at least, the boy didn't ask for her help.
彼は自分が暗い場所にいることに気付いた。震えるほど寒いわけではないが、肌寒さは感じる。闇に慣れ、夜目が利いてきた頃、彼はふと思った。
―――どこだろう、ここは。
辺りを見渡すが、これと言ったものはない。バーコードのようなものが視界のほぼ全てを占めているのは確かだが。
彼は特に何を考えるわけでもなく、それに触れてみた。―――冷たい。
顔を上げてみる。ほぼ真上を見たと言ってもいい位置に小さな窓があった。光源はそこだけである。と、言っても。
月はどこかに追いやられてしまったように、ここにいること自体が間違っていたと言うかのように、雲の隙間から顔を出すだけだ。彼は暫くの間それを眺めていたのだが、直に飽きてしまった。再び辺りを見て、彼は溜息をついた。出口と思わしきもの―――扉―――は封鎖されている。どうやらここから出ることはできないらしい。最悪なことに、彼は自分がなぜこんな状況に置かれているのか分からなかった。
誰もいない。尋ねようがない。早々に考えることを放棄しようとしたその時、近くで物音がした。
「誰?」
その一点だけが他の部分より濃く見える。それは子供の人影だった。
「気分はどう?」
十歳前後の女の子だ。彼女は料理が乗ったプレートを置き、一品ずつ檻の向こう側へ送る。
「人がいることにほっとしたところだよ。―――君が看守なのかい?」
すると、少女はくすりと笑った。
「まさか。ここは牢屋ではあるけれど、罪人を閉じ込めておくところではないわ」
「でも、現にぼくはここに閉じ込められている」
彼は肩を竦めて言った。すると、少女は落胆したような顔をした。
「……やっぱり前後の記憶だけが抜け落ちることになってしまうのね」
彼は違和感を覚えた。『やっぱり』? こういうことは何度も起こっているのか?
少女は一旦深く深呼吸をした後、話を続けた。投げやりな言い方だった。
「あなたがあなたでいられる時間はとても短い。どれだけ私があなたのことを話しても、あなたは全て忘れてしまう。それが運命なのかと思ったことはあるけれど、そんなの絶対に認めない」
彼女は微笑んだ。悲しそうな笑顔だった。ぼくはこの光景をどこかで見たような気がした。一度どころか、もっと何回も見ていたはずだ。けれど、どうしても思い出せなかった。そんなことはなかったのかもしれない。
どうにも記憶があやふやだった。自分が誰なのかは分かるけど、どうしてこんなところにいるのか分からない。彼女の言っていることも分からない。
「終わらないことなんてないよ。終わりがあるから始まりはあるの」
彼女は唐突に言った。
「明日、ここから出してあげる。……そう言えば、大丈夫だった?」
「?」
「……ううん、何でもない」
彼女は「またね」と言った後、ぼくの名を言った―――。




