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Lesson8 『相手の懐具合まで勘定に入れろ。』

村に辿り着くと日が暮れていた。

各家から夕餉の香りが立っていたので、邪魔にならないように路傍の石に腰掛ける。



「おいウォーカー。」



『あ、ハンスさんチワス。』



「村に戻って来たなら声を掛けてくれよ。」



『スミマセン。』



「今から晩メシなんだ。」



『ええ、なのでしばらく時間を…』



「だから、オマエも来いよ。」



『え?』



「どうした冷めちまうぞ。」



この日は村の供養日だったらしく、三反百姓のハンスも本家であるミゲル村長の屋敷で食事を取る事が許されるようだった。

俺も随分顔なじみになっていたのか、客間に通されると全員見知った顔でやや安堵する。

カネが無かったので、麦飯を腹一杯食わせて貰えたのは本当に嬉しかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「え?

それは?」



リュックからポートフォリオを取り出すとミゲル村長が目を丸くする。

更に中から透明パックに覆われたホーンラビットの資料を取り出して渡すと全員が感嘆の溜息を漏らす。



「え?

キミ、学者だったの?」



『あ、いえ。

図書館で調べて貰ったんです。』



「え?え?図書館?

何で図書館?

アレ、ボッタクリでしょ?」



『そうですね。

高価ではありました。

ただ、カネを払うだけの価値はありますよ。』



「何で?」



『はい?』



「それは自腹を切ったって事でしょ?

何で?」



『あ、いや。

村長に頼まれてたホーンラビットの巣穴。

まだ5つしか発見出来てないじゃないですか。』



「ワンシーズンに5つはかなりの戦果だと思うけどね。」



『いや、でも総個体数は全然減ってないし、畑もまだ被害あるでしょ?』



「うーん、少しマシにはなってるんだけどな。」



『それで、せめてホーンラビットの生態が詳しく知れればって思って…』



「それで図書館に行ったのか?」



『まあ、どんな所か興味はあったので。』



「…そうか。」



『どうぞ読んで下さい。』



「え?

ワシも読んでいいの?」



『俺が見ても意味がありませんから。』



「ん? 何で?

こんなに詳しく書いてるじゃない。」



『俺、字が読めないんです。』



「え!?」



参ったなあ、皆ドン引きしちゃってるよ。

折角、楽しい団欒だったのに、俺が雰囲気を壊してしまった。

何だか悪いことしちゃったな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



村長他2名が読み書きが出来るので、司書がくれた資料を読み込んでくれる。

やる事もない俺は奥さんが剥いてくれた甘栗をポリポリ齧っていた。



「ウォーカー君…」



『あ、はい。』



「大手柄だ。」



『え?』



「ワシも長い間百姓をやっとるが…

こんなに詳しいホーンラビットの駆除方法は初めて知った。」



『あ、やっぱり駆除方法も書いてあるんですね。』



「400年くらい前。

我々の御先祖様は松葉を燻して、ホーンラビットを退治していたらしい。」



『へー。』



「いや、王国全土で一般的に用いられてた駆除法と書いてあるが…

どうして失伝してしまたのだろうか…

我々が先人の知恵を受け継ぐことを怠っていたのだろうか…」



村長にとってはショックだったらしく、眉間に指を押し当てて黙り込んでしまった。



『ミゲル村長?』



「いや、これから村民一同で心を入れ替えるよ。

他にも詳しく書かれているからな。」



特に皆が驚いていたのが、ホーンラビットの巣穴構造。

資料曰く、我々が地面を掘った穴だと思っていたのは長いトンネルだったらしい。

ホーンラビットは角の関係から狭所で旋回出来ない。

なので一方通行のトンネルを掘り、入り口用の穴と出口用の穴を峻別して運用しているとのこと。

巣内で糞を絶対にしない習性らしく、かならず排泄を終えてから入り口用の穴に入るとのこと。

昔の人はこの修正を利用してホーンラビットの巣穴を探していたらしい。



「し、知らなった。」



村長たちが呆然と天井を仰ぐ。



「いや、知る知らぬ以前に…

考えたことすらなかった…」



余程ショックだったのだろう。

ミゲル村長は注がれていた酒を一滴も飲まなかった。



「ワシらは今まで何をやっていたのか…」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



善は急げと言うことで、翌朝村人総出で検証作業を行うことにした。

俺に出席権があるのかは疑問だったが、俺の持参した資料に基づいて皆が動いている以上は参加するべきだろう。

山に登って松葉を搔き集めた。



「おいミゲル!!

