Lesson34 『不要物から商材を作れ。』
ホワイトタウンの巨大な商店街で佇む。
確かに人々のイントネーションや街の造りは大きく異なるのだが、店頭に並んでいる商品はグリーンタウンと似たようなものである。
クラーク女史に概要を聞いていたとは言え、やや失望。
多少の希望的観測が外れる。
土産を買い揃えるアテが外れた。
「そりゃあそうさ。
王国における商品流通は商業ギルドが牛耳っている。
だから主要商品は概ね規格に沿っているんだ。
オメーだって、街によってパンやレーションの大きさが変わったら困るだろう?」
『ええ、まあ。
旅先での買い物に苦労するかもです。』
「他にも武器だ。
ショートソードの長さが街によって変わったら大変だと思わんか?」
『ですね。
俺は剣とは無縁ですが、傭兵の皆さんは業務に支障をきたすかもです。』
「まあ、ここまでが一般論。」
『はい。』
「ホワイトタウン土産を買いたいなら個人店を狙え。
こういう1等地に店を構えているのは商業ギルドの直営店って相場がきまってるからな。
もっと町外れを狙うんだ。」
世慣れたポーターの助言に素直に従い裏通りに進む。
本人は偵察と称して娼館に消える。
『おお!
こちらは程良く薄汚い!』
裏通りに入った瞬間、雑然とした異国感。
幾ら同じ王国とは言え、元々は別の国だからな。
店構えの雰囲気が微妙に異なる。
武器や一般雑貨などの既製品はグリーンタウンのそれと同一製品だったが、屋台の食事はまるで違う。
全体的に味が濃いのだ、悪く言えば臭い。
「兄ちゃん。
アンタ、他所から来た人?」
『あ、はい。
グリーンタウンから来ました。』
「グリ…
えー!?
あんなとこ、ほぼほぼ帝国じゃん!?
何しに来たの?」
『あ、仕事です。
俺、運送人夫なんで。』
「ああ、そりゃあ大変だねえ。
どう? ホワイトタウンは?
結構都会だろ?」
『そうですね。
グリーンタウンの3倍以上広いです。
特に道路が整備されてますね。』
「ふっふっふ、よく見とるじゃないか。」
『後、料理が全然地元と味付が違って驚いてます。』
「料理?
え、そうかな?」
『例えばこのチャーハン。
味付が独特で印象的です。』
「え?
チャーハンはチャーハンだぞ?
ウチは普通の料理しか出してないよ?」
『あ、そうなんですか。』
「若い頃は新メニューの開発も頑張ったんだがね。
ほら、ホワイトタウンって保守的な土地柄でしょ?
みんな定番以外は注文してくれないよ。
だから、ここらの屋台はぜーんぶ昔ながらの定番ばっかり。
御先祖様の味を数千年守っていると言えば聞こえはいいが…
進歩ないよなあ、俺達w」
俺が珍料理と思って食べ歩いたものの数々は、こちらでは一般的な料理だった。
『確かに、グリーンタウンのチャーハンと材料は同じですものね。
コメ、ネギ、卵、人参、ハム。』
「はっはっは。
チャーハンなんてどこで喰っても同じだよw」
『俺、作ってる所を見るのが好きなんです。
強火でガーっと炒めてる時なんかテンション上がります。』
「わかるわかる!
さっきも兄ちゃんは喰いついていたもんなぁw」
『お玉でカンカンカンと全体を引っ繰り返しながら…』
「うんうん!」
『最後に魚醤でサーっと味付。』
「え?」
『え?』
突如、店主が目を丸くして黙り込む。
『あ、すみません。
何か変な事を言っちゃいました?』
「いや、兄ちゃん貧しそうな身なりなのに、金持ちだったんだな。」
『?
