Lesson32 『己のことは友に聞け。』
ブルータウンからジェフが戻って来た。
いよいよドワーフ達が接触を図って来たとのこと。
(鏡の反射で秘密の符丁を交わしているのだ。)
「奴らは今、ブルータウンから直線距離で5キロの地点の森に潜んでオマエを待ってる。」
『ふう、待ちかねたよ。
ようやくカネになるのか。』
「あまり期待するな。
ドワーフはエグい商売する事で有名だからな。」
『そうだな。
ガッツリ中抜を要求して来るだろうな。』
クラーク女史が【ドワーフ】についてをかなり詳細に調べて、ポートフォリオに加えてくれた。
その資料にしても《強欲》と記載されているので、あまり期待しない事にする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺とジェフとグスタフ。
帝国から森を縦断してきた仲間である。
なので、道中はかなり本音で話す事が出来た。
カネの話、女の話、そして取り巻く境遇への不満。
余程気心の知れた者とでないと出来ないからな。
「なあ、テッド。」
『んー?』
「蒸し返すようで悪いんだが…
この前の報酬は護衛料にしちゃ貰い過ぎだ。
せめて1割マージンを払わせてくれ。」
『そうは言っても、虹色の羽根はグスタフの独力で入手したものだし。
あの時点では正式な依頼かどうかも不明だったからな。
取るに取れないよ。』
「じゃあ、せめてカネ以外で払わせてくれないか?」
『そうは言ってもな…』
グスタフは先程、見事な腕前でダークコンドルを2匹射ち落としている。
本人にとっては軽い腹ごなしだったのだろうが、この時点で立派な戦果である。
この男程の名手であれば、同行してくれるだけで報酬なのだ。
『俺は2人みたいな特技がないから。
グスタフは矢を射てる、ジェフは魚を手で捕らえられる。
なのに俺は…』
2人が顔を合わせる。
そしてジェフが口を開いた。
「オマエの特技は結構色々あるぞ?」
『え!?
俺に特技!?』
「テッドは腐ってる食べ物を一瞬で判別するじゃん?」
『いやいや、そんなのは特技とは言えないよ。
単に意地汚いだけだし。』
「うーーん。
でも実際問題、それで俺達は何度か助けられたしな。
ほら、袋に入ってたアンズの中でオマエが腐り掛けを見つけてくれただろ?
少なくとも持ち主の俺は分からなかったからな。」
…下らねえ。
そんなの男の特技じゃないよ。
かっこ悪くて人に言えないじゃん。
「何?
釈然としないのw?」
グスタフが笑いながらつついてくる。
『もっと格好いいのがいい。』
「じゃあ、俺もテッドの特技を探してみるか。」
『あー、それ絶対からかうパターンだろw』
「バレたかーw」
「「『はははは。』」」
「でもさあ。
テッドは作業を覚えるのが早いじゃん。
俺、結構驚かされてるんだぜ?
初めて教えたことでも、隣で見ながら真似ちゃうし。」
『…職を転々としてたからな。
早く作業を覚えないとクビにされちゃうんだよ。』
「ああ、そうだったな。
俺は農村と軍隊しか知らないから、あまり実感がないわ。」
ずっと漁村で水産に携わっていたジェフ、ずっと農村で狩猟を営んでいたグスタフ。
実は内心羨んでいる。
安定したホームがあると言う事は、環境の変化というストレスに直面する機会が少ないからだ。
一方の俺は何も分からないまま農場を放逐されてから職を転々としていた。
酷い時なんかは全く異なる日雇い案件に従事し続けた。
毎日新しい作業を覚えさせられ、毎日新しい上司に従った。
急いで覚えなきゃ、飢え死にするだけだからな。
現に俺より先にクビになった奴が路上で転がっているのを数えきれないほど見掛けた。
「よし!
テッドの特技が決まったぞ!」
『え?
何だよ急に?』
「腐った食べ物を見つけること!」
『やだよ格好悪い…
意地汚い人みたい…』
「ははは、ゴメンゴメン。
じゃあさ、今風に格好よく命名してやる!」
やけにジェフの機嫌が良い。
コイツ、こういう強さ比較的な話題が好きだよな。
「テッド・ウォーカー、職業冒険者!」
『職業なのかなあ、それ。』
「スキル!」
『特技を言い換えただけじゃないか。』
「食材鑑定!!」
『えー、大袈裟だろ。』
「いやいやいや。
都会の奴らは、こんな感じなんだよ!
