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Lesson42 『同好の士を厚遇せよ。』

信じ難い事だが、俺の馬車生活を羨ましがる馬鹿が現れた。

最初、おちょくられているのかと思ったが、ノリス君(19歳)は本気だった。



「いやいや!

ウォーカーさんは凄くCOOLですよ!

俺! 車中泊こそが未来のライフスタイルだと思ってます!!」



『うーーん。

褒めてくれているのは嬉しいけど…』



「オナシャス!!

俺も馬車で暮らしたいんです!!」



『でも…

だってノリス君はグリーンタウンに実家があるじゃないですか。

確か中央通り沿いでしょ?

一等地ですよ。』



「いやいや違うんですよ。

俺、三男坊ですし…

来月に兄貴の嫁さんが嫁いで来ますし。…」



『ああ、それじゃあ少し居づらくなりますね。』



「一応、親や兄貴は気を遣ってくれてて…

西門地区にアパートを借りてくれるとは言ってるんですよ。」



『いい親御さんじゃないですか。』



「…。」



『…。』



「俺も馬車、駄目っスか?」



『いや、別に駄目ではないですけど。

おカネは掛かりますよ?

ロバの世話も必要ですし。』



「…そこを何とか。」



『キミには以前ホワイトタウンの馬車余りについて話たと思うのですが、おかげで全体的な相場はかなり下がってます。』



「はい。

値崩れしてるのなら俺にもワンチャンあるかな、と。」



『ホワイトタウンでは廃棄が追い付かない状態なので…

ボロ馬車なら、そこら辺に不法投棄されてます。』



「Yahoooooッ!

Yesッ!Yesッ!Yesッ!」



『いやいや落ち着いて下さい。

廃棄されるようなボロ馬車には幌が付いてませんし、流石に寝泊まりは不可能です。』



「ですよねー。」



『それで…

私の馬車はこう見えて最新型なんです。

ロバ込みで銀貨500枚を払いました。』



「え?

そうなんですか?」



『はい、合成サスペンションなる最新技術が使われているみたいで。

荷台部分はみすぼらしいですけど、車輪と車軸は最新モデルだそうです。』



「あ、本当だ。

このスポークの組み方は初めて見た。」



『え?

そうなんですか?

と言うより分かるのですか?』



「言いませんでした?

俺が鍛冶屋修行してた時期(3か月でバックレ)は工房が車輪修理の案件を請け負ってたんです。

それで色々な車輪や荷台ばかり見てたので…

いつか俺も馬車に乗れる身分になりてぇなあって。」



『へー。

じゃあ、あながち馬車生活への憧れというのも思い付きではなかったのですね。』



「もーww

俺のこと何だと思ってるんですかww」



『あ、じゃあ折角だから馬車の操縦を体験してみます?

今から大根村に行くので。』



「え!?

いいんすか?」



『だって、馬車を買いたいのなら、ある程度は慣れておくべきでしょう。』



「ウォーカーさーん(泣)

俺、一生ウォーカーさんについて行きますよー(泣)」



『わわっ。

抱き着かないで下さい。』



この年頃の若造は調子の良いことばかり言うからなぁ。

でもまあ、自分のライフスタイルの理解者が居るのは悪い気がしない。

1人だけ変わった事をしている奴なんて狂人にしか見えないからな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「えーーーー!!!

ノリスさんズルーい!!

一番弟子の俺ですら操縦させて貰ったことないのに!!」



『え?

トム君もやってみたかったの?』



「当たり前じゃないですか!!

男子ですよ!!

真面目に尽くしていれば、いつの日か操縦させて貰えると思って頑張ってのに!!」



『いや、言ってくれたら普通に手綱を握らせてあげましたよ?』



「えーーーーーー!!??

そうだったんですかーーーー!!??

てっきりウォーカー流の奥義かと思ってました!!」



…そんな流派初めて聞いたぞ。



『じゃあ、トム君にも後で御者台に乗せてあげるから、荷台で仮眠を取っておきなさい。

まずはノリス君の体験会をしようか。』



俺が驚いたのはノリスを羨ましがる者が少なからずいた事だ。

特に遠出が多い冒険者ほど、彼の車中泊論に賛同した。

あまりに皆が羨むので急遽予定を変更して馬車体験会を臨時で開く。

試乗したのは合計20人。

1人5分程度だったが、皆は歓声を挙げて喜んだ。

せがまれたので、その翌日も数十人を乗せた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『あ、ポーター社長。

忙しい時に申し訳ありません。』



「いや、オマエが仕事を回してくれているお陰で喰えている。

で?

俺に相談というのは?」



『実は馬車を持ちたいって冒険者が思いのほか多くて驚いてるんですよ。』



「ああ、オマエの車中泊が羨ましがられてるからな。」



『そうなんですか?

いや、家が持てないだけなんですけど。』



「でも傍目から見てると楽しそうだぞ?

自由人って感じがするんだってさ。」



『えーー!?