いや、見ての通りの貧乏人ですが。』
「いやいや、魚醤みたいな高級食材を使う店で食事するなんて。
…魚醤でチャーハンねえ。
やれやれカネはある所にはあるものだ。」
店主に食い下がって話を聞くと、内陸のホワイトタウンにはそもそも魚介が入って来ない。
なので牧畜が盛んな事もあって料理のメニューは肉類ばかりで魚介類を見掛けない。
辛うじて保存食の形で僅かに入荷するのだが、先程店主が述べた通りの保守的な土地柄。
食べ慣れないものを敬遠する住民性もあり、魚介の保存食も殆ど売れない。
売れないので入荷は絞られ、絞られたが故に価格は高騰した。
なのでグリーンタウンでは豊富に出回っている魚醤はここでは希少品である。
「チャーハンって言ったら普通は肉醤だと思うけどねえ。」
そう言って店主は店の奥に引っ込んでしまう。
『…肉醤。』
知識としては知っている。
かつて王国に港が無かった頃、人々は獣肉から醤を生成したと朧気に聞いている。
領土拡張と共にブルータウンを始めとした良港を確保していくにつれて、安い魚醤にいつの間にか取って変わられたのだろう。
しかし、同じ王国でも内陸では全然事情が違うのだな。
『すみませーん。
肉醤って買えますか?』
俺が裏通りを回っていると油屋が取り扱っていた。
なるほど。
この街では魚醤は肉醤の5倍以上の価格がする。
迂闊にチャーハンなどに使えない筈である。
『牛、豚、鶏、羊、山羊。
一口に肉醤と言っても色々ありますねー。』
「そんなの当たり前じゃないか。
同じ味じゃ飽きるもの。」
油屋で保存の効く肉醤を各種類買うとパンフレットを渡された。
挿絵から察するに、この店の肉醤が如何に手間を掛けて作られているかが記載されているらしい。
『これ、俺でも作れますかね?』
「え?
普通、肉醤なんて皆作ってるだろ?
だからこそ、ウチのような老舗の本物の味を皆が分かってくれる訳で。」
正直に言うと、肉醤をあまり美味しいとは思わなった。
チャーハンは魚醤で炒めた方が旨いに決まっている。
だが、そんなに簡単に作れるなら自分でも戯れに作ってみようと思い、雑貨屋を回り業務用の肉醤製造セットを購入。
ついでに包丁やまな板などの簡単な調理具を揃えた。
この時点では浪費。
良く言ったところで博打。
但し、俺にとっては分のある博打なのだ。
何故なら、職業柄余った獣肉が大量に余っているから。
特にトラバサミで仕留めた猪は運搬出来ないので、取り易い肉だけを持ち帰り、残渣はスライムに処理させている程だ。
そして肉醤の作り方は概ね把握した。
クラーク女史に調査を依頼する事も可能。
何より、グリーンタウン周辺には肉醤を見掛ける機会がない。
流石の俺でも、もう理解している。
珍しいものには価値が生まれるのだ。
今までの俺は、そういった希少性を何一つ持っていなかった。
だが、希少なアイテム、希少な技能、希少な経験。
これらを持っていれば、俺自身が凡人でも周囲は一目置いてくれる。
冒険者を初めてから痛い程、この構造を思い知らされた。
やはり人間は売れる商品を持って無きゃ駄目だ。
問題は俺には仕入れ資金もルートも無いこと。
だから、自分が余らせている素材で作り得る肉醤には可能性を感じたのだ。
どうせスライムに喰わせるなら、この際チャレンジする価値はあるんじゃないだろうか?
別に売れなくたって然したる損はない。
どうせ捨てる肉なのだから。
『ポーターさん。』
「んー?」
『この街のチャーハンはどうでした?』
「いや、マズかったよ。
食材は悪くないんだから、普通の味付をしてくれれば良かったのに。」
『ふふふ。
そのマズい調味料を買っちゃいました。
じゃーん!』
「えー、何コレ?
豚で作った魚醤?
キッショ!
ホワイトタウンの連中はゲテモノ食いだよなー。」
『帰ったら、これを作ってみます!』
「オマエ、頭おかしいんじゃないの?」
『ワンチャン売れるかもです。』
「いやいや、俺達の味覚に合う訳ねーだろ。」
『ポーターさん、配達でグリーンタウンの飲食店をあちこち回ってるでしょ?』
「昔ほどのペースじゃないけどな。」
『俺が肉醤作ったら売って来て下さい!』
「やだよー。
地元が臭くなる。」
『分け前は弾みますから。』
「おっし乗った!
ガンガン営業掛けてくるぞ!」
『やったぜ!』
2人で笑い合いながら肉醤の瓶を空けて匂いを嗅ぐ。
臭気に思わず同時に顔をしかめてから、改めて笑い合った。
Lesson34 『不要物から商材を作れ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【スキル】
食材鑑定
高速学習
【資産】
銀貨860枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
業務用肉醤製造セット
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




