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Lesson3 『行き掛けの駄賃を得やすい位置に陣取れ。』

「おーう、冒険者くーん。

商売繁盛しとるかね。」



『あ、ハンスさん。

どもです。』



森から出る時に農夫のハンスとすれ違う。

農夫と言っても、街に出稼ぎに行かないと食えない3反百姓だ。



「なあテッド君。

冒険者って、どんな仕事なの?

しんどい?」



『え?

どうでしょ。』



ハンスには先週ブルーベリーを貰ったばかりだ。

粗略には出来ないな。



『まあ、しんどいって程もないっすよ。

えっと、モンスター討伐とか!』



「え、マジ!?

キミ、見た目に寄らず勇ましいんだな!」



『ふふふ。

モンスターって言っても、ただのホーンラビットですけどね。』



「え?

ホーンラビット?」



『ははは、俺は全然勇ましくないですよ。

精々兎と追いかけっこする程度の男です。

失望しちゃいました?』



「…。」



『?』



「いや、助かるよ。」



『え?』



「だって、俺達農家にとって最も脅威なモンスターはホーンラビットだから。」



『ははは。

またまたー、《最も脅威》は言い過ぎでしょ。

やっぱり怖いモンスターって言ったら、キマイラやドラゴンみたいな伝説級モンスターですよ。』



「え、でも。

ドラゴンもキマイラも、この辺までは来ないし。

何百年前かに南の川を渡ったって記録は村に残ってるけど。」



『ああ、確かに。

この辺はそういう話は聞きませんよね。』



「俺達農家にとっちゃさあ。

あったかどうかすら分からない何百年前のおとぎ話なんかより。

今、畑を荒らしてるホーンラビットの方がよっぽど脅威だよ。」



『ですよねー。』



「その角、見せて貰っていい?」



『あ、どうぞどうぞ。』



「デカいなー。

体長どれくらいだった?」



『えっと。

50センチ弱って所でしょうか。』



「マジ?

どの辺で見かけた?」



『湖の奥です。

ほら、畔に柳の木が並んでる湖があるじゃないですか。』



「え?

ひょっとして瓢箪池?」



『あ、すみません。

名前まではちょっと。

ただ、壊れたボートみたいなのが並んでましたね。』



「なら瓢箪池だよ、村が大きかった頃はあの辺まで村民が入植してたんだ。

100年前までは養魚もやってたんだぜ。」



『ああ、それでボートがあったんですねえ。』



「へー、やっぱりテッド君は凄いなぁ。

もう道も無くなってるだろうに。」



『あ、ありがとうございます。』



「…。」



『はい?』



「物は相談なんだけどさ。

ウチの村長の話を聞いてやってくれない。」



『ええ、まあ俺で良ければ。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



村長と言ってもハンスにとっては従兄弟にあたる人物なので、面会にそこまでの緊張感はない。

村長の奥様らしき老婆に「客の前でハンスちゃんはやめてくれよー。」などと軽口を叩いている。



「テッド君。

この爺さんがウチの村長。

若い頃は切れ者で有名だったんだぜ。」



『初めまして、テッド・ウォーカーと申します。』



「…うん、はじめまして。

キミの事はハンスから聞いていた。」



『…。』



「…。」



最初、村の領域に勝手に入っている事を怒られるのかと思ったがそうでもなかった。

俺がキャンプを張っていた付近は正式に廃村手続きが済んでおり、特に使われていなかったようだ。

(ちゃんと廃村手続きをしないと使ってない土地でも税金を取られるからね。)



「このホーンラビットの角。

立派だねえ。」



『あ、ありがとうございます。』



「最近はコイツらが増えてね。

ワシが子供の頃は年に1匹見るか見ないかだったんだが…

こうも大繁殖してしまうとね。

畑が荒らされ放題だよ。

猟師村やマタギ団体を雇えればいいんだが、そういう連中は貴族や資本家が経営する大農園が囲い込んでるからねえ。」



『スミマセン。

なんか、大変みたいですね。』



「初対面でこんなお願いするのは図々しいんだけどさあ。」



『はい?』



「ホーンラビットの巣を見つけてくれんかね。」



『巣ですか?』



「ほら、アイツらって一つの穴に密集して住んでるでしょ。

巣穴を見つけないと、その中でどんどん交尾して繁殖しちゃうんだよ。

それで強い個体が別の巣穴を作ってそこでも繁殖を開始する。

東の畑が全滅してしまったのは、その所為だ…」



『ああ、じゃあ早めに駆除したいですね。』



「帝国の連中は巣穴に焙烙を投げ込んで駆除してるらしいけど。

どうやってるんだろう?

ノウハウが知りたいなー。」



『あ、同感です。

帝国は害獣駆除に結構熱心みたいですよ。』



「ん?

テッド君は帝国情報も詳しいの?」



『たまたま向こうの猟師さんと雑談をした事があるだけです。』



「おーッ!!!!!」



『え?』



「すっげええ!!!!」



『あ、いやいや。

森の中で一緒に釣りとかしただけっすよ。

別にずっと仕事の話をしてた訳じゃなくて、女の話とか。

そんな感じですよ。』



「すげええええええええ!!!!!

