表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
white snow  作者:
the innocent boy
23/60

he talks as if he knows everything.


 私たちが西村さんに案内された場所は、古めかしい洋館のような建物だった。

 「あの……ここが本当に美容院なんですかね?」

 私は思わず訊いてしまった。すると、西村さんはさも当然のように「ええ、そうよ」と答えた。

 「ここは私が祖母からもらった建物なの。一階で美容院をやっていて、私は上の階に住んでいるわ」

 「シックな感じがしていいところですね」

 夜になったら少し怖いけど、と心の中で続ける。それにしても、よくこんな不気味な―――いや、明治時代に建てられた屋敷みたいなところに来る勇気があるなぁ、その子供。

 「中を拝見しても?」

 サクラは西村さんを見て言った。

 「ええ、もちろん。……と言っても、今日は定休日ですから誰もいませんけどね」

 「構わない。むしろ、誰もいないほうが好都合だ。ミーナ、監視カメラを設置できたか?」

 ええ? ちょっと早過ぎでしょ。まだ一台しか取り付けてないんですけど。

 すると、サクラは不機嫌そうに顔を顰めて「早くしろ」と言った。こういうエラソーなところがなかったら、サクラは普通に可愛い子供なんだけどね。

 







 

 「推理小説の被害者ってさ、よく『殺さないでくれ!』って叫ぶけど、どうせ殺されるのにそれを言う必要はあるのか?」

 ヒバリは兄のすばるに尋ねる。

 「ありません」

 すばるはきっぱりと言い切った。

 「けれど、言わずにはいられないというのが本当のところでしょうね。もしかしたら何とかなるかもしれない、彼らはその可能性を信じていたいのだと思います」

 「すばる兄さん、俺たちは……」

 「―――どうかしたしたのですか、ヒバリ?」

 「……」

 ふいに脳裏にかすめた、断片的な記憶。断ち切れぬ連鎖、息苦しい世界の雪、そして古城。どれも覚えのない記憶だ。幼い時に見聞きしたのだろうか? すばる兄さんなら知っているかもしれない。

 だが、それらは雲を掴むようにヒバリの手からすり抜けて行く。すばるに問おうとした時はすでに、記憶は曖昧になっていた。

 ヒバリは首を横に振った。

 「いいや、やっぱ何でもない」

 

 







 私は今、非常に憂鬱な気分だった。

 右手に握りしめている携帯を、五分に一度―――いや、一分に一度は構っているだろう。

 私は探偵事務所の中でひたすらメールの返信を待っていた。不安でしかたない。どうなるか分かっていたのだけれど……予想外の言葉が返ってきたものだから、覚悟していた事態よりも悪化してしまったのだ。

 『サクラは普通に可愛い子供なんだけどね』。

 その一言を―――よりによって、その部分だけを―――私はうっかり声に出してしまったらしい。それに反応したサクラが私に対しての皮肉を言い、負けじと私も言い返す。数分の口論の挙句、最終的にサクラは不機嫌を通り越し、怒りの余り一言も喋らなくなった。邪魔だと言うかのように追い払われてしまった次第だ。

 エラソーだけど、所詮子供だ。子供だから、年上の私より劣っている。―――私は浮かれていたのかもしれない。

 メールには、『ごめん』とだけ打った。それ以外に言う言葉が見つからなかったし、あったとしても言い訳じみているような気がしたから止めた。

 再び携帯を開く。新着メールは来ていない。画面の中央ではミ○キーと○ニーが笑ってこちらを向いている。

 お気に入りだったはずの待ち受け画面。今はそれを見るのが辛い。

 「随分とお悩みのようですね、ミーナ」

 フッと背後から現れたのはすばるだった。

 「そう見える? ―――すばる兄さん」

 彼は頷く。すると、今度はヒバリがやって来た。

 「ミーナは分かりやすいんだ、落ち込んでる時なんかは特に」

 ヒバリは愉快そうに笑う。

 「『失敗は成功のもと』。何がいけなかったのかきちんと反省して、彼に謝るんだな」

 「同じ過ちを繰り返さないように気をつけることも大切です」

 優しい顔をして厳しいことを言う。……それにしても。いつの間に、何の用があってここに来たのか。私が問い質すと、ヒバリは「お前の上司に駆り出されたんだ。まったく、人使いが荒い奴だな」と溜息交じりに言った。

 「そういう人なのよ、あいつは」

 人の身内までコキ使うなんて。呆れるにもほどがある。

 その時、携帯が震えた。私は飛びつくように画面に見入る。新着メールが一件。タイトルなし。本文にはたったの一行。




 『言い過ぎた。悪かったな』





 発信者は、あなたのご想像にお任せする。プライドという名の服を着て深紅のカーペットを歩いているような奴が発信者だとはお釈迦様も思うまい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