Lesson37 『隣人の苦悩を和らげよ。』
馬車生活にもすっかり慣れた。
村々が停車スペースを貸してくれるようになったのもありがたい。
俺はブルータウンとグリーンタウンの間をピストン移動し、多くの依頼を託されるようになった。
駆除のみならず、刈り入れや配達といった明らかに【冒険】とは関係のなさそうな依頼も舞い込んで来た。
「ウォーカー師匠!」
『あ、はい。』
「話と約束が違います!」
『え?
なんで?』
「家屋解体なんて1ミリの冒険要素もないじゃないですか!
地味だしキツいし!」
『でも、誰かがやらなきゃ皆が困るしねぇ。』
今日は中洲村の放置廃屋を解体する日。
俺とトム君を含めて8人での作業。
工務店勤務経験のあるスコット氏の指示を仰ぎながら、皆で工程を進めていく。
『スコットさん。
今で何合目くらいの進捗ですか?』
「おおウォーカーさん、お疲れ様です。
これで半分ですね。」
『承知しました。
村長が再利用出来そうな部材があれば教えて下さいとの事です。』
「うーん、それでしたら。
この石畳は物がいいので、綺麗に剥がせば売れますよ。」
『え、そうなんですか?』
「私の弟が石材屋勤務なんです。
週末に会う約束をしているので、ざっくりとした相場を尋ねておきましょうか?」
『おお!
ありがたいです。
では後ほどスコットさんに村長を紹介させて下さい。』
そんな感じ。
兎に角、冒険者の宿には人が大勢集まっているので、大抵の業務の経験者が居る。
大工、石行、鳶職、農夫、漁師、馬丁、牧童、桶職人、鍛冶屋、飛脚、漬物職人。
なので、どんな依頼が来ても割と何とかなる。
今日の依頼にしたって。
「廃屋関係ならスコットが詳しいはずだ!」
との声が数名から挙がったので、彼に同行を願った。
当然、このチームの名称は【スコットパーティー】であり、リーダーのスコットには他のメンバーより多くの分配がなされる。
今回、俺達を指導した実績はウィルソン・スコットの冒険者カードに記録されるし、それが何らかの形で彼の利益となることを信じている。
いや、そうなるようにもって行くのが俺の仕事なのだ。
「ウォーカー師匠!」
『ん?
今度は何だい?』
「俺は師匠が皆のリーダーになったと聞いたから弟子入りしたんです!
それが何ですか!
これではまるでスコットさんがリーダーではないですか!」
『そりゃあ、彼は職人としてのキャリアが長いし、廃屋解体や廃材運搬の実務経験があるからね。
彼に指示を仰ぐのがベストじゃない?』
「ぐぬぬ。」
『それにさぁ。
あそこのハミルトンさん。
今日は1メンバーとして指示に従ってるけど、昨日の伐採依頼の時はリーダーとしてスコットさんに林業の説明をしてたでしょ?
リーダーなんて業務毎に1番詳しい奴が務めれば良いんじゃない?』
「むう。」
不満気な表情だが、多少は納得したのかその後のトムは黙々と作業を続けた。
うん、かなり順調なペースだし、明日からは俺が現場を見る必要はなさそうだな。
その旨、スコットパーティーに引き継ぎをして立ち去る。
「ねぇ、師匠。」
『ん?』
「俺、納得出来ないんですけど。」
『え?
何が?』
「いや、分け前ですよ。
スコットさんの方が師匠より多いなんて。」
『でも、今回の様に技能を持った人を指名した場合はリーダー手当を払う取り決めだからねぇ。
トム君だって、素人の指示で右往左往したくないでしょ?
