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真冬のポニーテール  作者: 山葵わかな


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12 人類存続審判と管理者

「……管理、者……?」

 圧倒的な威圧感の中、俺はようやく口を開けた。とは言っても、疑問符つきの呟きにすぎなかった。それに、口を突いて出てきた言葉以外にも俺の脳内にはハテナが絶賛大量発生中だ。

「人類の行く末を見届けるとは、何なんですか? 何か、オレの能力と関係が……」

 頭の処理が追いついてない俺に引き換え、雨夜(あまや)は早速春香(はるか)さんに食らいついていく。座布団に変わらず身を据えてはいるものの、前のめりになって正面にいる人物からの次の言葉を待っていた。雨夜は俺とは違って幼少の頃から自身の能力と向き合い、苦悩してきたようだった。その能力の意味が、いずれ消えてしまうらしい雨夜自身の存在意義が、わかるかもしれない機会をみすみす逃したくないに違いない。何よりも、雨夜が中二の冬に出会った謎の男以来の情報源だからというのもあるだろう。こんなにも早く関係者との接触を図れたのは俺にとっては想定外の出来事ではあるけれども。

「うむ。順を追って話そうではないか。まず、余は(コア)である汝と同じように能力が使える」

「オレと同じように、夢に潜れるんですか!」

 雨夜はもはや制御の効かなくなった前のめりが高じて座布団からずり落ちていた。そんな雨夜の様子には言及もせず、春香さんはゆったりと首を横に振る。

「余は、もとは器であった。核である適合者と融合してからというもの、能力を使用できるようになった。もちろん足枷などなく、な」

 対である核の存在を口にした春香さんはその一瞬だけ威厳も威圧もふっと消え去り、散りゆく一枚の桜の花びらのように儚げな表情を揺れる木々に投げかけていた。呼応するかのように桜の花びらが一枚、広間へと舞い込んでふわりと畳の上を染める。

「同じ時を生きるものに、同じ能力は備わぬものよ。余の能力は、『他の能力者や能力を知る』ことができるといったものだ。それは、『現在の人類(じんるい)存続(そんぞく)審判(しんぱん)の状況を知る』ことに付随し、当然過去の人類存続審判の記録……、歴代管理者の記憶を参照することも可能であるのだ」

 可能であるのだ、と言われてもだな。これまたわけのわからんプロ御用達の専門用語を並び立てられても、チンプンカンプンという言葉がなぜこの世に存在しているのかその意義を見出すことが可能になるだけだ。俺の脳味噌の処理能力を高く買ってもらっては困る。雨夜の時もそうだったけれど、能力者とやらはみんなやたらめったら難しい言語を使いたがるものなのだろうか。

 ショート寸前の俺の隣では、雨夜が顎に手を当てて春香さんの能力を必死に噛み砕いていた。雨夜は自身の能力について彼なりに解釈してわかりやすく俺に説明してくれた。俺はその力を高く評価しているつもりだし、もうそれに任せたとばかりに思考を放棄気味である。

「人類存続審判、とは一体……?」

 雨夜の一番の引っかかりは『人類存続審判』の六文字のようだった。それぞれ単語を分解して単純に考えれば、この世の人類が生きるか死ぬか、判定でも下そうとしている高慢ちきな何者かが存在しているように聞こえる。実にファンタジー風というか、神話じみているというか、何というか。現実味がまるでないな。

「この世界ではの、ある一定の期間において人類がこのまま存在している価値があるのかどうかを見定めるための裁定が行われるのじゃ。それが『人類存続審判』。つまりは神の与えたまう試練なのであるのよ」

 一気にスケールがデカくなってきたぞ。マンガやアニメの世界のように謎の悪の組織の暗躍を防ぐため能力を備えし者たちが立ち向かう、なんて話ではないようだ。神様に登場されてしまっては手も足も出ないのではないのか。俺は神様の存在なんてこれっぽっちも信じてはいないけれど、神に奉仕する身の上であり威厳あるこの神主に神聖なる神社で神様の存在を匂わされては、信じていないものも信じるしかないではないか。

「一定の期間で行われるということは、過去にも同様の出来事が発生していて……その度にオレたちのような能力者が人類の危機を救った、ということでしょうか?」

 雨夜は手探りで春香さんの話の意図を解読しようとしていた。もういっそのこと、春香さんの夢にでも潜り込んでしまえば思考を盗み見ることができるのではないかと、喉元まで出かけた言葉をグッと飲み込む。そんなに都合よく知りたい情報を雨夜が盗み見ることができるかどうか不確定だからだ。それに、原則人の夢には潜り込まないと誓ったこと、何よりも雨夜の命を危険に晒してしまう恐れのある行為を、対の存在であるとはいえ能力の欠片もわからない素人が口を出す権利はあるはずもなかった。

