the girl
サクラと喧嘩し探偵事務所に戻らされたミーナは何とか彼と仲直りし、現場復帰することになった。ミーナの二人の兄はそれを知らせにやって来たのだと言う。
「それで、あれからどうなったの?」
監視カメラを取り付けたところまでは知っているが、ミーナはそれ以上のことを知らない。すると、サクラは無言で黒い革の鞄からクリアファイルを取りだし、ミーナに渡した。中にはクリップで止められた数枚の紙があった。一枚は、監視カメラの映像をプリントアウトしたものである。そこには十歳前後だろうか、少女の姿が映っていた。栗色のショートヘアにオーバーオールというラフな格好だ。
西村の美容院が元々人通りが少ないところに建っているせいか、付近の道を通る人は少なかった。いたとしても、仕事帰りのサラリーマンばかりである。子供が来る気配はまったくない。今日はもう止めよう、とサクラが言おうとしたその時。
『あっ……』
西村は思わず声を上げた。
『見覚えがあるのですね?』
サクラが確認を取ると、西村は強く頷いた。『この子です、間違いありません』
映像の中の少女は、美容院など存在していないと言うかのように目の前を通り過ぎて行く。いや、もしかしたらサクラたちが来ていることに勘づいているのかもしれない。
「ねえ、この資料は誰が揃えたの? まさか、ヒバリじゃないよね……?」
「何だよ、俺が作っちゃ駄目なのかよ」
ヒバリは特に落胆するわけでもなく、愉快そうに言った。
ヒバリはサクラに引けず劣らずマイペースだった。気が向かない時の彼が作成する資料は、こちらが呆れるほどいい加減なものに仕上がる。
すると、サクラは「まさか」と言うように肩を竦めた。「その資料はすばるが作ったものだ」
それを聞き、ミーナは幾分か安心した。すばるはいい加減なことなどしない。完璧と言っても過言ではないはずだが、それでもやはり欠落した部分はあった。彼は真面目過ぎるのだ。反面、ヒバリはのらりくらりと生き、面倒事を回避している。二人を足して二で割ったらちょうどいい感じになるのでは、とミーナはいつも思っていた。
ミーナは何となく、というようにページを捲る。するとそこには、にわかには信じられないことが書いてあった。
「『歳を取らない少女』……?」
そんな馬鹿な。
ミーナは呆気に取られた。歳を取らないなんてことはありえない。
生物である限り、死の影は付きまとう。
サクラも同じことを考えていたようで、一蹴するかのように冷笑した。
「あくまでそれはただの噂だ、信じるなよ。噂は噂でしかない」
「確かに。本当に歳を取らないんだったら、この子は一生赤ん坊のままだ」
ヒバリは冗談なのか本気で言っているのかよく分からない調子で言う。その間にも、すばるは淡々と情報集めをしていた。
「ヒバリもすばる兄さんを見習ったら?」
ミーナが呆れて指摘した。
「すばる兄さんはすばる兄さん、俺は俺。それより、どうして俺に対しては呼び捨てなんだ?」
「お前がいい加減な仕事をするからだろ」
ミーナが言う前に、デスクワークをしていたサクラが冷たく言い放った。
「はいはい、分かりました。やりますよ」
ヒバリは肩を竦め、『噂』を調べに行った―――。




