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Lesson41 『信条よりも民意を優先させよ。』

ミゲル村にヘレン婆さんという人が居る。

俺が冒険者を名乗り始めた頃からの知り合いであり、以前から良くして貰っていた。

来年70歳になるにしては相当元気な部類だと思う。



『え?

討伐をしたい?』



「ほら、最初から言ってただろう。

テッドちゃんの冒険者業は大賛成だって。」



『応援して下っている事には感謝してるんです。

え? ヘレンさんが戦われるんですか?』



「うん。

若い子達が楽しそうにやってるのを見ると羨ましくてね。」



繰り返すがヘレン婆さんはもう高齢。

来年には70歳となる。

いや、歳の割には背筋がシャンとしているが…



「冒険者依頼を請けるのに年齢制限はあるのかい?」



『あ、いえ。

ありません。』



しまった。

年齢制限を設定しておくべきだった。



「じゃあアタシも連れて行っておくれよ。」



『え、いや…』



参ったな。

ヘレン婆さんはラー油製造でも積極的に手助けしてくれているし、俺の瓢箪池活用策にも賛成の立場を取ってくれている。

粗略にして良い相手ではない。



「じゃーん。

旦那の遺品を持って来た。」



『いやいや!

危ないですよ!!』



ヘレン婆さんが握り締めているのは年代物のダガー。

農兵として戦場に駆り出された亡夫が戦功への褒賞として当時の領主から賜ったものとのこと。



『いやいや。

そんな大事な物を使うのはやめましょうよ。』



「でもさあ。

貴族が敵を討ったら勲章を貰えるのに、ウチの人は3人も斃したのにこんな小剣一本でお茶を濁されたんだよ?

公式記録に手柄は記されなかったみたいだし。

だから全然大事じゃないね。」



『いやいや、政治批判は…』



「アタシも討伐してみたいから、テッドちゃんが手伝って。」



『…わかりました。

但し、1匹だけです。

1匹だけ討ち取ったら満足して下さいね。』



「3匹! 3匹!

旦那とお揃い!!」



結局、泣く子と老婆には勝てずに押し切られる。

俺の頭の中では、モンスターの最弱候補がグルグルと回っていた。

…駄目だ、戦闘って結局リスクがあるからな。



「スライムがいい!!

アタシャ、スライムと戦ってみたい!

スライムなら勝てそう!!」



あー、素人あるあるだよなー。

農村で育った人でも、結構分かってないんだよなー。


確かにスライムには戦闘力は皆無だ。

強弱で言えばかなり弱い部類だろう。


だが、危険度は高い。

何故なら身体が強い酸性の粘液で構成されているからである。

意外に広く飛び散るのだ。

だからスライム駆除は火傷が絶えない。

言っておくが本職の狩人でも火傷をさせられる相手だからな。

絶対に甘く見てはならないのだ。



「じゃあ、ホーンラビット。」



『いやいやいや!!

駄目駄目駄目!!

アレは危険ですからね!!

体格こそ小さいですが、あの角に突かれて死傷する人間は毎年いますから!!

軍隊経験のある人でも普通に刺されてますからね!?』



ホーンラビットなんて論外。

ヘレン婆さんは不思議そうに首を傾げているが、アレはヤバい。

冒険者の宿でも度々注意喚起を出しているくらいだ。

ホワイトタウンに行った時などは、牧童がホーンラビットに首を刺されて殉職した事件が話題になっていたほどだしな。



「えーっと。

じゃあ、テッドちゃんに怒られないモンスターを教えて。」



『いやいやいや、別に怒ってはいないですけどね。』



考えろ、考えろ俺。

何か無難なモンスターはいないだろうか?



『蛇モグラですかね。』



「えー、あんなの畑仕事でいつも蹴飛ばしてるよ。」



ここら辺には【蛇モグラ】なる鈍臭い動物がいる。

その名の通り、蛇とモグラの短所を掛け合わせたような見た目。

一応、モンスターに分類はされている。

毒も無い上に、そこまで積極的に田畑を荒らす事がないので害獣指定はされていない。



『でも、旦那さんのダガーを使ってみたいでしょ?』



「えへへ、分かるかい?」



『とりあえず動きの遅いモンスターで試してみましょうよ。』



「よーし、出発だよ!」



ヘレン婆さんが向かったのはカボチャ畑。

稀に見掛けるらしい。



「テッドちゃん!!

