Lesson39 『人格と能力はバラで買え。』
俺にはさっぱり理解不能なのだが、レオナール女史の友人で冒険者の宿への就業を希望する御婦人が居るらしい。
聞けば王都大学時代の同期であり、当然実家は貴族であった。
別に平民女子でも法律的には大学受験可能である。
ただ、そもそも自分の娘を王都の大学に進学させる程の財力や野心のある者は先に爵位を買っているというだけの話。
「如何でしょうか?
非凡な子です。
能力は保証します。」
レオナール女史の言い回しで察する。
【非凡】が女子の世界での褒め言葉でない事くらい俺でさえ知っている。
殊更に能力を強調したと言う事は人格面に難があるのだろう。
『皆と仲良くやってくれるなら構いませんよ。』
「…」
案の定、返答に詰まる。
俺が最重要視しているのが協調性である。
別に仲良しごっこまでは要求しない。
ただ他者を攻撃さえしなければ構わない。
俺は他罰的な雰囲気が生まれない事だけに専心しているし、今の所は概ね成功している。
この秘かな努力を壊される事だけは何としても避けたいのだ。
「それにかなりの美人ですよ!」
『…。』
じゃあ駄目だな。
美人で能力が優れ人格面に難があるということは間違いなくトラブルメーカーだ。
うーん、どうやって断ろうか…
あまり角が立たないように収めたいのだが…
「無論!
ウォーカーさんの危惧は理解しております!
なので面接だけでもしてやってくれませんか?」
レオナール女史は賢いからなぁ。
俺のほんの僅かな表情の動きから本音を探り当ててしまう。
受付嬢としては稀有な人材だ。
ただ、現在は彼女に負担が集中している。
交代要員の必要性は以前から検討していた。
『分かりました。
では、お話だけでも伺ってみましょう。』
「ありがとうございます!」
レオナール女史の深い頭の下げ方を見て確信する。
やはり、その美人とやらは持て余し者なのだ。
まあ、俺が言えた義理ではないが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…。」
『緊張しなくて大丈夫ですよ。
あくまでお話するだけですから。』
「あ、あうあう。」
『ははは、学生時代の想い出話でも聞かせて下さい。
王都はさぞ華やかなのでしょうねぇ。』
「あう、あう。」
あー、こっちのパターンか。
学歴高い人でたまに居るよなー。
最近ではコミュ障って言うんだっけか。
話を聞く限り、勉強は恐ろしく出来るらしい。
ただ、対人能力が致命的に欠落している。
あのレオナール女史が珍しく恐縮する筈である。
『えっと、もしも冒険者の宿に就業される場合。
給与面などでの希望はありますでしょうか?』
「月給銀貨1000枚でッ!」
…何で要求する時だけハキハキ喋るんだよ。
『なるほどー。
それではレオナールさんの月額を上回ってしまいますねぇ。』
「?」
美人 (そこまででもない)は不思議そうな表情で首を傾げる。
あー、義理まで乏しいパターンかぁ…
俺には使いこなすの無理かなぁ。
『えっと…
仮に就業されるとして、宿に対してどのような貢献をして頂くことが可能でしょか?』
「あ、あ、あ。
こ、これ!」
突然、俺の前に紙束がドサッと押し付けられる。
衝撃で僅かに茶が溢れたが見なかった事にしてやる。
「レ、レポートです!」
その後、20分ほど掛けて真意を探ったところ、どうやら自分を冒険者の宿に雇った場合に如何に利益があるのかを書き連ねてくれたらしい。
どうやら人と会話をするのが幼少の頃から苦手で、特に相手が異性となると文章でしか意思疎通出来ないらしい。
ここ男所帯ぞ?
「(ズイッ)」
そして俺の返答も待たずにレポートを押し付けてくる。
居るよなー、こういう奴。
俺、工事現場の仕事でこの手の上司の下に配属されて悲惨な目に遭った経験あるわ…
『あ、すみません。
書面ではちょっと…』
「表紙くらいめくってくれてもいいじゃないですかー!!
キーッ!!」
感情コントロールも苦手かぁ。
扱う自信が無いなあ。
「じゃあ私不合格って事ですか!
また不合格って事ですか!
どうしてみんな私を不合格にするんですか!
キーッ!!」
俺が別業種に居たとしても敬遠しただろうなぁ。
だって難しそうだもん。
『俺、文字が読めないんです。』
「ふぇ?」
彼女は5分ほど呆然としていたが、突如ドヤ顔で学術の重要性を饒舌に語り始めた。
居るよなー、優位性を確信した瞬間に変なスイッチが入る奴。
飯場で腐るほど見たわ。
「ちょっと、ボーシャ!」
突然、背後から鋭い声が響いたので驚く。
うわっレオナール女史、裏に潜んでたのか。
そして隣にはクラーク女史。
怖い顔で唇を噛み締めている。
「はわわわ!
