one wing engel
「イザベラ様っ!」
アレッシアはごくりと息を飲んで、ゆっくりとイザベラを見た。死体を発見したのはルイージャだった。
イザベラはうつ伏せで死んでいた。死体は五つの蝋燭に囲まれている。イザベラの背中はざっくりと切り開かれ、真っ赤に染まっていた。そこから白いものが垣間見える。
「アレッシア?!」
倒れるアレッシアを助けたのはキアラだった。キアラは異様な光景を見せつけられながらも、何とか平静を保っていられた。
|窓|
○ ○ | 机 |
|椅子|
○ イザベラ ○
○
|扉|
「ねえ、これを見て何か気付かない?」
誰もが慄く中、彼女はぽつりと言った。
「アーティ……。何かって、何だい?」
アーティはすたすたと死体に近付く。そして、座り込んだ。「蝋燭の配置だよ」
「蝋燭?」
「うん。ほら、よく見て。星の形をしていない?」
「ええ、確かに。でも反対向きよね?」
ルイージャが言った。この五芒星は正位置に置かれていない。
「一体誰がこんなことを……」
ヴィネは誰に言うわけでもなく呟いた。
「分かったわ!」
キアラは唐突に叫んだ。「イザベラ様を殺した犯人はきっとあの窓から入って来たのよ!」
「窓の鍵はちゃんとかかっていたわ。さっき確認したけれど、他の出入口も全て鍵がかけられていた。きっと、イザベラ様が戸締まりをしてくださっていたのだわ。……天に召される前に」
ルイージャは最後、俯いてしまった。彼女は声を押し殺して泣いていた。
「安らかに眠りたまえ」
彼女たちは十字を切った。アーティと斉木もそれを真似て十字を切る。
だが、アーティはそれだけで終わらなかった。
「これが自殺ってことじゃないことは分かるよね。だけど、本当に犯人は誰だったのかな」
「犯人なんか、今はどうでもいいでしょう?! 死者を前にそのようなことを言うべきではありません!」
ヴィネは堪え切れずに叫んだ。彼女は肩で呼吸していた。そうしなければならないほど、ヴィネは参っていたのだった。
「大丈夫? アレッシア」
僕は水の入ったコップを渡した。アレッシアは頷いた。
あれから、イザベラの死体を人目につかないよう別の場所に移動させた。床に飛び散った血の痕を消し、蝋燭をどけ、何事もなかったかのようにするには相当の労力を必要とした。掃除が終わった今、ルイージャとキアラは自室で休んでいるそうだ。尊敬していた修道長を失い、誰もかれもが平静さに欠けている。
「アレッシア、教えてくれ。正直なところ、『忌日』って何だ?」
「……その名の通りです。昨日も説明しましたよね? 災いがやってくるんですよ」
「災いって、具体的にどんな?」
アーティが訊く。彼女は首を横に振った。
「分かりません。私たちは何も知らないんです。ただ、昔からこの礼拝堂にはそういう決まり事みたいなものがあったんですよ。それに従い、私たちは今日まで生きてきました」
もしかしたら、とヴィネは言った。
「あの夜、イザベラ様は外に出てしまわれたのではないでしょうか」
―――だから、災いがその身に降りかかった。
その時、雷の音が轟いた。続いて空が暗くなる。雨の音が激しい。雷雨がやってきたのだ。修道女たちは驚きながらも、慌てて堂内の電気をつけ始めた。
「―――ヴィネ?」
彼女は身体を丸め、その場に縮こまっていた。
「わ、私、雷苦手なんです」
「へぇ~、知らなかった! ヴィネって案外怖がりなんだね!」
アーティは無邪気な笑顔を浮かべた―――。