見て見て!」



『あー、蛇モグラってこんな風に食事するんですねえ。』



奇妙なモンスターである、カボチャに頭ごと突っ込んでボリボリと内部から食べている。



「成敗!」



『あ!』



無防備な蛇モグラの腹を老婆が刺した。

血液がピューっと噴き出した後、少しもがいてから蛇モグラは死んだ。



「やったぜ!」



『討伐(?)おめでとうございます。』



「ふー。

結構楽しいねえ。

男衆が夢中になる訳だよ。」



『まあ、娯楽とでも認識しないと害獣駆除なんてやってられないですからね。』



「成敗!!」



『ちょ!』



「あはは、2匹も討伐しちまったよ。

案外駆除の才能があるのかもねえ。」



『危ないですから!

不用意な動きをしないで下さい!』



「あはは、ゴメンゴメン。

テッドちゃんは怒ると怖いねえ。」



…実はヘレン婆さんには才能がある。

殺生への抵抗が全くない上に、歳の割に身のこなしが軽い。

まあ、この人の自宅は小高い丘の上にあるからな。

毎日、麓の畑まで上り下りをしているので、下手な都会の若者よりは頑健なのかも知れない。



『ヘレンさん。

私には皆さんの安全を護る義務があります。

くれぐれも不用意な…』



「成敗ww」



『あっ!!

駄目って言ったでしょう!!!』



「あははは、ゴメンゴメンww」



うーん。

以前から思っていたが殺生だけは才能だよな。

髭モジャの大男でも血を見るだけでも怯えてすくむタイプが居るのだ、殺生を楽しむ老婆が居ても不思議ではない。

年齢や性別で適性は判断出来ないので難しいのだ。



「テッドちゃん、これ食べれるの?」



『あー、蛇モグラですかあ。

今まで依頼が無かったので調査が後回しになっておりました。

宿に帰ったらクラークさんに発注しておきます。』



3匹倒したので満足したのか、ヘレン婆さんはおとなしく俺と共に帰路に…



「成敗ww」



『あ!!!

駄目でしょ!!!』



凄いなこの婆さん。

ホーンラビットを突き殺してしまった。

いやあ、これはもうセンスだわ。



「見た? 見た?

アタシも結構ヤレるモンだろ?」



『勘弁して下さいよぉ。

私が息子さんに怒られるんですから。』



「あははははww

ゴメンゴメンww」



もしも老婆を駆除に同行させて怪我までさせた、なんて事態に陥ったら…

出禁じゃ済まないだろうからな。

想像しただけ冷や汗が流れる。



「ねえテッドちゃん。」



『今度は何ですか?』



「勲章が欲しい。」



『え!?

何言ってんですか!』



「だって兵隊さんは手柄を立てたら勲章が貰えるじゃないか。

実は娘時分から羨ましかったのさ。」



『いやいやいや。

勲章というものはですねえ。

正規の兵隊さんが正規の軍令に従って功績を挙げた時にだけ貰えるものなんですよ。』



「くくくw

テッドちゃんは真面目だねぇww

じゃあ、勲章の代わりに何かおくれ。

手柄を立てたって証拠が欲しいんだよ!!」



やれやれ、困った婆さんだ。

息子さんから厳しく言って貰わねば。

だが相手は古参の協力者である。

俺も強く出ることが出来ない。。



『…分かりました。

考えておきます。』



「くくくw

期待してるよーw」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



流石に勲章を自作する訳にはいかないので、肉体労働者時代の経験を活かすことにする。

賃金の引換券として用いられていた木札を応用した。


重い荷物を1回運ぶ毎に賃金と引き換え可能な木札を貰えるのだ。

この支払い方式なら途中で労働者が逃げ出しても雇い主は損をしない。

(それくらい苛酷な職場だった)



『レオナールさん。

ポゥさんに発注して欲しい仕事があるのですが。

大丈夫でしょうか?』



「気を遣う必要なんてありませんよ。

あの子は宿でゴロゴロしているだけですから。

宿代だって出してるのはテッドさんです。

遠慮する必要はありません。」



『いえいえ。

予算の中から適切な額を割り振りましょう。

実はですね、モンスターが描かれた木札を作って欲しいのです。』



「え?

