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Lesson36 『寄せられた好意に報いよ。』

【ホワイトタウンへの旅】という博打の勝算については、最初から自信があった。

いや、博打どころか手堅い投資くらいのつもりだった。



『ジェフ、聞き手になってくれ。

俺が戦果だと思っているモノを羅列する。』



「ああ、頼む。」



『まず馬車。

周囲からは浪費に映っているかも知れないが、俺にとっては生活革命だった。』



「いや、オマエは移動や運搬が多いからな。

足を確保した意味はデカいと思う。

俺は浪費とは感じない。」



『ありがとう。

次に肉醤製造セット。

瓶やら包丁やら。』



「うん、こっちが分からないんだ。

ほら、俺って地元で魚醤製造にも携わってる訳だろ?」



『だよな。』



「なまじ魚醤の製造原価と工数を知ってるだけになぁ…

一応念を押しておくが、俺達と価格競争だけはするなよ?」



『ああ、分かってる。

俺も横目で見ただけだけど、漁船から直接搬入出来る工房まであったものな。』



「見学出来ないか網元に聞いておいてやるよ。

後学の為にも規模感を知っておくべきだ。

ゴメンな、オマエが出発する前にこういう話もしてやれば良かったな。」



『…そうだな。

うん、俺も一度見てみたい。』



「ただな。」



『ん?』



「カネにはならないと思うんだが、テッドがアレコレと手の内を増やすのは大賛成。」



『おお。』



「やっぱりさ、冒険者の宿に遊びに来る奴って、良くも悪くもオマエに興味を持って来てるんだよ。

だから、芸の幅を広げて損はないと思う。」



『何か見世物みたいだなw』



「変なことばっかりしておいて今更嫌がるなよw」



ジェフは再び肉醤の臭いを嗅いでから顔をしかめ、俺の方に押し戻した。



『後、ホワイトタウンではどこの店でもパンフレットを配っていてな。

どれだけ価値があるか分からんのだが、一応持ち帰って来た。

後でクラーク女史に読んで貰おうと思っている。』



「挿絵を見る限り、商品カタログだな。

へー、武器防具はどこも一律なんだな。

ほら、この丸盾。

兵士や傭兵が持ってるサイズだ。」



『うん、武器防具みたいに商業ギルドが差配している商売は全部こっちと変わらなかった。』



「そりゃあ、武器はなあ。

同じ王国軍でズレがあったら、戦場で困るだろうしな。」



『逆に食文化はこの辺と全然違ったよ。

あの辺って内陸だから、魚介が全然ないんだ。

牛豚鶏羊がメインで、貧乏人はそれらのモツや山羊を食べてた。』



「あー、俺はホワイトタウンで暮らすのちょっと無理かもww」



俺はジェフに釣り竿を眺めながら、旅の見聞を語る。

やはり聞き手がいてくれるのは助かる。

頭が整理されるのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



それにしても馬車を買ったのは俺の人生でも一番の正解だったかも知れない。

ロバの世話を差し引いても俺の生活を劇的に変えた。

まず移動・運搬が恐ろしく楽になった。


これまで俺はグリーンタウンとブルータウンの間を荷物を背負ってテクテクと往復していたのだが、馬車を買ったことにより、移動時間が劇的に短縮された。

重い荷物を運べるので、村々の連絡や輸送に役立てるようになった。


俺はようやく、食っていけるという確信を持てるようになった。

多分、俺はこの川沿いを追い出されてもやって行けるだろう。


ただ、幾つかの誤算もあった。

馬車を手に入れた事で甲斐性のある男のように思われてしまったのだ。



『家が無いから馬車で暮らしてるだけなんですよ。

戦争難民なんかと同じです。』



実情を説明しても、周囲は額面通り受け取ってくれない。

まるで親方衆の端くれのような扱いを受けることになった。

結果、親方あるあるにも遭遇する。



『あのー、そんな所で土下座されても困るんですけど。』



「ウォーカーさん!!

いや! ウォーカー師匠!!

俺を弟子にして下さい!!」



『えっと。

俺は師でも何でもないので…

弟子と言われても困ると言うか…』



「弟子にしてくれるまで、ここを動きません!!」



参ったなー。

工房名物、押し掛け弟子。

まさか自分が当事者になるとは予想もしてなかった。


若者は辛抱がないのですぐに職場を辞める。

辞めた後、カネも行き場もないので羽振りの良さそうな親方を見つけて押し掛ける。

押し掛けて居座って給金を要求する。

そういう自称弟子に限って仕事はあんまり真面目にやらないし、半年くらいで姿を見なくなったりする。



『えっと。

正直に言うね?

