意見だった。彼にしては珍しい。

 「点滴をつけたまま、その見ているだけでも寒そうな格好で真冬の外にダイブするのか?」

 そうするしかないだろうと僕が言うと、陣内は笑った。

 「お前はチャレンジャーだ、斉木。よしっ、俺がお前の未来を予想してやろう。お前は明日、確実に死んでいる」

 「死因は?」

 「凍死だ」

 僕らは笑いが堪え切れなくなりそうだった。彼にコートを貸してもらい、僕は彼と一緒に外に出た。そして思い知る。ここで彼に出会わなかったら、僕は確実に凍死していただろう。

 「どうしてここに?」

 まだ残っているのだと尋ねる。

 「何となくだ。今日お前を見舞った時、何となくだがお前が外の世界に憧れているように見えた。ただでさえ死にそうなお前が外になんか出てみろ。一瞬であの世行きだ」

 「けれど、僕はまだ生きている」

 「それは俺のおかげだ。ありがたく思えよ?」

 そして、僕たちは笑い転げた。心の底から笑ったのは久しぶりだった。友人とはいいものだなと老人のようなセリフが頭を掠める。けれどそれを口にするのは恥ずかしかったから、僕は何も言わなかった。彼に爆笑されるのがオチだ。

 「陣内、頼みがあるんだけど」

 「何だ?」

 目に涙を浮かべて腹を抱える陣内。

 「僕をここから出してくれ」





 『諦めるのか?』

 もう顔すら覚えていない。しかし、しわがれた声をしたその人は僕に向かって話しかけた。

 『諦めるというのはな。死ぬということじゃ』





 「出る? お前が?」

 冗談じゃない、と陣内の表情は物語っていた。

 「だけど陣内。僕はもう嫌なんだ」

 この閉鎖された空間で生きるのは。

 「―――お前の気持ちは分かるが。俺は医者じゃない。医者じゃない俺にはゴーサインを出すことができない」

 「分かっている。誰にでもいい、ただ言っておきたかったんだ」

 僕は言葉を切った。深く息を吸った。雪は僕を嘲笑うかのようにひらひらと舞っていた。

 「僕はここから出ていくよ」

 遠くの方に照明弾の光が見えた。倒壊しかけた高層ビルが見えた。ヘリコプターは真っ暗なステージで喧しく踊る。

 寿命が縮まってもいい。後一年だろうと、半年だろうと、明日死んだって構わない。僕はこの目で現実を見たかった。この終末的な世界を―――。







 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