木札?」



『いや、深い意味はないのですが…

例えばスライムを倒したらスライムの絵柄が描かれた木札を渡したいんです。』



「…。」



『レオナールさん?』



「…あッ!!」



『うわ、びっくりした。』



「テッドさん、貴方は恐ろしい人です…」



『え?

いや、私は別に…』



「駆除効率は劇的に向上する事でしょう!!」



『え?

そうなの?』



「お任せ下さい!

クラーク・ポゥの両名と合議して必ずや最高のスキームを作り上げて御覧に入れます!!」



『え?

いや、遊びですよ?

ほんのお遊びですからね?』



「テッドさん、貴方は恐ろしい人です。

こんな残酷な手法を思いつくなんて。」



『え?

残酷なんですか?

これ残酷なんですか?

じゃあ中止しま…』



「是非断行しましょう!!

冒険者の宿が飛躍する事が確定しました!!」



『え?え?え?』



そこからは早かった。

仕事終わりに3人の女子がヒソヒソと額を寄せ合って何やら討議。

そんな日々が数日続き、そろそろ止めた方がいいのかな?と俺が思った矢先に納品された。



『お、おお!!

何もこんなに手の込んだ物を作らなくてもいいのに…』



「いえ!

これは農村行政を一変させ得る大発明です!

恐ろしい、恐ろしい人ですよテッドさんは…」



…俺に言わせれば君達の方が余程怖いのだが。



『ま、まあ。

何はともあれ、素晴らしい意匠の木札です。

皆も喜んでくれるでしょう。』



「き、き、き、木札じゃないです!

デュフフフww」



普段俺とは口を利いてくれないポゥ女史が勝ち誇ったような笑顔で顔を近づけてくる。



「こ、こ、こ、これは討伐チップです!!」



『と、討伐チップ?』



顔を背けながら聞き返した所、ギミックは下記の通り。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【討伐チップ】


モンスターの姿が彫りこまれた木製のメダル。

(ヒノキ製なのでかなり丈夫)

討伐を証明する部位と引き換えに、該当モンスターのデザインのメダルが贈呈される。


各メダルにはモンスターの姿と名称以外にEからAまでの記号が記載されている。

その意味は【討伐難易度】である。

蛇モグラやスライムは弱いモンスターなので討伐難易度はE。

従って彼らのメダルには大きくEと刻まれている。

逆にサンドシャークのような個人では対処不可能な猛獣はランクC。

ロングスネークなどの自治体でも匙を投げるような怪物はランクBとする。


これには冒険者達の競争心や名誉心を煽って、危険モンスターとの戦いに誘導する悪辣な意図が込められている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『駄目駄目駄目!!

私の提唱と全然違うじゃないですか!!

そんな酷い制度は却下です! 却下却下!!』



「考えたのはテッドさんじゃないですか!」



『いやいやいや!!

曲解やめて、曲解やめて。

もっと、ほんわかしたコンセプトだったでしょ!!』



「でも絶対みんな喜びますから!!

男の人とかこういうの好きじゃないですか!!」



『それが分かるから反対なんです!!!』



「一週間だけ!!

一週間だけ!!

期間限定キャンペーンで!!」



『いやいやいやいや!!』



「試験的に! 試験的に!!」



結局、押し切られてしまった。

討伐チップとやらの制作費も高かったしね…



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ほーら、私の言った通りになったじゃないですか。』



討伐チップを導入してから、冒険者を名乗る者が激増した。

近隣のヤンチャな若者のみならず、結構な歳の老人も多い。

きっとヘレン婆さんがあちこちで喧伝した所為だろう。

そしてアホみたいな数の負傷者が出ている。

ホーンラビットに掌を貫かれたり、スライムの処理に失敗して顔に大火傷を負ったり。



『レオナールさん。

これは由々しき問題ですよ。

まるで労働者が消耗品のように扱われているではありませんか。』



「御言葉ですが!」



『む!』



「でも皆楽しそうじゃないですか!!!」



『いや、それが問題だと言っているのです!!』



「人生一度っきりなんですよ!!