戦場以外で帝国人なんて見掛けねーよ!!!!」



『あ、確かに。

言われてみればそうですよね。』



「いやいや、キミの事を低く見とったかも知れん。

オイ、バーサン。

もっと良いお茶はないのか?」



『あ、いえいえ。

お構いなく。』



そんな遣り取りがあって、村長から幾つか頼み事をされた。

備忘も兼ねて箇条書きに記す。



・帝国のホーンラビット駆除器具を入手して欲しい。

・ホーンラビットの巣を発見して欲しい。

・廃村に目ぼしい残置物があれば回収して欲しい。



結構図々しいお願いだなと思いながら渋々頷く。

…俺も生活に余裕がある訳じゃないからな。



『ええ、まあ。

余力がある時でしたら…』



「…忙しいかね?」



『いや、まあ。

やっぱり生活もありますし。

街に戻って仕事を見つけないと。


…その不躾な質問なんですけど。

別に給料が出る訳じゃないんですよね?』



「…うん、見て分かる通り。

ウチの村は貧しい。」



だよな。

村長の屋敷からしてショボい。

あの湖で養魚をやってた頃が村の全盛期で、以後は衰退し続けているらしいからな。



『じゃ、長居するのも申し訳ないですし、俺はそろそろ…』



「確かに給料は払えない!

そんな余裕はない!

でも、成功報酬って形ならどうだろう?」



『え?

成功報酬?』



「焙烙の実物を入手してくれたら銀貨100枚を支払おう!」



『え?』



頭の中で損得勘定が始まる。

銀貨100枚、悪い話ではない。

が、そんなに簡単に帝国商品が手に入る物なのだろうか?

幾ら休戦協定が発効したとは言え、そもそもが長年の敵国同士である。

仮に帝国人と接触出来たとして譲って貰えるものなのだろうか?

(と言うか、鉢合わせたら殺される確率の方が高いだろ絶対。)



「他の依頼にもちゃんと報酬は払うから!」



『え、ええ。』



村長が示した成功報酬案は下記の通り。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



・帝国駆除器具入手 (銀貨100枚)

・巣穴発見     (一カ所につき銀貨5枚)

・残置物      (時価)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



帝国は論外としても、巣穴や残置物に関してはキャンプのついででも遂行可能なので請け負うことにした。

窓口はハンス。

何かあれば、まず彼に一報入れる取り決めとなった。



「テッド君。

なんかゴメンな。

ウチの村長、強引だろ?」



『あ、いえいえ。

仕事が貰えることはありがたいです。』



勿論、ありがたい等という返答は嘘だ。

本音を言えば戸惑っている。

普通は働いたら賃金が貰えるものだ。

だが成功報酬という事は…

結果を出さない限りはタダ働きになってしまう。



『いや、本当に感謝してますよ。』



「う、うん。

それならいいけど。」



俺が釈然としていない事が伝わっているのだろう。

ハンスは気まずそうだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



街に帰る予定だったのだが、気が変わったので湖に戻ることにする。

深い意味はない。

ただ、あわよくば残置物に高値が付けば、という淡い期待である。

安全な高台を見つけるとテントを張る。

結構な重労働だが、軍隊で大佐の為に張らされてた頃を思い返せば、思わず口笛を吹いてしまうほど楽しい。

同じ苦労をするにしても、自分の為の苦労と分かっていれば、人間は幾らでも前向きになれるのだ。



『なーんか、落ちてねーかなー。』



廃屋跡を発見した俺はブーツで朽木を押し退けながら探索する。

当たり前だが金目の物は見当たらない。

廃村手続の際に全て持ち去られているに決まっているし、廃屋にしても大半が樹木に覆われているからだ。

何度かこの場所を通っていた俺ですら単なる茂みだと思っていた。


唯一残っている生活の痕跡が苔まみれの石臼。

恐らく重いので放置されたのだろう。

長年荷運び労働者をしていた俺ですら1人で持ち上げる事は不可能だ。

ただ、遠目に見ると結構立派な作りだったので、周りの藪を伐採してから苔を除去してみる。


何だろう?

明らかに家庭用の臼では無かった。

産業用なのだろうか?

確か養魚をしていたと言ってたな。

魚の餌を挽いていたのか?

それとも魚を挽いて魚粉でも作っていたのだろうか?

分からん。


持ち帰れば、幾らか銀貨を貰えそうな気がするが…

こんな重い石臼を抱えて山道を戻るのは正気の沙汰ではない。



『うーん。

一応、何か持って帰らないと恰好が付かんからなぁ。』



折角依頼が貰える関係性を築けたのだ。

末永くお付き合いさせて貰いたい。

その為には、俺が役に立つ存在だと思わせなければならない。



俺は石臼があった辺りを念入りに漁る。

木や布は朽ちるが、金属や石材は残る。

それを踏まえて、金属っぽいものが落ちていないか、棒で石臼の周りをパンパン叩きながら這いずり回った。



小一時間ほど悪戦苦闘しただろうか?

