Lesson6 『舌は人間よりも義理堅い。』
ブルータウンから帰った俺はそれとなく雑貨屋を覗いて回る。
やはり魚介類は向こうの何倍もするな。
例えば、俺が網元から貰った干し烏賊。
ブルータウンでは銀貨1枚で大袋が買えたが、こっちではショボい小袋が銀貨3枚の値付けだった。
勿論、輸送費や人件費が上乗せされてるから高いのは当然だ。
…だが、高過ぎるとは感じる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミゲルの村に着くと、ハンスが七輪で茄子を炙っていたので、手持ちの干し烏賊をプレゼント。
それを肴にドブロクを啜る。
匂いに惹かれたのか村人達も集まって来て、干し烏賊はすぐに無くなってしまった。
惜しいとは思わない。
今まで俺に懐疑的な態度をとっていた者とも仲良くなれたからだ。
「別にウォーカーの事を嫌ってた訳じゃねーよ。
ただ、あんまり余所者が来ない村だからさ。
分かるだろ? そういうの。」
その男には今まで、すれ違う度に舌打ちをされていたので、まさかこんな風に卓を囲んで話す日が来るとは思わなかった。
腹を割ってみると、偏屈ながらも面白味もある男だった。
今までの埋め合わせという意味なのだろうか、ミゲルに掛け合って大カラスやレッドキャタピラーを駆除した時も報酬が支払われるように取り計らってくれた。
『スミマセン。
色々気を遣って下さって。』
「お互い様だろ。
俺達もさ、オマエが来てくれて助かってるよ。
また次も遠い街の話を聞かせてくれ。
じゃあな。 …ウォーカー。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
森の奥の瓢箪湖にキャンプを張りながら俺は考える。
たかが烏賊の1切れで、どうしてあの男は打ち解けてくれたのだろう、と。
いや、考えるまでもない。
何かを振る舞われるのは嬉しいし、それが食べ慣れないものなら尚更だ。
俺だって初対面のハンスにブルーベリーを貰った事は今でも鮮明に覚えているし、恩にも感じている。
あの時は生活に余裕が無かったので本当に助かった。
人間は食べなきゃ死ぬし、同じ物ばかりを食べていると心が死ぬ。
食を振る舞うというのは、命を振る舞うのと同義なのだ。
…ジャア、ゼイキンッテナンナノダ?
だから、今回の俺が振る舞った珍味は彼の心に届いたのだ。
俺が馬車ではなく徒歩でブルータウンに向かった話をしたのも良かったのかも知れない。
苦労が目に浮かぶ分、嫌でも希少価値が伝わったのだろう。
『えっと、これで合ってるのかな?』
瓢箪湖までの道すがら集めた山椒を石臼で挽いてみる。
皆に聞く限り、市販されてる山椒粉ってこうやって作るらしいけど…
確か最初に種と皮を分離させるんだよな…
『うーん、一応山椒の味はするけど。
こんなので良いのか?』
首を捻りながら試行錯誤。
子供の頃、親父が地主の目を盗んでこういう物を作っていた気がする。
あの時、もう少し熱心に教わるべきだったな。
俺が山椒粉を作り始めた理由は至ってシンプル。
ブルータウンの薬局でアホみたいな高値で売られていたからである。
最初、値札を見間違えたのかと錯覚した程だった。
まぁ、原理は烏賊と同じなのだ。
珍しいから高く売れる。
輸送馬車を保有しているのは大手の商会だけだから、きっと値崩れしないようにカルテル価格を決めているのだろう。
別に恨む気はない。
法律に違反している訳でもないしな。
誰がどんな商売をしようと勝手なのだ。
…だから、俺も勝手にやらせて貰う事にした。
それだけの話だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからしばらくは近所の依頼をこなしながら、山椒粉作りに精を出した。
半月経った頃に、ようやく人に見せれるレベルの物が作れるようになったので村に【献納】した。
ミゲル村長は笑って俺が山椒粉を作る事を追認してくれた。
但し、森の奥で作ったという点は伏せなくてはならない。
あくまで行商の過程で仕入れた品。
そうしなければ、村に税金が課せられてしまうからな。
別にそういうルールがある訳ではないが、森から山椒粉を搬出する時は2割だけ村に置いて行く事に決めた。
「何で2割?
いや、貰えるのは勿論ありがたいげどさ。」
『3割を越えると製造意欲萎えると思うので。』
「分かる(笑)
何事も限度があるよな。」
ハンスと笑い合ってから村を出る。
グリーンタウンの年貢率は六公四民。
昔は五公五民だったそう
ん?
次はどこに行くのかって?
決まってるじゃないか、山椒が珍しい街に行くのさ。
Lesson6 『舌は人間よりも義理堅い。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨118枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
【生産可能品目】
山椒粉
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
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