つまんない無問題なんかより、問題ありありでも楽しい方が良いに決まってるじゃないですか!」



『いやいやいや!!

それは若者特有の刹那的な思考ですよ!!!』



「でもジジババの方が楽しそうじゃないですか!!」



そうなのだ。

討伐チップ獲得の第一号であるヘレン婆さんが近隣で見せびらかした為、老人達が棍棒を持って徘徊するようになってしまった。

半世紀前にヘレン婆さんに懸想していたクルーガー翁などは両脚を貫かれながらもロングホーンラビットの巣を単独破壊する大功を挙げたほどである。

その為、俺は息子さん夫婦に平謝りする羽目になった。



「でもテッドさんも、冒険を成功させたら楽しいでしょう?

特にモンスターを駆除した日なんかはテンション上がってるじゃないですか。」



『…否定はしません。』



「じゃあ、独り占めしないで分けてあげましょうよ。」



『私は皆を危険に晒したくないです。』



「それも分けて下さいよ。」



『?』



「私達だってテッドさんと同じ人間です。

勝手に半人前扱いしないで下さい。

私達にだって失敗する権利や破滅する資格があります。」



『…正気の沙汰ではありません。』



「それです。」



『?』



「みんなテッドさんの狂気的な生き方に憧れてるんですよ。

真似をすることくらい認めてあげて欲しいんです。」



『憧れる!?

私に?』



「馬車に住むとか最高にクールですよ。」



呆れて物も言えない。

コイツらは一体何を考えて生きているのだろう。


駆除なんて生業の1つだ。

殺生も冒険も単なる手段。

俺は生き延びる為に強いられているだけ。


でも、もうこの歳になれば流石に理解出来てしまう。

自分が少数派であることを。

世間一般の人は、多少のリスクであれば冒険や殺生を好むのだ。

勇気だの侠気などと言った下らない価値観に陶酔することが出来るのだ。



『レオナールさん。』



「まだ何か!?」



『…貴方達でも冒険したいと思う時があるのですか?』



「ありますよ。

当たり前でしょう。

私もリコ先輩もよくそういう話題で盛り上がります。」



『まさか、流石にクラークさんはそんな事を考えないでしょう。』



「まさかと思うなら、御自分で尋ねてみたらどうです?

今度連れて行ってあげたらいいですよ。」



『いやいや!

御婦人を危険に晒すことなんて許される訳がないでしょう!!』



「でも討伐チップ第1号はヘレンさんでしょ?」



『それは行きがかり上の話ですよ。』



「本当はテッドさんも分かってるんでしょ?

女の子だって冒険に憧れてるって。」



『…。』



「歳を取ったらおとなしくしてなきゃ駄目なんですか?

女が自分の足で歩く事はそんなに悪いことなんですか?」



『…。』



「…。」



『それでも私は反対です。』



「…でしょうね。」



俺は女が武器を手にするなど大反対だったが、制度としては許容した。

冒険者は年齢・性別不問。

宿の看板にそう書かせたのだ。

結果、大量の女性が流入した。

嘆かわしい事に妙齢の女性すら混じっていた。



『クラークさんは、この状況を予想していたのですか?』



「いいえ、テッドさんがこの時代を作ってくれたんです。」



クラーク女史はポシェットから冒険者カードを取り出すと愛おしそうに抱き締めた。



『私は今でも反対です。

御婦人が冒険者などと…』



「でも、みんながテッドさんに感謝してます。」



『…理解不能です。』



「反対なさっているのに許してくれたでしょう。

その点に皆が感謝しておりました。」



『クラークさん。』



「はい。」



『いずれ、御婦人が当たり前のように剣を握って野山を駆け回る時代が来るかも知れませんね。

いや、来てしまうでしょう。』



「…テッドさん。」



『はい。』



「貴方はいつだって私の夢を叶えてくれます。」



それは本当に屈託のない笑顔だった。

いつもの澄ました笑顔ではなく、年齢不相応な幼く無防備な笑顔だった。



俺は断じて反対だが、皆が笑ってくれるのなら目を瞑ろう。





Lesson41 『信条よりも民意を優先させよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【スキル】


食材鑑定

高速学習



【資産】


銀貨187枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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