俺、ボンクラだからさ。

弟子入りした所で勉強にならないと思うよ?』



「その謙虚なお言葉!!

流石師匠!!!」



眼前の少年は14歳。

先月までグリーンタウンの木工工房で見習い弟子をしていたが、先輩と喧嘩をして職場を飛び出して来たとのこと。

若者あるあるである



『うーーーん。

困ったなぁ。』



「知らない仲じゃないじゃないですか!

弟子にして下さいよぉ!」



そう、俺はこの少年をよく知っている。

何故なら、彼はミゲル村のハンスの甥だからである。

俺がまだテント暮らしを始めたばかりの頃、この少年とも何度か顔を合わせているのだ。

あの頃は乞食を見るような目で俺を見てたものだが、まあこの歳の子供など現金なものだ。

御覧の通り、すっかり手の平返し。



『あのね?

キミも知ってると思うけど、俺はハンスさんに世話になってるんだよ。

恩を仇で返すような真似は出来ないなあ。』



「いえ!!

ハンス叔父さんには、まだ話してないですけど!

絶対賛成してくれますって!!」



『じゃあ、まずはハンスさんに報告しに行きなさい。』



「…はい。」



『ちゃんと孝行しなくちゃ駄目だよー。』



「はーい。」



取り敢えず追い払った。

だが無下には出来ない。

ハンスは出逢った時から何故か俺を助けてくれているし、ミゲル村で粘り強く俺の有用性を説いてくれている。

ミゲル村長との連絡役も務めてくれているし、ラー油の生産体制も確立してくれた。

つまり、どれだけ感謝してもしたりない存在なのだ。

そんな恩人の甥御さんを不安定な道に引き込むなんて出来る訳がないじゃないか。

俺は【冒険者】と言い張っているが、要は浮浪者なのである。

その証拠に決まった住居を持たずに馬車内で起居している。

(多分、王国内の何らかの軽犯罪に抵触している気がする。)

何があろうと弟子だけは絶対に阻…



「ウォーカー君。

トムの奴もああ言ってる事だしさ。

形だけでも弟子って事にしてやってよ。」



『いやいやいや!!

ハンスさんまで何を言っているんですか!?

若者のキャリアが潰れてしまいますよ!』



「うーーーん。

キャリアねえ。」



『ええ、普通あの年頃になったら、名の通った商会や工房に丁稚奉公に入り!

先輩や上司に従う事で社会性を身に着け!

まずは手代を目指し! 

あわよくば番頭指名を狙う!!

万が一出世競争に敗れても、勤務時代に培った友情やコネは後々必ず生きてくる!

キャリアってそうやって築いていくものです!』



「革新的な生き方をしてる癖にウォーカー君自身は極めて保守的って点が面白いよね。」



『今は面白がる場面ではありません。

甥御さんの将来が掛かってるんですよ?』



「いや、分かってるよ。

男の人生なんて初動で決まっちゃうからね。」



『ええ、その通りです。

なので、今からでも信頼出来る親方の元で修業を…』



「それが俺達にとってはウォーカー君なんだわ。」



『え?』



「いや、俺も馬鹿なりに世間はちゃんと観察してるよ?

求人を出している親方衆の評判や実績もこっそり調べてるしね。」



『あ、そうだったんですね。』



「それを踏まえてだ。

キミが一番将来性ある。」



『あの、前も申し上げましたが…

俺は農奴ですよ?

一方トム君は農地を相続して本百姓にもなれる立場です。

家柄的にも村長資格は保有してるんでしょ?