珍妙な形のドアノブ(?)らしき物を発見した。

後、錆だらけの古釘の束。

もっと金目の物を発見したかったのだが、世の中はそんなに甘くない。



その日は釣り竿を湖に垂らして、焚き火の灯りで石臼を弄んだ。

ドングリを挽いてみると本当に粉になったので、爆笑しながら先人の叡智を喝采する。

調子に乗って魚の骨や木の枝を挽いているうちに、滑りが悪くなったので泣きながら徹夜で修理した。

翌日目覚めると昼過ぎだった。

もう石臼弄りは懲り懲りだったので、金目のものを探して散歩。

ホーンラビットを見かけたので、半日掛けて兎狩りに興じた。

テントに戻って鱒を焼いて食ってから眠った。



『これって本当に仕事なのかなぁ?』



未だに自分でも半信半疑だが、当分飢え死にはせずに済みそうだった。

テントに横たわってから、汚れの染み付いた掌を眺める。



『やっぱり単なる浮浪者だよな(笑)』



身体を丸めてクスクスと笑っているうちに眠りについていた。

翌日、戻る事にする。

湖で念入りに身体を清めてから出立。

乾かしてあった普段着に着替えてから村に入った。



『ハンスさーん、今いいっすか?』



「おーう、いらっしゃい。

今から森に入ってくれるの?」



『あ、いえ。

ホーンラビットの巣穴っぽいのを見つけたので、確認して貰おうと思って。

これ、付近にいた個体です。』



「おお!

2匹も仕留めたのか!?」



『この2匹がクルミを咥えて入ろうとしていた穴があるんですよ。

多分、それが巣穴なんじゃないかな、と。』



「すっげえ!

プロっぽいww

マジですっげえww」



『大袈裟ですよお。』



「おう、じゃあ村長の所に持って行こうぜ。」



『え?

なんで?』



「いや、だって。

折角、討伐したんだから見て貰わないと手柄の立て損じゃん。」



『ははは、討伐って大袈裟だなあ。』



「いやいや、ホーンラビットも小型とは言えモンスターの一種なんだからさ。

討伐には変わらないじゃん。

歴としたテッド君の手柄だよ。」



『ああ、恐縮です。』



幾ら角が生えているとは言え、所詮は兎である。

ここまで喜んでくれるとは思ってなかった。

大体、相手は農夫なのだから兎狩りくらいは日常的に行っているものだと漠然と決め付けていた。



「おお、やっぱり森の奥の個体はデカいなーww」



村長は何度も大袈裟に手を叩いて喜び、2匹のホーンラビットを銀貨1枚で買い取ってくれた。

別にそういう書面を交わした訳でもなんでもないのだが、この遣り取りが前例となってホーンラビットの買取相場は銀貨半枚と決まった。



案の定ドアノブ(?)に価値は無かったが、村の紋様が掘られていた事に村民達がえらく喜び、磨き上げて集会所に展示されることになった。

俺には小遣いとして銀貨10枚と干し林檎が贈呈された。



「ゴメンね。

ウチの村は貧乏だから。

キミなら大農園の準社員になれるかも知れないのにね。」



『いえ、お役に立てたみたいで幸いです。』



金額的には割に合っていない。

グリーンタウンで荷運び仕事をした方が、より多くの銀貨の得られる筈なのだ。


だが、俺は損をした気がしていない。

寧ろ、得をしたような感覚がある。


…何故だ?

村からグリーンタウンに向かう最中、ずっと考え続けていた。

いや、答えはずっと昔から出ていた。

ただ、成果を得た事が無かったから、それを言語化出来ていなかっただけなのだ。


答えは明白。

今回のドアノブ拾いもホーンラビット退治も野営のついでである。

別にずっとドアノブを探していた訳でも兎狩りに興じてた訳でもない。

寧ろ、殆どの時間を釣りや石臼磨きに費やしていた。

ドアノブや兎なんぞは言ってしまえば、ついでに過ぎない。


…そうか。

生活の副産物がカネになったから、俺は喜んでいるのだ。

もしもドアノブ探査員として数日拘束された結果の賃金が銀貨10枚しか貰えなかったのなら、きっと怒り狂っていただろう。

だが、今回はついでだ。

別にずっとその仕事に拘束されていた訳じゃあない。

だから村人が申し訳なさそうな顔で渡して来た金額に納得出来たのだ。


単純労働者はずっと雇用主に監視されている。

だから、ついでの副産物を得る余地などない。

だが、自由度の高い冒険者なら…

自分の才覚次第で幾らでも儲けの幅は広げられるのではないだろうか?

俺は、その発見が嬉しかった。

ようやく言語化出来たことが堪らなく嬉しかったのだ。


別に商才を気取る気など毛頭ないが…

俺なりに商売のコツが見えてきた気がする。





Lesson3 『行き掛けの駄賃を得やすい位置に陣取れ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨17枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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