繁栄
私は、小さな民族のもとに生まれた。家族は少なかったが、みんなで話し合い、支え合い、笑い合ってきた。
家族は日に日に増え、新しい言葉や新しい文化を受け入れながら、私はより大きく、より確かに成長して行った。
こんな幸せな日々が永遠に続くと私も、そして家族もそれを疑うことはなかった。
家族が増えると皆の居場所は広がっていった。山を開き、森を拓き、川を止め、そして海を埋め、新たな土地を築いていく。そこにはやがて家が建ち、町になり、そして街へと変わっていった。
やがて、豊かになると私たちは、東に西に手を伸ばし家族を迎え入れていった。
長い年月が過ぎると私は豊かになっていた。
皆が私を恐れ、敬った。
汚れた空気、姿を消した生き物、そして壊してきたもの。これらが戻ることは無い。
ただ、富を得て家族を得た私にとってそれは些細な問題だった。
私はさらに南に北に手を伸ばして、家族を迎え入れた。
やがて、見えぬ場所、届かぬ場所、届いてはいけない場所へさえ私は手を伸ばした。
私は永久に不滅だ。
その時の私は知らなかった。これが、終わりの始まりであったということを。
終わらないジリジリと打ちつける夏、終わらない白く、恐ろしい大雪、全てを溶かす酸性の雨、吹きやまぬ黄色い砂嵐。私は見て見ぬふりをした。恐ろしい、しかし、目を逸らした。
しかし、家族はまだ私に豊かさを、繁栄を求めた。私はその願いを拒むことができず、止まることを忘れ、ただひたすらに走り続けてしまった。息付く暇もなく、後悔する暇もない。
そして、さらに手を伸ばすにつれ、私は増えすぎた家族を支えられなくなってしまった。
私たちは、私は、なんのために幸せになろうとしていたのだろう。いつから、幸せを求めることが、こんなにも苦しくなってしまったのだろう。空気は酷く淀み、鳥のさえずりさえ聞こえない。
かつて、私たちは何も持たずとも笑いあっていた。あの小さな小さな土地で、少ない家族と過ごした日々は私にとって求めていたものであり、理想であったのかもしれない。
私たちは昔の精神を思い出そうとした。しかし、家族はそれを忘れてしまっていた。ただひたすらに自分の幸せを願っているばかりだ。
突如、大きな音がした。全てが崩れ去り、家族は苦しんだ。地面が割れる音がする。家族が苦しむ声がする。私が、私たちが目を逸らしていた。それが、私たちを飲み込んだ。暗く、そして恐ろしいものであった。
「ああ、もう手遅れだったのだな……」
どれだけ恐れられようと、どれだけ遠くへ手を伸ばそうと、どれだけ家族を増やそうと、それらは全て塵に還る。
そうして広大な繁栄を見せていた帝国は一夜の内に崩れ去った。




