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white snow  作者:
Kazuya Saiki (the angel became a devil in a church on Sunday afeternoon.)
16/60

in a church

 「イザベラ様っ!」

 前方から一人の修道女が駆けて来た。

 「何ですか、騒々しい。お客様の前ですよ」

 イザベラ様は表情を曇らせて彼女をたしなめた。

 「あっ……」

 修道女ははっとしたように僕らを見る。

 「失礼しました。どうぞ、ごゆっくり……」

 すごすごと帰って行く修道女に、構わないよとアーティが言った。「だって、急いでいるんでしょう?」

 「そうなのですか? ヴィネ」

 彼女の名はヴィネというらしい。彼女は頷いた。

 「はい、実は―――」

 ヴィネはイザベラ様に歩み寄り、小さな声で何かを告げた。イザベラ様は難しい顔つきになり、唇を噛みしめる。

 「分かりました、私が手を打っておきましょう。その代わりヴィネ、あなたは私の代わりにお客様をご案内して差し上げるのですよ。いいですね?」

 「はい、イザベラ様」

 








 「先程はどうされたのですか?」

 僕は彼女に尋ねた。

 「あ、いえ……。特にこれと言ったことはありません」

 目が宙を泳いでいる。ヴィネは嘘をつくのが下手だった。アーティがそれを指摘すると、彼女は頬を赤らめて「お二人は、神様を信じていますか?」と訊いた。つまり、信者かそうでないかと言いたいのだろう。だが正直なところ、僕はそのどちらでもない。どう答えるべきか考えていると、アーティが困ったようにしているのが見えた。けれどアーティはそれをそのまま口にした。

 「ボクは神様を信じているよ。でも、妄信的ではないな」

 「そうですか。そちらの方は―――?」

 「大丈夫だよ、ヴィネ。カズヤは日本人だ。日本人は無教徒だって聞いたことがあるよ」

 僕が答える前に、アーティが言ってくれた。

 「……そうですか。それなら話しても大丈夫ですね」

 彼女は周囲を見渡し、近くに誰もいないのを確認すると声を潜めて言った。

 「ここだけの話ですけど……。最近、物がよく盗まれるんです」

 「泥棒か」

 僕は思わず声に出してしまった。

 「ドロボウ?」

 アーティは不思議そうに―――気を使ったのか、小声で―――言葉を反芻する。発音は怪しかったが。

 「泥棒シーフのことだよ。日本語では『ドロボウ』と言うんだ」

 「分かった! だからヴィネは言いたくなかったんだね? ボクやカズヤみたいな人ばかりがいるわけではないから」

 すると、ヴィネは今にも溜息をつきそうな口調で言った。

 「礼拝堂は神聖な場所です。ここで盗みが働かれているなど知られたら、穢れ多き疑心が生まれてしまいます。ですから、私たちは内密に対策を立てねばならないのです。イザベラ様はこのことにとてもお悩みになっておられて……」

 「不躾な質問だけど、一体何を盗まれたの? 見たところ、盗まれそうなものは盗まれていないけれど」

 アーティが言う。

 ―――確かに。僕も不思議に思った。

 ヴィネはたった一言。





 「蝋燭です」

 




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