レオナちゃんにクラーク先輩ッ!
はわわわわ!」
そこからレオナール女史の説教が始まるのだが、居た堪れないので中座させて貰った。
俺ねー、昔から女の子が怒ってるのを見ると胃が痛くなる体質なんだよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ソファの前には申し訳なさそうな表情のレオナール女史。
「申し訳ありませんでした。
前から危うい子だったんですけど。
まさか、あんな失礼な態度を取るなんて。
いえ、多少は予見してましたけど。」
『あ、別に俺は気にしてないです。』
「では不合格の旨を伝えて来ますね。
次の長距離馬車で王都に帰らせます。」
『あ、これを。』
俺は網元から支払われたばかりの銀貨袋をテーブルに置く。
「え?
このお金は?」
『レオナールさんにお預けします。
銀貨を1000枚入れてます。』
「え?」
『ボゥ女史が提出して来たレポート。
お手数ですが、レオナールさんが査定して貰えませんか?
我々の活動にとって価値があると感じたら好きな値段で買い上げてやって下さい。』
「必ずあるとは断言出来ますが…」
『それは素晴らしいですね。
ただ、宿の受付をお任せするのはお互いの為にならないかも知れませんね。
あれは極めて対人能力が要求される仕事です。
レオナールさん達の負担を下げる意味でも、村の就業希望女子から選抜しましょう。』
「はい!
そうして頂けると非常に助かります!」
レオナ・レオナールは真の意味での逸材である。
なのて定型業務に拘束させておくのはあまりに惜しい。
そのレオナールよりも卒業席次が高かった女なら使い道はあるに決まってるだろう。
アレだけ欠陥だらけで総合成績3位って相当なものだぞ。
無論、俺には使いこなせない。
そもそも、これまで人生あまりに女と縁が無さ過ぎた。
だから微塵も分からないのだ。
彼女達の行動原理が。
ただ、流石に女子同士の力関係くらいは俺でも分かる。
ポーシャ・ポゥはレオナール女史くらいにしか構って貰った事がないのだろう。
だから金魚の糞のように扈従しているのだ。
後、クラーク女史から大学時代に相当厳しく指導されたのだろう。
分かりやすい怯え方をしていた。
つまりポゥ女史が俺を裏切る事はあっても、レオナール女史を雇っている俺を裏切る事はない。
これは構造上の問題なのだ。
『レオナールさん。』
「はい。」
『他の業者さんとの兼ね合いもありますので…』
「ええ。」
『くれぐれもクラークさん以外に対しては金額は御内密に。
(訳:クラークにもカネを分けろ)』
「はい!
勿論です!」
『それと宿も支払いが苦しいので、ポゥさんには即金になる案を出させて下さい。
もしも効果があれば来月もレポートを買い取らせて頂きます。』
「ええ、そこはご安心下さい。」
そうなのだ。
俺がポゥにカネを払うのは、レオナールのこの確信なのだ。
あの不肖の友が成果を挙げる事に関しては微塵も疑問を抱いていない。
万が一、不足があっても経緯からしてクラーク・レオナールの両才媛がサポートして必ず形にする事は目に見えている。
だから、この銀貨1000枚は賢い出費だと断言出来る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、ポゥ女史はグリーンタウンの女宿に引き籠っている。
俺達へのレポートも書くし、合間に王都の劇団に売り込む戯曲も執筆しているそうだ。
図書館のフリーチケット(後2年も期限が残っている)を保有しているので、執筆に飽きると入館し、本棚の前をウロウロしながらニヤニヤと笑っているらしい。
後、イラストを描けるのは助かる。
モンスターを可愛らしくデフォルメしたイラストを俺宛てに送りつけてくる。
写実的に書け、と指摘しても無視。
ひたすら幼児が考えた様な可愛らしいイラストが続く。
半月に一度くらい冒険者の宿に遊びに来ては、モンスター死骸の実物を見て卒倒している。
結局、誰とも打ち解けず何処にも馴染めない女ではあるが、彼女の中では何故か俺が仲間に分類されているようである。
俺では制御不能だが、放し飼いの猟犬でも手に入れたと思えば、幾分自分を納得させる事が出来るというものだ。
Lesson39 『人格と能力はバラで買え。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【スキル】
食材鑑定
高速学習
【資産】
銀貨204枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (弟子)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




