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Lesson30 『牙は誰にも見せるな。』

ある程度予想していた事ではあるが、カネやモノの流れが生まれると、それを狙う者も現れる。

ギャングとのイザコザもいずれは発生するだろうと覚悟していたが、まさかこんなに早く事態が訪れるとは思わなかった。



『御婦人に暴力を振るうのは好ましくありません。

直ちに離れて下さい。』



俺が内心舌を巻いたのはクラーク女史の気丈さであった。

ギャングに囲まれて腕を掴まれても悲鳴1つ挙げない。

ただ無言で唇を噛み締めていた。



「オイオイオイ!

人聞きの悪いアンちゃんだなぁ。

俺達はただオマエらのボスと話し合いに来ただけだぜ。

さぁ、テッド・ウォーカーとやらを呼んで来て貰おうか。

まさかビビって逃げちまった訳じゃねーよなぁ?」



『俺がテッドです。

但しボスではありませんが。』



「え!?」



名乗った瞬間、ギャング達が目を丸くする。

どうやら失望させてしまったらしい。



「え?

オマエがテッド・ウォーカー?

え? 嘘?

荒くれ者達を束ねてる猛者って聞いたぜ?」



『虚聞でしょう。

見ての通り、殆どが近所の老人です。

若者も居ますが、この時間帯は畑仕事に忙しいので。』



「え?え?え?

オマエ、ひょっとしてカタギなのか?」



『そう自覚しております。』



闖入者達の顔から歪んだ笑いが消え、失望したような目でクラーク女史を突き飛ばした。

解放したというよりも、思惑が外れ過ぎてどうでも良くなったようだ。



「傭兵業も請け負う凄腕集団って噂なんだけどな。」



『軍隊にはあまりいい思い出がありません…』



ヤクザ者のリーダーは冷徹な目のまま、疲れたように溜息を吐いた。



『ご用件は?』



「カタギにゃ用はねぇ。」



『それは失礼しました。』



「なぁ!

オマエ本当にテッド・ウォーカーか!?

人を束ねるタイプには全然見えねーぞ?

まるで覇気を感じねぇ!

本当は下っ端で、親分のテッドが逃げる時間を稼いでるんじゃねーか?」



『そうは仰いましても。』



「証拠を見せろ。」



『え?』



「とぼけんじゃねー!

オマエが本物のテッドって事を証明してみせろって話だよ!」



参ったな。

俺、下っ端人生だったからな。

自分の偽物が湧く事までは想定していなかった。



『俺、農奴の生まれなんです。

だから背中に焼印が押されてます。

多分名前が書いているから確かめてくれませんか?』



あまり背中は見られたくないのだが、コイツらに居座られるのも困るからな。

見せた方が早いと思い服をめくる。

あ、しまった。

クラーク女史がそっちに倒れてることを忘れてた。

案の定、愕然とした表情になる。

参ったなぁ、妙齢の御婦人に対して肌を見せるなんて礼を失するよなあ。



『ほら、どこかにテッドって書いてるでしょう?』



「…いや、書いてない。」



『え? 嘘?』



「B棟奴隷番号1723」



『ああ、俺も親父もビートウって場所に住んでたんです。

それ、俺のことです。』



「侯爵ブライアン・ゴールドバーグが銀貨200枚で購入した奴隷番号1721の実子らしき者。」



『え?

そんな事書いてるんですか?』



「…。」



『ねぇ。』



「そう書いてるって言ってんだろ!」



ギャングは怒りを噛み締めるように拳を握り締めている。



「王都の近くにブラックタウンって街がある。

オメーも知ってるだろう。

王国最大の歓楽街だ。」



『…。』



「今月から、そこで大規模な抗争が始まった。

それでありがたい事にデカい組の主力があらかた殺されたんだ。

つまり闇社会に権力の空白が生まれているって事だ。」



『なるほど。』



「俺はよぉ!

この千載一遇のチャンスを逃したくない。

だから殴り込みを掛けてブラックタウンを縄張りにしようと考えてる。

俺の子分だけで30人居る。

弟分の舎弟を併せれば50人の大所帯だ。」



『へー。』



「ただ、ブラックタウンはワルの巣窟だけあって、巨大組織が多い。

殴り込むにしても、もう少し数が欲しかったんだ。

助っ人してくれれば、当然利権も分けてやるつもりだったんだがな。」



『それでここに来たと。』



「まさか爺さん婆さんの巣窟だとは思わなかったぜ。」



『助っ人に関しては…』



「いらねーよ!

婆と奴隷なんざ連れてたら、ウチの組が笑いものになるわ!」



『でしょうね。』



「なぁ。」



『?』



「街を牛耳るギャングになれば何でも手に入るぞ?」



『え?』



「チンピラから始めてみないか?

こんな糞田舎で婆の介護してるより遥かに儲かるぞ?」



『いや…』



「女は抱き放題、カネは儲け放題。

貴族が食ってるような旨い物を食える。

何より馬鹿にしてきた連中を見返してやれる!」



『…。』



「オマエさぁ、背中にそんな焼き印まで押されて悔しくないの?

貴族共に仕返ししてやろうと思わないのか?

ギャングになれば、それができるんだぜ?」



『うーん、物心ついたら農奴仕事の毎日でしたから。

仕返しとか、意識した事はなかったですね。』



「腰抜けがッ!」



殴り倒される。

思えば、誰かに殴られたのは随分久し振りだ。

子供の頃は奴隷頭に毎日殴られ続けていたのだがな。



「テメエは男じゃねえ!

折角チャンスをくれてやったのによぉ!」



『…。』



「テメーみたいな臆病者には婆の介護がお似合いだぜ!

俺はオマエなんかと違う!!

自分の力で這い上がってやる!

街を支配するギャングになって貴族共を見返してやるんだ!!」



一通り吠えるとギャング達はカウンターの中の銀貨を鷲掴みにして去って行った。

慌ただしい連中だった。



『クラークさん、お怪我はありませんか?』



「…。」



クラーク女史は涙を静かに流しながら俺を見つめていた。

無理もない。

幾ら気丈に振る舞っていても貴婦人なのである。

随分怖い目に遭わせてしまった。



『申し訳ありません。

俺の力不足の所為で貴女を危険に晒してしまいました。』



「…。」



『どこか痛む所はありませんか?』



「私のことはどうでもいいんです!」



それは恐怖でも混乱でもなく、明確な怒りから発せられた叫びであった。



『何か飲み物を用意します。

今日はゆっくり休んで下さい。』



「私のことなんてどうでもいいんです!」



クラーク女史は俺にしがみつき、責めるように泣き続けた。

俺の背中を何度も掻きむしりながら涙を押し付けていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



風の噂で知った事だが、レッドタウン出身者で構成されたギャング団がブラックタウンに殴り込みを掛け、抗争の末に覇権を握ったらしい。

ただ、土地勘の無さが災いしたのか報復で皆殺しにされたとのこと。


彼らの詳しい身元は不明。

検死の結果、背中の焼き印から奴隷出身者を中心とした集団だった事だけが判明したとのこと。





Lesson30 『牙は誰にも見せるな。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨0枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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― 新着の感想 ―
牙を見せるな、それはまだ見ぬ相手に不必要な警戒心を与える愚行であるから しかし彼らギャング達はその牙を只管に磨ぎ剥き出しにして戦い続けなければ生き延びる事すら困難だったのではと思ってしまったのだ、更に…
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