he talks as if he knows everything.
私たちが西村さんに案内された場所は、古めかしい洋館のような建物だった。
「あの……ここが本当に美容院なんですかね?」
私は思わず訊いてしまった。すると、西村さんはさも当然のように「ええ、そうよ」と答えた。
「ここは私が祖母からもらった建物なの。一階で美容院をやっていて、私は上の階に住んでいるわ」
「シックな感じがしていいところですね」
夜になったら少し怖いけど、と心の中で続ける。それにしても、よくこんな不気味な―――いや、明治時代に建てられた屋敷みたいなところに来る勇気があるなぁ、その子供。
「中を拝見しても?」
サクラは西村さんを見て言った。
「ええ、もちろん。……と言っても、今日は定休日ですから誰もいませんけどね」
「構わない。むしろ、誰もいないほうが好都合だ。ミーナ、監視カメラを設置できたか?」
ええ? ちょっと早過ぎでしょ。まだ一台しか取り付けてないんですけど。
すると、サクラは不機嫌そうに顔を顰めて「早くしろ」と言った。こういうエラソーなところがなかったら、サクラは普通に可愛い子供なんだけどね。
「推理小説の被害者ってさ、よく『殺さないでくれ!』って叫ぶけど、どうせ殺されるのにそれを言う必要はあるのか?」
ヒバリは兄のすばるに尋ねる。
「ありません」
すばるはきっぱりと言い切った。
「けれど、言わずにはいられないというのが本当のところでしょうね。もしかしたら何とかなるかもしれない、彼らはその可能性を信じていたいのだと思います」
「すばる兄さん、俺たちは……」
「―――どうかしたしたのですか、ヒバリ?」
「……」
ふいに脳裏にかすめた、断片的な記憶。断ち切れぬ連鎖、息苦しい世界の雪、そして古城。どれも覚えのない記憶だ。幼い時に見聞きしたのだろうか? すばる兄さんなら知っているかもしれない。
だが、それらは雲を掴むようにヒバリの手からすり抜けて行く。すばるに問おうとした時はすでに、記憶は曖昧になっていた。
ヒバリは首を横に振った。
「いいや、やっぱ何でもない」
私は今、非常に憂鬱な気分だった。
右手に握りしめている携帯を、五分に一度―――いや、一分に一度は構っているだろう。
私は探偵事務所の中でひたすらメールの返信を待っていた。不安でしかたない。どうなるか分かっていたのだけれど……予想外の言葉が返ってきたものだから、覚悟していた事態よりも悪化してしまったのだ。
『サクラは普通に可愛い子供なんだけどね』。
その一言を―――よりによって、その部分だけを―――私はうっかり声に出してしまったらしい。それに反応したサクラが私に対しての皮肉を言い、負けじと私も言い返す。数分の口論の挙句、最終的にサクラは不機嫌を通り越し、怒りの余り一言も喋らなくなった。邪魔だと言うかのように追い払われてしまった次第だ。
エラソーだけど、所詮子供だ。子供だから、年上の私より劣っている。―――私は浮かれていたのかもしれない。
メールには、『ごめん』とだけ打った。それ以外に言う言葉が見つからなかったし、あったとしても言い訳じみているような気がしたから止めた。
再び携帯を開く。新着メールは来ていない。画面の中央ではミ○キーと○ニーが笑ってこちらを向いている。
お気に入りだったはずの待ち受け画面。今はそれを見るのが辛い。
「随分とお悩みのようですね、ミーナ」
フッと背後から現れたのはすばるだった。
「そう見える? ―――すばる兄さん」
彼は頷く。すると、今度はヒバリがやって来た。
「ミーナは分かりやすいんだ、落ち込んでる時なんかは特に」
ヒバリは愉快そうに笑う。
「『失敗は成功のもと』。何がいけなかったのかきちんと反省して、彼に謝るんだな」
「同じ過ちを繰り返さないように気をつけることも大切です」
優しい顔をして厳しいことを言う。……それにしても。いつの間に、何の用があってここに来たのか。私が問い質すと、ヒバリは「お前の上司に駆り出されたんだ。まったく、人使いが荒い奴だな」と溜息交じりに言った。
「そういう人なのよ、あいつは」
人の身内までコキ使うなんて。呆れるにもほどがある。
その時、携帯が震えた。私は飛びつくように画面に見入る。新着メールが一件。タイトルなし。本文にはたったの一行。
『言い過ぎた。悪かったな』
発信者は、あなたのご想像にお任せする。プライドという名の服を着て深紅のカーペットを歩いているような奴が発信者だとはお釈迦様も思うまい。




