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Lesson38 『分からない分野は分かる者に委ねよ。』

冒険者の宿の常連に元果樹職人の一団が居る。

元々は果樹園造成の為の技術者としてグリーンタウンに招聘されたのだが、成り行きで俺の冒険者業を手伝ってくれている。

職業柄、山歩きや植物採集に特化した連中なので村落からの依頼と極めて相性が良く、すぐにまとまった額を稼げるようになり、1番若手のニコラス氏に至っては大根村の女性を娶るまでに至った。



「これに皆が触発された訳だな?」



『うん、急に相談が殺到してさ。

安定した所帯を持ちたいって泣きつかれるんだよ。』



受付が終わった冒険の宿のロビー。

俺とジェフはグラスを片手に長椅子にもたれ掛かっていた。



「でもオマエも独身じゃん?」



『そうなんだよ。

独り者の俺なんかに相談するのは筋違いだとは伝えてるんだけど…』



皆も無茶振りするよな。

俺が独身って知ってる癖にさ。

「女を紹介しろ」だの「結婚して落ち着きたい」だの。

いや、気持ちは分かるけどさ。

よりにもよって俺に相談するかね…

挙句の果てには「俺がモテないのはリーダーであるオマエの責任だ。」なんて言い出す奴まで現れる始末。

やっぱり余所者のニコラス氏が嫁(しかも美人だ)をかっさらった事が効いたのだろうな。



「テッド。

どうしたいんだ?」



『そりゃ、何とかしてやりたいけどさ。

でも、俺も結婚した事ないからな。

こればかりは助けようが無い。』



「分かった。

解決策を伝授してやろう。」



『おお!

流石はジェフ!

頼もしいよ!』



「まず、あそこにレオナール女史が居るな?」



『うん、居るね。』



「そこに行って、こう言え。

《そろそろ身を固めたいのだが、生来の不器用者でどうしていいのか分からない。恥を忍んでお願いするが、今後どうするべきなのかを教えて欲しい》とな。」



『え?

俺が身を固めるの?』



「話の順序さ。

いいから行ってこい。

一言一句そう言えよ。」



『あ、うん。』



気は進まなかったが、レオナール女史に声を掛ける。

最初は目を丸くしていたが、話は聞いてくれた。



「どうだった?」



『いや、《全て私に任せろ》とだけ言われた。』



「ふむ。」



『え?

これで終わり?』



「だってレオナちゃんほどの才媛が任せろって言ったんだろ?

俺達如きが口を挟んでも仕方ないよ。」



『お、おう。

え?

いや、俺はこれからどうすればいいの?』



「皆を結婚させてやりたいのか?」



『え?

どうだろ?

でも、希望者が居るなら叶えてやりたいじゃん?

いつも俺の依頼を請けてくれてるんだからさ。』



「じゃあ、それを各村長の家に行った時に相談しろ。

必ずそれぞれの奥さんにも聞くんだぞ?」



『うーん、俺も忙しいからな。

ほら、角の長いホーンラビットの目撃情報が相次いでるだろ?