つまんねーことでも、気取った言い回しで装飾して、さも自分が立派な人間のように偽装するんだ。
俺がガキの頃、都会から自称コンサルって奴が来たけど、心底下らねーゴミだったぞ。
その点オマエは本当に役に立つ能力じゃん!」
『いやー、まあ、人様の役に立ってるのならいいけどさ。』
「じゃあ俺も!」
グスタフが自信に満ちた笑顔で口を開く。
「テッド・ウォーカー、職業冒険者!」
『段々それが仕事なのか自信が無くなってきた。』
「スキル!
高速学習!」
『えー、何だよそれ。』
「実際問題、初心者から中級者になるのが早いからな。」
『それが俺の特技なの?』
「違うスキルだ!」
『お、おう。』
「だからもっと堂々でしてろ。
オマエ、人を褒めるのは旨い癖に、自分を褒めるのは下手だからさ。」
『…。』
「まあ、世の中逆の奴ばっかりだから、テッドが居てくれて助かるんだけどな。」
俺は納得出来ないのだが、2人は満足したのか笑顔で歩き始めてしまう。
スキルねぇ…
いや冒険者カードにはスキル欄もあるらしいんだけどさ。
俺、持ってないし。
持ってても読めないし。
「おーい、テッド。
そろそろドワーフ達との合流ポイントだ。
行くぞ-。」
『うん、分かったー。』
呼び名を変えた程度で何かが変わる訳ではないと思ったのだが、ジェフがドワーフ達に面白おかしく俺のスキルとやらを吹聴したので、その日はずっと果物を嗅ぎ分けさせられた。
俺は辟易したのだが、ドワーフ達は余程満足したのか、フカヒレの分け前についても殆どゴネてこなかった。
「業者は㌔1000枚のレートで提示してきたわ。
オマエラの取り分は銀貨500枚な。」
『え?
卸値まで教えてくれるんですか?』
意外だ。
まさかドワーフが折半を申し出るなんて。
いや実際はもっと高値で売っている可能性もあるのだが、例えフェイクでも業者の買取値までは明かさないタイプだと思ってたのに。
「へへっ、隠した所でどうせオメーに嗅ぎつけられそうだしよ。
じゃあ、早速在庫を買い取らせて貰おうか。
次の50㌔を頼む!」
そんな流れで商談は円滑に纏まり、ドワーフ達とグスタフは笑顔で森へと去って行った。
以降、フカヒレは㌔銀貨500枚が出荷価格となった。
網元が400枚、対ドワーフ窓口担当のジェフが50枚の取り分となる。
(ドワーフと接触するのはジェフだけ、つまりトカゲの尻尾である。)
『網元…
俺も貰えるんですか?』
「いやいや、冒険者へのマージンは1割って聞いたよ?
じゃあ当然払わなきゃ。
そもそもこれはウォーカー君の功績なんだから。」
『あ、じゃあ一旦冒険者の宿の会計に…』
「駄目駄目!
この取引は表には絶対出ちゃ駄目だから!」
『あ、そっか。』
「じゃあ、今回ドワーフが支払ってきた50㌔分の代金・銀貨25000枚。
その1割の2500枚をウォーカー君へのマージンとして支払う。
当然、次の発注があれば、そこからもマージンは発生する。」
『え?
ずっと貰えるんですか?』
「但し!!
このカネはどの帳簿に絶対に載せちゃだめだよ。
分かるね?」
『あ、はい。』
「あくまでキミ個人が何気なく持っていたポケットマネー。
そうだね?」
『はい、出所までは覚えてません。』
「Good!!
これからもいいパートナーで居てくれよな。」
網元は笑顔で俺の肩を叩いて去って行く。
どうやら世間一般の連中はこういう仕組みを商売と読んでいるらしい。
Lesson32 『己のことは友に聞け。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【スキル】
食材鑑定
高速学習
【資産】
銀貨2397枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
蝶類概要
風琴鳥
ドワーフ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




