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主人公が替わります。途中からファンタジー要素が出てきます。ファンタジーが駄目な方、主人公交代が駄目な方は今すぐ逃げてください。
「なあ、推理小説の被害者ってさ、よく『殺さないでくれ!』って叫ぶけどよ」
ヒバリは手にしている単行本から顔を上げて言った。
「どうせ殺されるのに、それを言う必要はあるのか?」
私、霧島美衣奈はとんでもなく困っていた。なぜなら―――。
「いい加減にしてくれませんか。お客様が来ていますよ」
応接セットのソファに腰をかけているのはやや俯きがちな女性。彼女の長い黒髪は重力に従っているため、その様はまるで『サダコ』のようである。
そして、向かいに座っているのは我が探偵事務所の中で最も偉き探偵様―――これはほぼ嫌味。実際に敬っているわけでは全然ないので、誤解しないように!―――サクラだ。サクラはふんぞり返ってこそいないが、有難き客人を空気のようにしか認識していないのは確かだ。
「あの、私……。ご迷惑なようなので、帰ります……」
名も知らない客人、通称『サダコ』さんはあくまで控えめに―――しかし、明らかにうんざりしたような様子で探偵事務所の扉に手をかける。
「すみません、すぐにこいつをこっちの世界に引き戻しますので少々お待ちいただけますか。―――サクラ!」
本を読むことに熱中しているサクラを引き戻すのは大変な苦労を要する。
「お困り事がある客人がいらっしゃっていますよ!」
……正しい敬語の使い方かどうか怪しいな、私の喋り方は。
すると、サクラは眉間に皺を寄せて顔を上げた。
「その呼び方は止めろって言っているだろ」
「はいはい、分かりましたよ『桜木』さん。それより、仕事をしてください」
「………ちっ」
―――この人、今舌打ちしませんでした? 私の気のせいだよね? うん、きっとそうだ。そうに違いない。
「それで?」
サクラは渋々といった様子で読みかけの本を閉じ、サダコさんに声をかけた。サダコさんはいきなりのことに「え?」と当初の目的も忘れ、困惑気味である。
「だから、何の用があってここに来たんだと訊いている」
おい、あんたなぁ……。私は溜息が出そうになった。何なんだ、その偉そうな態度は。言っとくけどね、あんたが給料を払うんじゃないよ。まあ確かに私に給料を払うのはあんただけど、その金を払うのはサダコさんたちなんだからね!
「実は―――」
サダコさんはところどころつっかえながら話を始めた。要約すると、こうだ。
サダコさんの本名は『西村春子』。彼女は美容院を経営しているらしい。儲かるわけではないが、お金に困るほど収入がないわけでもない。つまり、そこそこやっていける程度には稼げているようだ。ところが最近、十歳前後の子供―――それも、近所の子ではないらしい―――が用もないのに美容院にやって来ては営業の邪魔をするようになった。
「失礼ですが、その子供に嫌われるようなことを何かなさいましたか?」
やっと探偵モードに戻ったサクラは西村さんに訊いた。……まったく、本を読むのはいいって聞いたことがあるけど、仕事中に趣味に没頭するのはどうかと思うね。
「いいえ。むしろ子供は好きです。嫌われるようなことをした覚えはありません」
「そうですか。では、とりあえず様子を見ましょう。まずはその子の心理を理解することが大切です」
私にはサクラの気も知れないけどね。だって、そう言うサクラもまだ子供なんだよ? 子供らしくないよねー、絶対。
「ミーナ」
サクラが呼んだ。はいはい、また何か雑用を押しつける気でしょ。
「機材を持って彼女の店に行くぞ」
だろうと思った。