参ったなあ。

人の苦労も知らずに。』



「はっはっはw

隣の芝生は青いよなぁw」



俺とポーターはロバを撫でながら笑い合う。



『単刀直入に質問します。

俺みたいな1人馬車の冒険者が増えればポーター社長は迷惑ですか?』



「そりゃあ、仕事は多少減るかもなあ。

今さグリーンタウンで個人運送店は俺くらいのモンなんだよ。

ほら、この辺は商業ギルドが強いから。」



『ですよねー。

ご家族で営まれてる運送屋は何件が知ってますけど。

全くの個人はポーター社長だけです。

じゃあ、1人馬車の増加は迷惑ですね?』



「いや、短期的に見れば俺の取り分は多少減るかもだけどさ…

でも。」



『はい。』



「ウォーカー。

何も言わずに馬車仲間を増やせ。」



『え?』



「俺もな、零細個人での商売が長いから分かるんだ。

規模はチカラだってな。


…確かに1人馬車の増加で俺の仕事は減るかも知れねえ。

でも増えるのが冒険者だけだとしたら話は別だ。


オマエも分かってるよな?

仲間が強くなって損はしねえ。」



『確かに、馬車を持ってる冒険者が増えれば…

作業効率がとんでもなく上がります。』



「ウォーカー。

今の所、馬車購入希望者は何人だ?」



『意志が固い者は17名です。』



「…中堅規模の運送屋だな。」



『ええ、しかも全員荷台で寝る気満々なんです。』



「なあ、想像してみて欲しい。

冒険者の宿に17台の馬車が集ったとしたら…

どれくらい仕事は捗る?」



『…いや、改めて問われると凄いことですよ。

ブルータウンの網元に本格的に売り込めます。

猪や鹿などを丸々運べますから…

今までとは冒険者依頼の運用が一変します。』



「ちなみにそいつらカネは持ってるのか?」



『ははは。

俺と一緒です。』



「…なあ、この際。

宿の名義で馬車を買い揃えてみないか?」



『え?』



「つまり法人購入的な発想だ。

オマエが纏めて買って、普段は希望者に貸してやる。」



『なるほど。』



「これ運送業界の慣習なんだけどさ。

元請けから馬車をリースして仕事をする1人親方って昔は結構いたんだ。

で依頼報酬の一部をリース代として天引きされて、一定額に達したら馬車の所有権が自分に移るシステムだな。」



『あ!』



「そうだよ。

俺の馬車も元請けからリースしていたものだ。

まあ、結局は所有権が移転した所で、元請けからの仕事で喰ってる事には変わらないから…

力関係はそのままなんだけどな。」



『…。』



「宿名義で馬車を買って、希望者に貸せ。

そして依頼報酬から天引きしてやれ。」



『それって搾取なんじゃないですか?』



「オマエ、冒険者達から搾取したいのか?」



『まさか!

そんなの絶対に嫌です!』



「ああ、そうだな。

オマエはギルドの連中なんかとは違う。

だから、搾取にならねえ価格設定を決めろ。

俺はリース利息に泣かされたからなあ…」



『私は利息とか取る気はないです。

返済スパンも長くていいですよ。』



「うん、みんな喜ぶだろうな。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



週末。

馬車購入希望者を集めてポーター立ち合いの元でリース案を話し合う。

やり方次第では彼らの負担を減らせるのはないかと思ったので、知恵のあるクラーク女史達にも参加して貰った。


鳩首会議の末。

街道の奥に停車場を作る事で落ち着く。

タテマエ上、停車場はヤード式の廃棄処分場にする。

(討伐が大規模化するにつれ、骨や皮の処分方法に困るようになっているからだ。)

その体裁を整えた上で、ホワイトタウンの廃材屋に売り込んでみるアイデアが生まれた。

不用品引き取りの体でホワイトタウンで余っている馬車をこちらで引き取り、綺麗な物から修繕して冒険者業務に実戦投入していく。



『話が大きくなってしまいしたが…

クラークさん、どうでしょう?』



「廃棄物置き場というタテマエでしたら…

維持費がかなり抑えられますね。」



問題はヤードの場所だったが、この冒険者の宿を提供してくれた古戦場の若村長であれば何とかしてくれるとは思っていた。



『すみません。

冷静に考えれば話し合いの段階で村長もお招きするべきでした。』



「いえいえ。

そうやって気を遣って下さることが嬉しいです。

ヤードの件ですが、目立ちにくい場所がいいですよね?」



意味あり気に若村長が言う。

役人やギルドに目を付けられたくないよな?

と確認してくれているのだ。



『ええ。

これ以上は。』



2人でクスクス笑う。

もう十分目立っているからな。



「あそこの林が見えますか?

街道からは相当奥ですが。



『ええ、見えます。

あの辺も古戦場村の敷地なんですね。』



「あの林の裏側。

広い野原です。

地質が悪いので農業利用もしておりません。」



『そうなんですか?

ここからじゃ山の麓にしか見えませんけど。』



若村長に案内されて林の裏に回ると、確かに荒涼とした野原が広がっている。

高低差の関係で街道からは完全に死角になっている。

馬車だと街道から10分強で到着可能なのも素晴らしい。



『いやあ、結構広いですね。』



「村名の由来になったくらいですから。」



『え!?

