hospital on the mountain part 2
「浮かない顔をしているな」陣内が僕を見て言う。
「久しぶりに夢を見てね」
「夢?」
「ああ。だけど、あまり良い内容ではなかったよ」
森で起きた、狂気的な殺人。レポートに記すにはあまりにも残酷で、思い出すと精神を蝕まれるような思いをする。だが、僕がそのことを思い出すことは少なかった。
「ここが戦場なんか?」
マイクは明らかにがっかりしていた。
ここに兵士がいることはない。ここは、かつての戦場だったからだ。人が住んでいる気配はもちろん無く、緑もない。でこぼことした地面が地平線まで続いている。
「地球にクレーターってあったっけ」
僕は地面にいくつもの巨大な穴が空いているのを見て軽い冗談を言う。陣内は肩を竦めて「クレーターではなく、地雷の跡だな」と言った。
「ここにはまだ地雷が埋まっているらしい。だが、次の街に進む道はここしかないんだ。避けて通るしかないな」
陣内はどこから持って来たのか、金属探知機を僕らに渡した。
―――次の街。その時、僕は疑問に感じた。どうして先に進む必要がある?
「お前……何も覚えていないのか?」
「え―――?」
それはどういうことだ……?
「死んだらどうなるのかな」
少女は語りかける。
「もし死んでしまったら、私は天国に行けるのかしら」
誰に訊くわけでもなく、彼女は窓の外を見て言った。
何もない真っ白な部屋。消毒液の独特な臭いが蔓延する。僕はこの臭いが大嫌いだった。
「天国なんて」
僕はそこで言葉を切った。わざわざそれを言う必要がなかった。彼女はくすりと笑った。そして、僕が言いかけた言葉を続ける。
「『あるわけがない』?」
「否定するわけではないよ。けれどもし天国があって、神様がいるのなら」
彼女はもう外を見ていなかった。彼女の瞳は輝きを失っている。
「僕らがこんなところに閉じ込められているはずがない」
僕は彼女を助けたかった―――。
「先生! 早く来てください!!」
七、八人の看護婦が一つのベッドの周りに集まっていた。その中心には、逃げ場を失った青年がいる。彼は身近にあるもの全てを看護婦たちに投げつけていた。
「僕をここから出せ!」
青年は叫んだ。何とか看護婦たちを振り払おうともがくが、雁字搦めにされて身動きが取れない。
「ここから出せっ!! 僕は病気なんかじゃない!!」
「先生ッ、早く薬を!!」
「待っていろ、すぐに投与する」
医師は白衣のポケットから注射器を取りだす。それを見た青年は、よりいっそう激しく抵抗した。
「嫌だっ……! やめろ!!」
虚ろな瞳の中に初めて一つの感情が浮かぶ。彼は感情に任せて喚き散らすのを止め、逃げようとした。その言葉通り、純粋な恐怖によって逃げようとした。だが、逃げられない。
医師は慣れた手つきでキャップを取り、青年に薬を投与した。そして、低い声で告げる。
「君は重い病にかかっているんだ。私たちでは施しようのない病に―――」