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Lesson33 『距離は畏敬を産む。』

纏まったカネが入ってきた。

ようやく一息つけた。

…カネに追われないのは、もしかすると生まれて初めてのことかも知れない。


俺はハンモックに揺られながら、腹に隠した銀貨袋を抱いて考える。

このカネを何に使えは俺は得をするのだろう、と。


本音を言えばグリーンタウンの外れの中古家屋が欲しい。

西側城壁沿いのスラムなら安い物件が多く投げ売りされているのだ。


だが、農奴の俺には不動産を買う資格が無い。

正規の結婚も出来ないし、正規軍にも入れない。

企業や組合に入会することも出来ないし、銀行に口座を作る事も許されていない。


さて、そんな俺が大金を手にしてしまった。

生まれを考えれば望外の幸運であろう。

大切にしなければ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「で?

これがオマエの有意義なカネの使い方なのか?」



『酒食に散財するよりかマシでしょう。』



「1つ、アホらしい質問をしといてやるぜ。

道中の荷下ろしは勿論手伝ってくれるんだろうな?」



『当然ですよ。

俺とポーター社長の仲じゃないですか。』



御者台の上で笑い合う声は風の後ろにすぐに消えた。

馬車の速度はかなりのものである。



「ホワイトタウンに着くまで、まだまだ先は長い。

オマエはちゃんと身体を休めてろよー。」



『ええ、それでは少し御言葉に甘えます。』



今、俺は遥か遠くの街であるホワイトタウンに向かっている。

元々はポーターが商会から頼まれていた依頼に便乗した形になる。

往路は商会の荷を小村落に配達しながらホワイトタウンを目指し、復路で余ったスペースに俺の荷を積み込む寸法だ。


口座も不動産も持つことを許されない俺が考えた末に決めたカネの使い道。

それが【旅費】である。

普通はあり得ない使い道なのだ。

だって移動とは資産価値のない消耗品なのだから。


ただ、俺に限っては活かせると思った。

何故なら【冒険者】であるからだ。

同じ王国内とは言え、グリーンタウンの住民でホワイトタウンを見た事がある者は居ない。

それどころか、比較的近場であるレッドタウンやブルータウンにすら足を運んだ経験の無いものが殆どなのである。

なら、更に最果てのホワイトタウンに俺が行ったとい噂が広まれば?

この稼業を続けていく為の、この上ない資産になるだろう。



『勿論、このアイデアは博打ですけどね。』



「いや、悪くはないと思う。

悪くはないと思うが…

博打にも程があるぞ?」



『でも、インパクトはあるでしょ?』



「まあな。

俺が冒険者のオマエDに何か仕事を発注するとして…

《ホワイトタウンを知っている》と聞けば、旅の老巧だと感じるだろう。

難しい案件でも発注してしまうかも知れんな。」



『ええ、そういうハッタリ効果を狙ってます。

いや、顧客予備軍がそこら辺に価値を感じてくれれば嬉しいのですが…』



「価値は感じてくれるよ。

だって、オマエがブルータウンにコネがある事を羨んでる奴は多いからな。」



『え?

そうなんですか?

気のいい連中ですから、遊びに行けばコネも出来るかもですよ。』



「大抵の奴はさ…

《かも》、じゃ動けないんだよ。

利益への確信が無い事は出来ない。

だから、博打を打てているという一事でオマエは一目置かれている。」



『俺には選択肢がないだけですよ。』



「そうだな。

でも、むざむざそれを口に出す必要はないぞ?」



『はい、俺は社会正義と学術貢献の為に旅を続けています。』



「Good。

流石はリコちゃんの捻り出した口上だ。

なーんかそれっぽい。」



『やっぱりあの人、頭がいいですわ。』



真面目な話はそこまでで、以降は男同士猥談で盛り上がる。

レオナール女史の胸が大きくてそそるとか、そういう下らない話題だ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



結局、ホワイトタウンへの到着には11泊を必要とした。

そこそこ馬車を飛ばしてこの日数なのだから、やはり最果ての街である。

無論、辺境のグリーンタウンなんぞよりホワイトタウンの方が遥かに栄えているので、最果ては俺達なのだが。



「どうだ、ウォーカー。

有意義な冒険とやらは出来たか?

俺の目には壮絶な浪費と映ったがな。」



『浪費ですかね?』



「厩舎代だけでもかなりの額だっただろ?

馬車内で寝泊まりしなければならない程にな。」



『ええ、まあ。

でも、それでも元は取ったと思います。』



「元?

いやいや、オマエは何も売ってねえ。

単なる大損だよ。

こんあ馬鹿な真似は誰もしないだろうよ。」



ポーターは鼻で笑うのだが、それは一般論である。

寧ろ、俺にとってはありがたい。

誰からも真似されないという事は、俺の希少価値がそれだけ向上する事を意味するからである。

少なくとも、地域で一番ホワイトタウンに詳しい男の地位を得る事が出来る。


【冒険者】という響きが単なる屋号以上の凄味を持つに違いないのだ。

今は近場の害獣駆除が依頼の殆どだが、俺に箔が付けば、何か飛躍出来るのではないか?


そんな事をホワイトタウンの綺麗な意匠の商店街を眺めながら考えていた。

巨大な街の背後にはそびえる雪山。

未知の風景に心が躍る。

俺は、俺こそが冒険者なのだ、と。




Lesson33 『距離は畏敬を産む。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【スキル】


食材鑑定

高速学習



【資産】


銀貨1184枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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