Lesson5 『旅から学べ』
今の俺は海辺の街、ブルータウンに来ている。
拠点であるグリーンタウンから徒歩で1週間の道程(旅慣れてない者だと10日以上掛かると思う。)を河沿いにキャンプを張りながらやって来たのだ。
実はこの旅に必然性はない。
そもそも両都市の間には、各商会が騎馬メッセンジャーを頻繁に往復させている上に、乗合馬車も毎日運航しているからである。
だが考えても見て欲しい。
俺が冒険者を名乗り始めてから数か月が経っているのだ。
流石にグリーンタウン周辺でウロウロし続けているのは恰好がつくまい?
『ちわー。
この辺はいい所ですねー。』
試行錯誤の末に、挨拶はこれで落ち着いた。
「え?
お兄さん、どこか遠い所から来たの?」
という反応を期待しての事である。
『グリーンタウンから来たんです。』
そう答えると相手は大抵苦笑する。
「おいおいw
乗合馬車で2日の距離だろww」
『いえ、歩いて来たんです。』
「え!?
歩きで!?
嘘ォ!?
2週間くらいは掛かるでしょ?」
『いえ、河沿いを歩いて来たので1週間で来れました。』
「舟か馬車を借りれば良かったのに。」
『ははは、生来の貧乏性なんですよw』
「分かるw
俺の弟もそんな感じでケチケチしてるww」
『「ははははは。」』
そんな会話で盛り上がった漁師の仕事を翌日手伝った。
朝から夕まで漁網を運ぶ重労働。
日当は銀貨10枚と干し魚。
「ウォーカー君。
雇った俺が言うのも何だけどさあ。
1週間掛けてやって来て銀貨10枚はワリに合わないだろう。」
『ははは、そうっすね。
帰りの馬車代にもならないですww』
2人で砂浜に座って盃を合わせる。
貰った銀貨の大半は晩酌に消えた。
「なあ、グリーンタウンってどんな街?」
『え?』
「俺、この貧乏漁村しか知らないからさぁ。
他の街が気になるじゃん。」
『そっすねえ。
典型的な国境近くの貧乏農村です。』
「何?
貧乏なの?」
『年貢が高いんですよ。
ちょっとでも農地を広げたら追加地代を取られるんで、どこの村も田畑を広げずにひっそりと暮らしてます。
羽振りが良いのは貴族や資本家の大農園だけ。』
「どこも似たようなモンだな。
漁師は漁船の大きさで税額が決まるからさ…
網元の息子ですら小さい船しか持たないんだ。」
『そうなんですか。』
「沖に出ればマグロやカツオが山ほど獲れる。
それは皆知ってるんだ。
でも、沖に出れる程の船を作っちまったら…
今の5倍の税金を取られる…」
漁師は溜息を吐いて砂浜に寝転ぶ。
つられて俺も同じように背を砂に置く。
「人並みの暮らしがしたいだけなんだけなぁ…」
『同感。』
「なあ。
これからも冒険を続けるのか?」
『はい、意識して色々な街を訪れるつもりです。』
「初対面の人間に頼むことじゃないんだけどさ。
もしも楽に暮らせる街を見つけたら教えてくれよ。」
『そうですね、もしも見つけたら。』
「別に働くのが嫌な訳じゃないんだ。
どちらかと言えば勤勉な部類だと思うぜ、俺は。
…泥棒の為に働くのが納得出来ないだけさ。」
『…泥棒は縛り首だそうですよ。』
「…泥棒が作った法律ってとこ以外は賛成だな。」
不可思議な事に、その話題の最中に星が流れた。
勿論、本来はただの自然現象に過ぎない。
「…。」
『…。』
「ウォーカー君。」
『はい。』
「君の仕事、手伝わせてよ。」
不思議と迷いは無かった。
『じゃあ、ブルータウンにも仲間が居るって吹聴させて下さい。
勿論、貴方の身元が割れるようなヘマはしません。』
「そんな事でいいの?」
『ええ、上手くは言えませんが…
活動の幅が広がるような気がするんです。』
「そっか。」
そこから先は互いに言葉を発さなかった。
ただ、無言で星を睨みつけていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この一件ほど詩的ではなかったが、このブルータウンでは印象的な出会いが他にも3件あった。
川沿いで出会った乾燥職人も合わせれば5人のめぼしい知己を獲得する事が出来たのだ。
帰りの日。
浜辺にサンドシャークなるモンスターが出現した。
半鐘がけたたましく鳴り男衆が総動員されていたので、俺も囮役として退治に参加した。
対して役に立ったとは思えないが、網元が干し烏賊をくれた。
『すみません。
俺、ウロチョロしていただけなのに。』
「ウォーカー君のは素晴らしいウロチョロだった。
見事だったよ。」
『普段からウロチョロしてますから。』
「はっはっは。
では、またこの街にもウロチョロしに来なさい。」
一同笑。
去り際に星の漁師が無言で俺に何かを手渡す。
『え?
これは?』
「サンドシャークの歯だよ。
持っとけ。」
『何か薬効とかあるの?』
「そんな話は聞かないな。
でも、討伐に参加した証明にはなる。」
『討伐証明…』
「働いたらさぁ、認められたいじゃん。
せめて俺くらいは俺達を認めてやりたいじゃん。」
『うん、わかる。』
浜に背を向けて歩き出すと、入れ違いに数名の騎士が駆けて来た。
そしてサンドシャークの死骸の前で下馬すると、芝居掛かった表情でそれに剣を突き立てていた。
俺の背には何やら恩着せがましい演説がいつまでも纏わりつき続けていた。
Lesson5 『旅から学べ』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨89枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。




