Lesson35 『制度が歪めた価格と賢く取引をせよ。』
本当は半月ほど腰を据えてホワイトタウンから色々と学びたかった。
だが貧乏人の俺にはそういう贅沢は許されていない。
この街は先進的な分、グリーンタウンよりも物価がやや高く、飯代だけでも結構な痛手だったからだ。
なので俺は節約の為に馬車の荷台にムシロを敷いて寝た。
「オマエも馬車好きだなー。」
『カネが無いんですよ。
言わせないで下さい。』
「ウォーカーに取っちゃ、馬車が家だなww」
『え?』
「おいおい、ジョークだよ。
マジになるなってw」
ポーターは女郎宿で豪遊した所為かテンションが高い。
笑顔で荷台から俺を押しのけると、荷物を積み込み始める。
「おいウォーカー、オマエも積み込みを手伝う約束だろ?」
『あ、はい。』
「分かってると思うが、今夜から馬車内で寝るの禁止な。」
『分かってますよ。
ちゃんと宿かテントで寝ます。』
「おいおい、不満そうな顔するなよ。
仕方ないだろ。
この荷物を持ち帰ることまでが契約なんだから。」
『あ、いやいや。
不満はないですよ。
ただ、馬車が家ってのが気になって。』
「バカヤロー、そんなに荷台で寝るのが好きならオマエも馬車を保有してみろ。
結構、苦労も多いんだぜ。」
…馬車が家か。
いや、テント暮らしの俺にとっちゃ悪くない話だ。
「さあ、オマエはそっちの木箱を荷台の前まで運んでくれ!」
『はい!』
朝にそんな遣り取りがあった所為か、ホワイトタウンを歩いている時も馬車にばかり目が行ってしまう。
昨日までは肉醤ばかり気になっていたのに、我ながら移り気なことだと1人秘かに自嘲する。
『ポーター社長。』
「んー?」
『やけに道端に馬車が多いですね。』
「ホワイトタウンは車両税が出来たからなー。」
『え?』
「そりゃあみんな手放すよ。」
『ちょ、その話詳しく!』
「おいおい、有名な話だろお?」
聞けば、2年前にホワイトタウンに着任した新領主が酷い男で、こともあろうか馬車に税金を掛けてしまったらしいのだ。
元々この街は車両製造業や物流業が盛んだったのだが、一瞬で廃れた。
大手は保有馬車を極限まで減らし、殆どの個人業者は廃業した。
そりゃあね、保有する馬車毎に銀貨3000枚の税金を毎年払えとか言われたら、嫌でもみんな手放すよね。
「見てみろウォーカー。
街道の脇道。」
『うわー、大量の荷台が停車してますね。』
「違う違う。
アレは不法投棄だ。」
『え?
そうなんですか?』
「そりゃあな。
銀貨3000枚も取られるんなら、捨てた方がマシだろ。
俺だってそうなったら廃業するわ。」
興味があったので街外れの廃材屋を覗いてみると大量の馬車荷台。
しかも親方らしき男が俺と目が合うなり、こう怒鳴る。
「これ以上馬車は引き取らないよー!」
『そんなに馬車が余ってるんですか?』
「見りゃ分かるだろ!!!」
親方曰く、馬車税が施行されてから街中の馬車がこの廃材屋に持ち込まれ続けているらしい。
ここはかなり作業が早い事で知られていたらしいのだが、それでもキャパオーバー。
ついに引き取りを締め切ったとのこと。
『あの、つまり馬車が安いってことですか?』
「一応念を押しておくが、大型の良い馬車はそんなに値崩れしてないぞ。
逆にボロ馬車は腐るほど余ってる。」
親方が顎で指す方向には大量の中古馬車。
どれも小さく古い。
これは馬車税が、車両ごとに一律課税された所為である。
稼ぐ能力の高い大型馬車や特殊馬車は誰も手放さず、そうでない小型馬車は皆が手放した。
『これなんかまだ新品じゃないですか!?』
「うん、確かに最新モデルだ。
車軸もオフロード仕様でモノ自体は悪くない。
だが、このサイズじゃ積載量が限られていてな。
こういう軽くて小さい荷台は負債でしかないんだよ。」
『幾らですか?』
「え?
買うの?
税金高いよ?」
『あ、俺は余所者ですし。』
「どこの人?」
『グリーンタウンです。』
「うわッ、遠い。」
『あの、幾らですか?』
「道に落ちてるのを持って帰ればいいじゃねーか。
と言いたいところだが、銀貨500枚をくれ。」
『500ですか…』
「但し、知り合いの厩舎から良いロバを仕入れてやる。
見たところアンタ初心者だろ?
カネをくれれば初心者でも操作しやすいように調整してやるぜ?」
『ええ、払います。』
「おっし、商談成立だ。
じゃあ、早速簡単な説明から始めるから。
よく聞いて覚えてくれよな。」
『はい!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
当然だが、帰路は大変だった。
何せ人生初馬車なのである、ポーターが指導してくれなければホワイトタウンから出れたのかもすら怪しい。
それでも3日目には運転に慣れて来て、ロバにも愛着が湧いた。
『ポーター社長。
かなり上手くなったと思いません?』
「うーーーん、普通。」
『厳しいなぁ。』
「だって俺、ロバで牽いた経験がないからなあ。」
文句を言いながらもポーターはロバのペースに速度を合わせて進んでくれた。
俺が荷台内でゴザを敷いてくつろいでるのが羨ましくなったのか、途中からこの男も荷台内に泊まることになった。
長い復路が苦にならなかったのは、馬車泊で宿代が節約出来たからだ。
住めば都というが、荷台の幌で雨風を凌げるだけでも俺にとっては本当にありがたいことだった。
さて、俺が入手した荷馬車。
ポーターの査定では、定価で買えば最低でも銀貨7000枚はするであろうシロモノらしかった。
一見地味で小さな荷台だが、車輪やサスペンションが最新らしい。
その1点でも、この旅はプラス収支となった。
良い冒険になったとロバに語り掛けてから俺は今夜も荷台で眠りにつく。
Lesson35 『制度が歪めた価格と賢く取引をせよ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【スキル】
食材鑑定
高速学習
【資産】
銀貨294枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
荷馬車
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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