今日の作業、スコットさんが居なければ、もっと時間が掛かっていたし、怪我人が出ていたかもだよ?』
「まあ、それは、はい。
でも、俺と師匠が同額ってのも…
いや、ありがたいんですけどね。
新弟子が満額貰えるなんて驚きました。」
『キミは新弟子じゃなくて1人のメンバー。
だから報酬も平等。』
「ありがたいことです。
そこは、凄く優しいシステムだと思います。」
『いやー、逆かな?』
「え?」
『同額って事は、仕事出来ない人や性格悪い人は誰とも組んで貰えてないって意味だよ?』
「そうなんですか?」
『皆もわざわざ口には出さないけどね。
そういう雰囲気はある。
嫌われがちな人は皆がやりたがらない隙間仕事を請けざるを得ないし、毎回1人だからノウハウが蓄積されない。』
「…。」
『もし俺が師匠面してトム君に訓戒する事柄があるとすれば、こういう社会の仕組みかな。』
そして、ここからが言語化し切れていない仕組みなのだが…
パーティーに入れて貰えないようなはみ出し者も、協調型とは別の方向で役に立つ。
この世には皆で取り組むべき仕事もあれば、1人で取り組まねばならない仕事もあるからだ。
俺は、本質的にはみ出し者タイプだ。
だからこそ、彼らの葛藤も意義も何となく理解出来るし、彼らを宥め賺して働かせる自信もある。
現に嫌われ者達もブツブツ言いながら、冒険者の宿に通ってくれている。
「…師匠、実は俺。
嫌われがちなタイプかもです。
徒弟に入っても、どういう訳か孤立して…」
『まあ、職場の相性もあるからねぇ。
無愛想にしてても人気者になる職場もあれば、愛想を振りまいても嫌われる職場もあった。
あー、でも孤立する事は多いかな。
俺って空気読めない奴なんだってさ。』
「どうしたら、嫌われずに済むんですかね?」
『経験則でしか語れないんだけど、仕事に精通している上で周りに気を遣っていれば、酷い扱いはされにくくなるかも。
勿論、周りが腹の底でどう思ってるかまでは分からないけどね。』
「…俺、物覚えも悪いし。
気遣いとか、よく分からないし…
どこのパーティーにも入れて貰えない嫌われ者ポジションかもです。」
『別に無理をして好かれる必要もないし、1人は恥じゃないよ。』
「…そんなもんすかね。」
トムの苦悩や不安は手に取るように分かる。
俺もそちら側を通ってきた人間だからだ。
ただ、孤独を辛いと思うには、もう歳を取ってしまった。
断じて強くなったのではない、きっと心が枯れてしまっているのだろう。
だが、この歳の子供に達観を要求するのは、あまりに酷だろう。
ヒューマンエラーを軽減する意味も兼ねて、【冒険者依頼】に1箇所だけ補足事項を挿入した。
【これらの依頼はソロ活動が基本ですが、パーティーを組まなければ遂行困難な依頼にはその旨を注記しております。】
たったのそれだけ。
そして実際にパーティーを組まなくてはこなせない規模の依頼にだけ【パーティー専用クエスト(推奨人数〇〇人)】と記すようにした。
無論、真面目に分類してみれば殆どの依頼は1人で充分済む類のものだった。
俺の手前味噌かも知れないが、この変革による効果はすぐに現れた。
それまで孤立気味だったあぶれ者達がやけに堂々と冒険者の宿を訪れるようになったのだ。
不思議なことに、かつて自分を仲間外れにした者達とも陽気に挨拶を交わす者すら居た。
関わらずに済むと分かっている者が相手なら、幾らでも愛想を振り撒けるものなのかも知れない。
「師匠!」
『んー?』
「いや!
凄いですよ!
どんどん人が増えてません!?
グリーンタウンの建築会社が日雇い労働者不足で困ってるって言うのに!」
…まあ、土建は人遣いが荒い上に人間関係も酷いからな。
俺だって他の選択肢があれば行きたくないもの。
「しかも、低額の依頼でもみんな喜んで請けてるし!
何すか?
何か大きな宣伝でもしたんですか!」
『ふふふふー。
その理由を考えるのがキミの学問なのだw』
「えー、俺わかんないっすよーw」
御者台の隣に居るトムの表情も心なしか柔らかくなったような気がする。
単に環境に慣れただけかもだし、ソロという在り方を知って安心したのかも知れない。
Lesson37 『隣人の苦悩を和らげよ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【スキル】
食材鑑定
高速学習
【資産】
銀貨221枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
肉醤
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
トーマス・トンプソン (弟子)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