怪我人が出る前に早く退治しなきゃ。』



「ああ、ロングホーンラビットな。

そっちは俺がやっておくから、オマエは村長の奥さんにアドバイスを貰って来い。」



『…。』



「なぁ、もう認めるしかないぞ。

オマエは大きな組織のボスだ。」



『給料も払ってないのにボス面出来ないよ。』



「受付嬢には払ってるしゃねーか。

出入りの大工や家畜業者にも報酬を弾んでる。」



『いや、固定費は払わなくちゃだから。』



「ははは、固定費払ってるならソイツがボスだよw」



『そんなものかなぁ。』



「ここからはマジな話だ。

ボスはボスにしか出来ない仕事をしろ。

兎狩りはオマエじゃなくても出来る。

そうだな?」



『分かった。

明日、早速回ってみる。』



話はそこでおしまい。

水浴び場で身体を清めてから馬車の荷台で眠りにつく。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



どのみち、依頼の進捗報告があるので各村長宅を回る。

やはり話題は未知のモンスターであるロングホーンラビット。

通常の個体の倍以上の巨大な角を振りかざし、性格は獰猛。

急遽クラーク女史をグリーンタウンに戻し、前例が無いか調査して貰っているところである。


特に馬借村の村長は頭を痛めており、いつ自分達の馬が襲われるかと怯えていた。

馬は単価が高いからね、1頭刺されただけで被害額が凄いのだ。


問題は奥さん連中。

ロングホーンの話題にはあまり関心がないようだが、俺が結婚の話題を口に出した途端にスイッチが入る。



「アンタが身を固めてないのが悪いんだよ。」



第一声がそれ。

事実なので否定出来ない。



「誰かいい人いないのかい?」



『あ、いえ。

皆さん素敵だと思います。

まぁ、俺個人の事は一旦置いておきましょう。

そんな事より、冒険者の宿の常連連中から泣きつかれて困ってるんです。

彼らを何とかしてやれませんか?』



「あのねぇテッドちゃん。

その人達は、普段お仕事は何をしてるの?」



『あ、いえ。

冒険者の宿に溜まってはグチグチと愚痴をこぼしてます。

酒代が無くなると慌ててスライム退治や薬草集めに走ります。』



「うん、女の目からすれば1番ナシのタイプね。」



『いや、男の目から見ても大概なんですけどね。』



「大体、それは仕事なの?」



『いやぁ、俺自身ですら冒険者なる屋号には疑問を抱いてますからね。

ぶっちゃけ、単なる浮浪者なんじゃないかなって思ってます。』



「まぁ、アタシも薄々そう思ってたけど、夫の手前ノーコメントで。」



『ですよねー。』



「まあ、テッドちゃんはまだいいさ。

冒険者って屋号を持って独り立ちしている。

お弟子さんも出来たみたいだし、ギリギリ親方とも言えなくはないわ。」



『ありがとうこざいます。』



「でも、その取り巻き連中となるとねー。

世間的には浮浪者の取り巻きってポジションだからねぇ。」



『ええ、耳が痛いです。』



「せめてさー。

職業欄に書ける肩書を用意してよ。」



『か、肩書ですか?』



「当たり前でしょ。

女は男の社会的地位と結婚するんだから。」



流石に老婆だけあって物言いがストレートである。

案外これが女の本音なんだろうな。

じゃあ俺なんか1番駄目じゃねーか、と内心自嘲する。



「兎に角。

結婚したいなら、まずは肩書を用意して来なってソイツらに伝えなさい。

面倒を見てやるかやらないかは、それからの話だよ。」



馬借村の他でも概ね似た反応。

村長はロングホーンの脅威について嘆き、村長夫人は俺達の社会的地位の低さを叱責する。

まあ、男女の役割ってそういうものなのかもな。

夕方にジェフのグループがロングホーン狩りに成功し、意気揚々と凱旋する。

なんと戦果は7匹!

しかも巣の大まかな位置まで特定したという。

この大手柄に村長は大喜びだが、夫人は警告するように俺を凝視している。

分かってますって。

単に狩りが上手いだけじゃ駄目なんでしょ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



夕刻。

結婚希望組を集めて、村長夫人達の言葉を伝える。

ロングホーン討伐成功の熱狂は反転し、一気にお通夜ムードに。

泣き出してしまう者まで居る始末。



「ウォーカー君、酷いよ!

肩書も社会的地位も無いから、こんな暮らしをしてるのに!」



『ですよね。

俺も似たような感想を抱きました。』



「そりゃあウォーカー君はまだいいよ!

冒険者って屋号を持ってるんだから!」



『いや、でも結局俺も独身だし相手も全然居ないですけどね。』



「でも肩書あるじゃん!

屋号を名乗れるじゃん!」



『ええ、まぁ、はい。

冒険者って肩書で得をしてる側面は大きいと思います。

何か特別な職業枠にギリギリ入れて貰えてるみたいな。』



「いいなー!

屋号いいなー!

俺達だって冒険者って名乗ってみたいよ!」



『え?

名乗ればいいんじゃないですか?』



「え?

いやいやいや、俺達は生粋の貧乏人だぜ?

暖簾分けして貰った所で看板代を払えないよ!」



『え?

別にいりませんよ。』



「え?

いやいや、看板代を徴収しなきゃ旗揚げした意味がないじゃない。」



『まぁいいじゃないですか、そういうの。

どうせ冒険者って俺が適当に考えた名称ですし、俺さえ納得すれば名乗りたい人が名乗ってもどこからもクレーム来ません。』



「…ちょ、ちょっと待って。

じゃあ、人から職業聞かれたら【冒険者】って名乗ってもいいってこと?」



『昼間から働きもせずブラブラするのも結構勇気が必要な冒険ですしね。』



「お、おう。

じゃ、じゃあ明日から職業欄に冒険者って書くぞ?」



『ええ、ご自由に。

人から「それは仕事なのか?」って聞かれたら、最近出来た新職業だって答えておいて下さい。』



「じゃ、じゃあさ。

《冒険者って何をする仕事だ》って聞かれたら何て答えればいい?」



『うーん。

困ってる人を助けるのが仕事なのではないでしょうか?』



「そうなの?」



『だって皆さんは傷を負ってまでロングホーンを退治したじゃないですか。

村人達も大喜びでした。

明日の巣穴探索、期待しております。』



「おう、任せてくれ!

…所帯持つ件は任せたぞ。

結構期待してるからな。

あ! 職業は冒険者ってちゃんと言っておいてくれよ!

もう無職じゃねーから!」



一同爆笑し乾杯。

話してみると気のいい連中ではある。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、屋号の自由化を宣言したことで皆が冒険者を名乗るようになった。

俺が恐縮する程の激しい歓喜だった。

今更認識した事だが、きっと誰もが何者かでありたいのだ。

俺もそうなのだろうか?


ゴメンな。

こんな肩書がありがたられると知っていたら、もっと早く名乗らせてやったのにな。



「師匠!

俺も今日から冒険者です!」



『うん、同業者同士宜しくね。』



「なぁウォーカーよ。

俺はどうなるんだ?」



『ポーター社長には運送会社経営の肩書があるじゃないですか?』



「でも、俺も男だから冒険したい!」



『いやいや、今までの人生冒険し過ぎたから経営苦しいんでしょ。』



「なにおー!」



一同笑。

堂々と職業欄に肩書を書けるようになった所為か、皆どことなく歩き方が誇らしくなった。

相変わらずみんなモテないが、それを笑い合える余裕すら生まれた。


俺は今のオマエらの方が好きだよ。





Lesson38 『分からない分野は分かる者に委ねよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【スキル】


食材鑑定

高速学習



【資産】


銀貨221枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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