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white snow  作者:
the innocent boy
27/60

at that time,then.

この回にはサクラたちの出番が一切ありません。作者は脇役好きなのです。……すみません、これから気をつけます(-_-;)



 日差しの眩しさに目が覚めた。昨夜まで冷たかったコンクリートの床がやや熱を帯びている。この牢獄に、当然時計というものは存在しなかった。ぼくはただひたすら彼女が来てくれるのを待っていた。名どころか顔すら知らない子だったが、不思議と彼女を信用することはできる。彼女の子供らしくない言動がぼくにそう思わせるのかもしれなかった。

 「驚いた。意外に早起きなのね」

 そう言って肩を竦める彼女はさほど驚いていない。昨日とは一転変わって、白いワンピースを着ていた。なぜだか息苦しいこの牢獄の中で明るい色を見るのは久しぶりで、何より新鮮だった。

 「一つ訊きたいんだけど」ぼくは錠前を外そうとしている少女に尋ねた。

 「君は一体何者だ?」

 少女はくすりと笑う。「冴えないことを訊くのね」

 冴えないこと、確かにそうかもしれない。あんまりな愚問を投げつけたことに恥ずかしくなり、ぼくは俯いた。

 「今はまだ分からないかもしれないけれど」

 彼女は懺悔をするかのように言った。

 「外に出れば、いずれ思い出せるわ」

 それから彼女は色々なことを教えてくれた。彼女の名前、僕自身のこと、この場所のこと、そして―――。

 「魔女?」

 信じるべきなのか、疑うべきなのか。その気持ちが声に出てしまったのだろう、彼女は冷ややかな視線をぼくに寄こした。「やっぱり、信じないのね」

 綺麗な青い瞳。彼女が振り返った瞬間、それはよりいっそう深まったように見えた。多分、光の加減だろう。

 彼女はどこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。十歳前後の女の子だなんて、とても思えなかった。

 すると、彼女は呆然としているぼくを黙って見ていることに耐えられなくなったのか、楽しそうに笑い始める。彼女は自分の歳を告げた。「とてもそうには見えないでしょう?」

 だから、私は魔女と呼ばれるの。

 彼女の表情に影が覆った。ただし、それは一瞬のこと。次に見た時には掴みどころのない飄々とした表情に戻っていた。

 「これでも私はまだマシで、何より良い魔女なのよ。人に危害を加えないもの」

 歌うように言う。だがその声は、悲しそうだった。彼女はそれに気付いていない。

 彼女はまるで世界の終わりを目にしたかのように。

 「この世界には、私以外にもう一人の魔女がいる。彼女は醜悪で、冷酷よ」

 記憶が浮上する。

 『****!!』

 ぼくは声の出る限り叫んでいた、目の前にいる人物に向かって。その様子からするに、殺したいほど憎んでいたのだろう。

 足元には人が横たわっている。とても愛おしく、かけがえのないもの。それなのに、それが誰なのか分からない。もどかしさを感じた。分からないものほど、もどかしいものはない。

 そこで映像は途切れた―――。

 「思い出してきた?」

 ぼくは頷く。だが、記憶はあまりはっきりしていない。靄がかかったように不透明だ。

 







 「具合はどうだ?」

 背の高い男は椅子をこちらに引き寄せて座った。

 「良いとは言い難いね」

 「悪くはないんだな?」

 雪が降っている。彼らは留まることを知らない。

 彼らはまるで旅人だ。世界中を巡ることができる。

 僕は彼らのようになりたかった。異郷の地に舞い降り、そして消えていく。儚い命を惜しむ間もなく消える彼らに僕は、強烈に憧れた。

 ―――魔女。僕らはいつも彼女に囚われていた。

 『運命は変えられぬ。お主がどれほど足掻こうと、連鎖は断ち切れぬのだ』

 あの女の声が頭から離れない。甲高く、それでいて傲慢な声。きっとどこかにいる。この世界のどこかに。

 「どうした?」

 心配そうに尋ねてくる声に、僕ははっとした。

 「―――何でもないよ」

 『魔女』。あんたは今どこにいる?

 




 「ボクのものになってよ」





 自らを『ボク』と呼ぶ少女。彼女の手にはナイフが握られていた。僕はもう何も驚きはしなかった。安易に希望を信じるには、何もかも遅過ぎた。

 彼女は妖艶な笑みを浮かべる。

 「君はいつまでもボクの所有物であるべきなんだ」

 鋭く光る刀身。

 彼女の目には何が映っているのだろう。僕にはもう分かっていた。瞳の奥で暗く輝いているもの、それは狂気だ。

 「君が『魔女』だったのか」

 「そうだよ」

 「君がそうまでして望むものは何だ」

 彼女はクククッと笑う。―――僕が最も嫌いだった、あの笑い方は。

 「望むものなんて、ないよ。ボクはボクでありさえすればいいんだ。さよならは言わない、だから安心して。今から君はボクの手によって死ぬけれど、永遠の死にはならない。いや、させない。……ボクはね、人が希望を失っていくのを見るのが大好きなんだ。だけど絶望まではさせない。諦めさせるなんて論外だ。ボクは人がもがき苦しむところが見たいんだよ。―――君が世界に絶望しないように、ボクがちゃんと記憶を消してあげる」

 初めて彼女を可哀相な人だと思ったのは、いつだったのか。あまりにも記憶が薄すぎて、僕は思い出せなかった。

 視界が赤く染まる。それはやがて黒ずんでいった。彼女の高笑いが遠くの方で聞こえる。この世界はいつ終わるのだろう。


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