俺に言わせれば彼こそ将来性の塊だ。』



「本百姓と言えば聞こえはいいが…

じゃあ農奴とどう違うの?」



『いやいや。

全然違いますよ。

自由があるじゃないですか。』



「…自由ねえ。

確かに昔は比較的マシだったらしいねぇ。

だが六公四民は地獄だ。

生活の全てが年貢の為の備えになってしまうからね。

キミも知ってるだろう。

俺達の村の貧しさ。」



『…。』



「相手がキミだから腹を割って話すぞ?」



『はい。』



「農民にだけはなってはならない。」



『…。』



「損だよ。

明らかに。

自作農だの本百姓だのおだてられてもさ…

結局は奪われる為に耕してるんだ。

いや、耕さされている。

トムには、こんな生き方はして欲しくないね。」



『まあ、俺も税率はちょっと異常だとは思いますけど。』



「トムもさあ。

馬鹿じゃないよ。

税制を肌で理解した上で、ウォーカー君の生き方の旨味に気づいた。」



『旨味と言われても…』



「キミは自由だ。

俺達はそれが羨ましい。」



『定職に就けないから、泣く泣くこの生き方を選んだだけなんですけどね。』



半ば押し問答だったが、トムの面倒を見る事を引き受ける。

あの年頃の子供を放置するとロクな末路を辿らないからな。



「ウォーカー君。

感謝する。

俺もキミに迷惑を掛けないよう厳しく言い聞かせておくから!」



頭を下げるハンスを宥めて帰らせる。

腹は決まった。

ここまで気を遣って貰えたなら、返さない訳にはいかんだろう。

俺も男だ。

見込んでくれたハンスの顔を立てよう。



「師匠!!

弟子入りの許可、ありがとうございます!」



『トム君…

その師匠と言うのはやめてくれないか?』



「いえ!

貴方を師匠と呼ばねば、一番弟子を名乗れません!!

つまり俺が損です!!」



まーたこれだよ。

最近の若者はすぐに損得の話をする…



『えー、キミが一番弟子なの?』



「今まで弟子を取った事はないんですよね?」



『うん、ない。』



「ほらーw

やっぱり俺が一番弟子じゃないですか!」



『うわあ。

世間ってそういうシステムだったのかぁ。』



「はい!

そういうものなんです!」



俺は思わず眉間を摘まむ。

だってそうじゃないか。

俺はこの歳にして、ようやく機動性を手に入れたのだ。

同時に足枷までハメられてしまうとは…

いやー、人生とは上手く行かないものだ。



「師匠!!

弟子を持つ事のメリットは多大です!!」



『え?

そうなの?』



「はい!

弟子を抱えている事は親方としての証明なので!

商業ギルド加盟への道も夢ではありません!!」



『あー、ゴメンねー。

実は俺ってアンチ商業ギルドなんだよ。』



「え?

そうだったんですか?」



『だって、あんな奴らが居るから物価も上がるし給料も下がる訳じゃない。』



「まあ、それはそうなんですけど。」



『商業ギルドに限らずさあ。』



「あ、はい。」



『そもそもとして俺はギルドと名が付くもの全てが嫌いなんだよ。』



「け、結構過激ですね。」



『でも、無駄に力を濫用してるとは思うでしょ?』



「まあ、ぶっちゃけ中抜きし過ぎではあるかな、と。」



『お、トム君いいこと言った。

そう、アイツらは…

ギルドなんて称する奴らは、結局その全員が中抜き屋なんだよ。

俺達労働者がどれだけ泣かされてきたか。』



これも俺が弟子を取りたくない理由。

生まれ育ちの所為で、既存のシステムに対する反感が大きすぎる点。

若者を巻き込みたくないのだ。



「分かりました!

弟子たるもの、師匠の哲学の脳死イエスマンとなるべきです!

俺もギルドを批判します!」



『いや、人は人。

自分は自分。

もっと自分の頭で考えなさい。』



「そんな能がないから師匠を探してたのですよ!」



『なるほど。』



妙に納得してしまった。

確かに14歳の少年にそこまで要求するのは酷か…

まだ判断材料を集める年齢だもんなぁ。

まあいい、コイツもそのうち飽きるだろう。

お互いの為にも程ほどにしておこう。



「じゃあ、ギルドには入らないって事なんですね?」



『うん。

それに向こうも俺なんかを入れたくないだろうしな。』



トム君は少し残念そうだ

そりゃね、師の上昇志向が乏しかったら、弟子が損をするものね。



でもさ。

少しは喜んで欲しいんだ。

俺がギルドの中抜きを嫌ってるってことは、キミから搾取する気も無いってことなのだから。





Lesson36 『寄せられた好意に報いよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【スキル】


食材鑑定

高速学習



【資産】


銀貨261枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (弟子)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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大型の動物の世話をするにはちゃんとした教育もしくは才能が必要だと思う、なぜなら「毎日食べる食料の計算」が必要になるから、そりゃ只者ではないと周りから評価されると思います、南アフリカとかでは足し算引き算…
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