そうなんですか?』



「はい、ここで王国と帝国の最初の大規模戦闘があったと伝わっております。

昔は川がこの辺を流れていましたので、敵味方両軍が渡河作戦を交互に敢行して途方もない数の戦死者が出たそうです。」



『元は同じ民族なのにですか…』



「ウォーカーさん。

政治批判は…」



『あ、そういうつもりでは。』



「お互い戒めていきましょう。


話を戻します。

元は河原なんです。

なので農業には向かない。

いいですよ、ヤードとして使って下さい。」



『ありがとうございます。』



「余力があればで構いませんので、弊村にも馬車を下さい。」



『ええ、喜んで提供させて下さい。

それも良い車両を!』



「…ウォーカーさん。

私もホワイトタウンに行ってみていいですか?」



『え?

村長も来られるのですか!?』



「ふふっ、驚くことはありません。

私とノリスは同学年ですよ。」



『あ。』



しっかりし過ぎて忘れてたのだが、若村長はまだ19歳なのだ。



「単なる物見遊山ですよ。」



『…承知しました。

是非ご同行下さい。』



若村長からヤード使用許可を得る。

タテマエは廃材やモンスター残渣の処分場。

だが実態は、目立たないよう馬車を隠しておく基地。

お互い口には出さないが、先を見越しての構想である。



『村長。

これは独り言ですが。』



「はい。」



『この大森林をそのまま進むと帝国なんですね。』



「ええ、直線距離では近い国ですから。」



『道でも敷かれていれば1泊かもですね。』



「ええ、道でも敷かれていれば日帰り可です。」



ヤード敷地で平らな部分があったので、若村長に御者席を譲ってやる。

破顔して手綱を握る様子は年齢相応のものだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



クラーク女史に願って銀貨10000枚を予算として計上して貰う。



「元はテッドさんの資産ではありませんか。」



『仮にそうだとしても違います。

皆で貯めたおカネです。』



女史は何も言わずに寂しそうに微笑んでいた。

ともあれ、予算を確保した俺は計23名+馬借村の助っ人6名を率いてホワイトタウン入り。

4グループに分かれてホワイトタウンに行き、まずは大きな荷馬車と強い荷馬4頭を銀貨4500枚(あり得ないほど安い)で購入した、

その大型荷馬車に廃棄車軸や廃棄車輪を積み込みヤードまでの遥かな道を戻った。

俺は出費に怯えていたのだが、廃棄馬車を買い取っているうちに、ホワイトタウンの車両業者や廃材屋から信用されるようになり、幾つかの運送仕事を請け負えたので、かなりの経費圧縮となった。



「ウォーカーさん!!

一番良い馬車を俺が貰っていいんですか!?」



『あげた訳ではないよー。

ノリスの出世払いだからね。』



「えー!?

俺絶対に出世しないから踏み倒す羽目になっちゃいますよー!」



…最近の若者は図々しいのか謙虚なのか分からんな。

まあ、楽しそうで何よりだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ノリス君が出世する未来は今の所見えないが、ヤードの中で馬車の修繕を自主的に始めた。

鍛冶屋に3か月在籍しただけあって、俺の1.1倍程度は手際が良い。

すると他の馬車リース組もノリス君に教えを乞い、普段使いの小規模な荷車程度であれば廃棄部品から作れるようになった。


彼らは器用に馬車を乗り回し、仕事で村々を回りながら空き地で車中泊を楽しんだ。

叱責しようかとも思ったのだが、俺自身がそんな生活を長らく続けているので文句も言えない。

仕方ないので村々に謝罪行脚し、彼らが迷惑を掛けないように小さなルールを幾つか制定した。



『キミ達!

どうして私の馬車の近くに停車するんだ!』



「え?

だって俺達のリーダーはウォーカーさんだから。」



『いやいや、荷馬車で囲まれても困るよ。』



「え?

だって車中泊業界の創設者はウォーカーさんだから。」



『いや、しかし。』



「ウォーカーさん。

猪肉が焼けましたよー。」



『え?

私の分もあるの?』



「いや、ウォーカーさんがこのキャラバンのリーダーだから。」



『え?

キャラバン?

私、そんな話は初耳なのだけど?』



「まあ細かい話はいいじゃないですか。

俺達車中泊愛好仲間。

楽しくやりましょうよ。

さあ、肉が冷めちゃいますよー。」



『えー!?』



こうして俺は常に何台かの僚車と共に車中泊することになった。

最初は戸惑ったが、慣れると心強い。


何より、今までは【馬車で寝泊まりしている変り者】という目で見られがちだった俺が、同類が増えたことにより【過酷な馬車暮らしを耐え抜く冒険者のリーダー】ということになってしまった。


まあ、客観的に見れば車中泊暮らしなんて過酷極まりないよな。

でも、仲間と一緒なら楽しめるんだぜ。





Lesson42 『同好の士を厚遇せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【スキル】


食材鑑定

高速学習



【資産】


銀貨148枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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