「能力で人類の危機を救ったという表現は、語弊があるよのう。器と核は、各々齢十八を迎えるまでに互いに対となるものと融合を済まして完全体とならねば消えてしまうことは知っておろう? 神の試練は至って単純なものでの。完全体の発生が著しく少ない場合、人類の存続価値はないとて審判が下されるのじゃ。安易な完全体未発生を防ぐため、神の慈悲によって管理者が存在しておる」

 春香さんは口元に当てている扇子をひらひらとはためかせ、一呼吸置いてから続ける。

「余には過去の管理者の記憶を参照することもできると言うたが、人類の存続が危ぶまれた例は少なくなくてな。その過去の経験を踏まえて、人類の命運を未来に託すため、汝らのような能力者に対して助言を行っているのじゃ。……あくまでも、中立的な立場としてではあるがの」

 中立的な立場、という言葉がやけに強調されて聞こえた。悪の組織と戦うわけでもなく、単純に器と核が一定数融合すればいいだけの神の試練とやらなのであれば、善も悪も関係ないはずだ。それなのに、これではまるで悪が存在しているみたいではないか。

「それでは、春香さんが今存在している器や核を探し出して説明に回っているというわけですか?」

 一方で雨夜は、俺とは違った疑問を抱いているようだった。先程春香さんは自身の能力について、『他の能力者や能力を知る』ことができると言っていた。現在の人類存続審判とやらの状況も知ることができるのであれば、この世界のどこかに散らばっている器と核の場所を視て引き合わせてしまえばよい。雨夜はそう考えているようだった。

 突然春香さんが現れてわけもわからない説明を受けて信じる奴がどれくらいいるかって話だが、現に俺たちは春香さんが教えてくれていることが正しいと思っている。信じさせる力が、春香さんにはあった。

「『他の能力者や能力を知る』ことができるとは言ったが、器や核、それに完全体の皆々がいずこに存在しているかまでは感知できぬよ」

「では、なぜ! オレたちを呼び出せたのですかッ」

 疑問を一蹴されてしまった雨夜はそれでもめげずに食ってかかる。

「過去の記録を参照しても、器と核の各々の存在地域は管理者の発生地点からは遠からぬ場所となるようじゃ。また、器と核には融合までの年齢制限がある。ゆえに、おおよそどのような者であれ同年代か近しい齢にて存在する。……余は管理者ゆえ、人よりもちと歳が上だがの」

 器や核がどこにいるかまではわからずとも、海外など管理者の手の届きづらい範囲内には存在する可能性は限りなく低いということか。それに、人類存続審判を導く役割を担うらしい管理者は他の関係者よりも先に発生し、おおよそ自身より下の年代に完全体となるべき存在が点在するときた。原理はわかったが、それにしたって俺と雨夜をピタリと当てたにしては偶然がすぎやしないか。

「して、真冬に偵察を頼んだのじゃが、見事当たりを引いてな」

「偵察……? 真冬も、何か関係しているんですか?」

 思わず口を突いて出た疑問に、俺自身びっくりしてハッとする。真冬の名前が話題に上がった途端、張り詰めていた空気なんてお構いなしに真っ直ぐに春香さんを見ることができた。それがなぜだかわからないから、こうして戸惑っているのも事実なのだが。

「もしかして真冬ちゃんもオレたちと同じ核か器……。いや、もう既に完全体の可能性も……」

 俺の疑問をさらに飛躍させた呟きを、雨夜は何やらもごもごと口の中で言わせている。雨夜の推測のうちいずれかが合っていたとして、真冬が今まで黙っていたのは少なからず残念でならない。でも、それは雨夜が出会って初日で諸々ぶちまけてきたのが異常なだけとも言える。いずれ時期を見て話す予定で、今はまだ俺たちとの距離を測っている最中なのであれば真冬の方が正常だ。段々と俺の感覚がバグってしまっているだけなのかもしれない。

「ほう。核である汝はよく冴えておるの。……まさしく、真冬は核。その能力は身に焼かれた刻印によって制御されておるがな」

 真冬が、雨夜と同じ、核。

 それは、俺と同じように真冬にも対となる器が存在していて、最終的には消えてしまうという事実を指し示していた。雨夜と同じ苦しみを抱えているかもしれないという事実も、だ。

 だが、なぜだ。今まで春香さんは俺と雨夜を二人で一人の人間であるかのように交互に視線を揺らしていたのに。この時だけは、ただひたすらに俺だけを見ていた。自意識過剰と言われても構わない。春香さんのひたむきな瞳が俺を捉えて、まるで至近距離で相対していると錯覚させていた。

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