a she-devil and an executioner
インターホンが鳴る。
西村はびくりと肩を上下させた。落ちついて、とヒバリが宥める。西村はそれに従い、深呼吸した。幾分か気持ちが落ち着く。彼女は思い切ってインターホンに出た。
「はい、西村ですが」
声は少女でなかった。それでも西村は後ろを振り返り、監視カメラの映像を見る。サクラは頷ずいた。頷くことによって、来訪者が例の子供でないことを知らせる。西村は安堵のため息を零し、やや明るくなった声で「美容院は休みです」と言った。
―――何だ、ただの客か。
拍子抜けしたサクラはくるりとモニターに背を向けた。その時サクラの視界に入ったのは、彼女の驚愕の表情だった。
「どうした?」
西村の呼吸のリズムは乱れている。運動不足の人が全力で百メートルを走った時のようだ。彼女は途切れ途切れに言った。
「魔女の手下が……!」
「手下?」
ドラ○エとかに出てくるモンスターみたいな奴?
ミーナは目を凝らしてモニターを見る。だが、そこに映っていたのは十五、六の男の子だ。金髪に青い瞳、端麗な容姿。
「ハロー、エブリバディ」
少年ははにかむように笑った。
「アー ユー ミズ ニシムラ?」
ミーナは西村を見やる。彼女は恐怖に震えていた。
『あの子』が初めて西村のところにやって来たのは雪解けの季節だった。
「あなたはいつも、私のことを『化け物』と呼んでいるわよね」
彼女が着ていたのはいつも通り、オーバーオール………ではなく、真っ黒なワンピースだった。珍しく帽子を目深に被り、ヒールのある靴を履いている。どちらも黒一色だった。
『歳を取らない化け物』。
西村は何度となく客からその噂を聞いていた。栗色の髪、青い目、流暢な日本語を話す異国の子供。 大人顔負けの物言いに、子供らしくない表情。彼女の親らしき人を見た者はまだ誰もいないと言う。得体の知れない何かがあった。それらが住民に恐怖を植え付けて行ったのではないか。
「だって、あなたは『魔女』じゃないッ……!」
西村も例外ではなかった。
この国には、警察とは別に治安を守るためのものがある。政府によって作られた組織、『LEC』だ。LECは遠い昔から存在している組織で、知らぬ者などいない。西村も小学生の時に習った。
「Hello,Ms.Nishimura.Could you enjoy for only the time required left? (こんにちは、西村さん。残された時間を楽しむことはできたかい?)」
少年は流暢な英語で喋った。先程のように親切な言い方ではなかったので、ミーナは彼が何を言っているのか分からなかったが、サクラたちは険しい表情でモニターを凝視していた。それは西村も同じで。
―――『執行人』。
西村は思考が停止し始めた脳をフル回転させ、そこまで考えるに至った。
『執行人』がやって来たのだ。
「ねえ、『執行人』って何?」
ミーナは振り返って尋ねた。すると、サクラは信じられないと言ったようにミーナを見る。
「知らないのか?」
「うん」
「小学校で習っただろう」
「小学生だった時のことなんて、覚えていないよ」
サクラは深い溜息をついた。先が思いやられる。
「LECに与えられた役割はいくつかある。『執行人』はその一つだ」
一つは、治安を管理するための『魔女』。正義を貫き、それでいて冷静な判断のできる人物が国民の中から抜粋される。年齢、容姿、学歴を問わない。だが、その名前の通り女性しか『魔女』になることはできないのだ。
「反対に、『執行人』は男しか選ばれない。理由は分からないがな」
執行人は魔女が選んだ『罪』を罰する権利を持っている。
「『魔女』が正義の象徴だとするのなら、『執行人』は悪の象徴だ」
その執行人が、壁越しにいる―――。ミーナは思わず身震いをした。
「帰るぞ」
サクラはすばるたちに機材を片づけるよう命令した。
「彼女が恐れていた子供が『魔女』だと分かった以上、僕たちの出る幕はない」
LECの活動を邪魔することは何人たりとも許されないのだ―――。