ここじゃないか!?」



古株のジャック翁が固まった糞を発見した。

驚くべきことに、資料の記述通り枯葉で糞が覆われている。



「ウォーカー君の資料の通りだな。

やっぱりホンラビはかなり利口だわ。」



『確かに、枯葉で覆う習性って知らなきゃ、こんなの絶対見つけられないですよ。』



「よし、みんな松葉を持ってこい!!」



「「「応ッ!!」」」



半信半疑ながらも村民全員で資料の記述に従う。

入り口用の巣穴に松葉を焼いた煙を送り込む。



「本当にこんなもので退治出来るのか?」


「中でパニックになって同士討ちを始めるとは書いてあったが…」


「でも御先祖様達はこうやってたんだろ?」


「じゃあ、何でそんな重要な知識が忘れられてるんだよ。」



村人達は議論しながらも手際良く煙を巣穴に送り込む。



「…何も起こらないじゃないか。」



誰かがそう呟いた瞬間だった。



「出口穴が見つかったぞお!!!!!」



丘の上からハンスの叫び声。

身振りで示す方向を見ると村の端から白い煙が勢いよく上がっていた。



「まさか、幾らトンネルと言っても…

距離があり過ぎだろ。」


「でも荒らされたのはあの辺の畑だぜ?」


「みんな、出口穴を見に行こうぜ!!」



女達を見張りに残して、棒を持った男衆が駆ける。

気が付くと俺も手渡された竹槍を握り締めて走っていた。



「自傷! 自傷!」



先に到着していたハンスが道で倒れているホーンラビットを指さして叫んでいる。



「ウォーカー君の資料が正しかったんだよ!!!

ホンラビ同士で刺し合ってる!!!」



確かめてみると、ホーンラビットの死骸には無数の裂傷や刺傷があった。

大きさからして同士討ち以外にあり得ないだろう。

その後も、煙と共にフラフラと満身創痍のホーンラビットが現れたので、皆で撲殺して日頃の鬱憤を晴らした。


当然、その日の晩飯は兎汁である。

女衆が里芋や人参を手際良く切り分け煮込んでくれる。



「ウォーカー君。

いっぱい食べて行ってくれ。

何せ大手柄を立てたんだからな。」



『ハンスさん、よして下さいよ。

今日は皆の後ろを付いて行っただけです。』



「いや、一番手柄だ。

それも断トツのな。

さあ、喰え喰え。

ちゃんと栄養を付けてくれ。」



『あ、じゃあ。

ありがたく御馳走になります。』



昂奮が冷めやらないのだろう。

兎汁を食べ終わった後も、村人たちは戸外で今日の戦果と明日からの方針を熱心に語り続けていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ウォーカー君。

キミに謝罪しなければならない事がある。」



『はい?』



「ホーンラビットの巣穴発見に賞金を懸けていただろう。

アレを取り下げてもいいか?」



ミゲル村長が恐縮するのも無理はない。

もう発見方法が確立された以上、俺は幾らでも巣穴を発見出来てしまう事だろう。

俺への出費が倍増すること必至。

何より、知識を得たミゲル村はもう自力でホーンラビットを駆除出来るのだ。



「ウチも貧乏所帯だ。

支払い続ける余裕がない。

もう巣穴は探さないで欲しい。」



『…いえ。

これからも発見次第報告しますよ。』



「あ、ああ。」



『但し、お代はもう結構です。』



「ウォーカー君!」



ミゲル村長の言い分は痛い程分かる。

カネが無いのはお互い様だからな。


ただ、約束を違える形になったのは心苦しかったのか、「願いがあれば言え」との事だったので、村長の家に泊めて貰うついでに資料を読み聞かせて貰う事にした。

相手の出費の無い形なら、俺だって遠慮なく望みを言える。



「そんな事でいいのか?」



『…俺は無学者ですから、他人の10倍は学ばなくてはならないんです。』



「ワシらの中でキミを無学だと思ってる者は一人もおらんよ。」



『ありがとうございます。

でも、現実にはこの程度ですから。』



俺と村長は縁側に寝転がったまま、何度も何度も資料を読み上げた。

どうか今度こそ知見が後世に伝わりますようにと願いながら…


いや、違うな。

伝えるのだ、俺が。


何故?


分からない。

きっと人間はそれを言葉にする為に学ぶのだろう。




Lesson8 『相手の懐具合まで勘定に入れろ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨12枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ



【生産可能品目】


山椒粉



【ポートフォリオ】


ホーンラビット




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。



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