Lesson29 『輪の外の仲間こそが真の仲間である。』
古戦場村に冒険者の宿が誕生した効果は大きい。
近隣から力を持て余している者や狩猟趣味の者が通うようになった。
だが、一度来た者が次も来てくれるとは限らない。
何故なら害獣駆除はかなり人を選ぶ仕事だからだ。
まず血の苦手な者にはそもそも向かないし、野山が仕事場となる為に都市志向の者には難しい。
そして最も意見が分かれるのが【成果報酬】である点。
知らずにやって来て露骨に失望する者も多い。
「おい、ウォーカーさんよぉ。」
『あ、はい。』
「俺は腕力には自信があるし仕事の覚えも早い部類だ。
徒競走の州大会で優勝した経験もある。」
『ええ、凄い経歴だと思います。』
「こんな俺でも固定給は駄目か?
多少割引しておいてやるぜ?
狩猟仕事は未経験だが、そこらのボンクラよりも余程役に立つはずだ。」
眼前の元大工はかなりのガタイ。
顔付きも敏捷そうで、恐らくは相当仕事が出来るタイプだろう。
『申し訳ありません。
あくまで冒険者依頼は成果に対して報酬を支払っております。』
「待ってくれよ。
成果が出なければ、やはりタダ働きということか?
参加費すら無いのか?」
『はい、そうなります。
現に、丸1日頑張ったにも関わらず猟果を得られなかった方も多数おられます。』
「そいつはどうなった?」
『規則ですので、お支払いはゼロです。
そういう方は、再訪されないケースが多いです。』
「そりゃあそうだろう。
タダ働きをさせられたんだから。
アンタ恨まれてるんじゃないか?」
元大工は腕組みしたまま考え込む。
そして溜息を吐く。
「誤解しないで欲しいんだが、俺はアンタにイチャモンを付けに来た訳じゃねえ。
でも、おかしいと感じたら口に出さなきゃ気が済まない性格でな。
なあ、俺はレッドタウンから来たんだぜ?
手ぶらじゃ帰れない。
これについては、どう思う?」
『確かに報酬ゼロでは辛いですよね。』
「おう、そんなの納得出来ねーよ。
俺はさあ、働くからには確実にカネが欲しいんだ。
別に無茶な要求じゃあないだろ?」
『仰る通りです。
俺も何度も嫌な思いをしたので…
100%ではないのですが、確実性の高い依頼ならあります。』
「ほう、それを教えてくれよ。」
『ええ、こちらの掲示板を御覧下さい。』
「ああ、これが噂の冒険者ボードか。
へー。」
『今、ドクダミという薬草が不足しておりまして、皆が困ってるんです。』
「へー、そいつは大変だ。」
『1㌔集めれば銀貨3枚になります。』
「ん?
銀貨3枚?
1㌔で?」
『はい、1㌔で3枚です。』
「オイオイオイ。
何かの間違いじゃないのか?
3枚って、ガキの小遣いじゃないんだからさあ。
え?
嘘だろ?
それは新入りの報酬で、本採用になったらマトモな額が貰えるんだよな?」
『あ、いえ。
本当なんです。
依頼報酬は平等に払われます。
俺の知り合いであろうと初対面であろうと、等しく同額を支払います』
「…それは、つまりアンタ1人が得をするシステムって事かい?」
『どうでしょう。
面と向かって指摘された事はありませんが、そう感じておられる方が居てもおかしくないと思います。』
「…薬草採集なんてガキのお遣いだ。
大の男の仕事じゃねぇ。」
『ええ、同じ事を仰る方も居られます。
一度現場を見てみますか?』
「だから、採集なんてしねえって言ってるだろ。」
『いえ、今日は集まりが悪いので俺も採りに行きます。
来ます?』
「…勘違いするなよ、見物だけだぞ。
薬草採取なんて俺は絶対にしないからな。」
『ええ、御一緒しましょう。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
元大工と2人で古戦場村の裏山に登って行く。
4合目まで登ると眼下にはグリーンタウンが見えてくる。
『あれがドクダミです。』
「ああ、依頼書に描いていた絵と一緒だな。」
『イラストに加えて備考欄に特徴を記載しているので、初めての方でも採取し易いです。』
「ちょっと待ってくれ。
結局、字の読める奴だけが得をする仕組みなんじゃねーか?
その備考欄には何て書いてあったんだ。
教えろよ。」
『答えられません。』
「はぁ!?
そうやって騙そうって手口か?」
『いえ、俺も字が読めないんです。』
「…え?」
『雨の日は見つけにくいから注意しろ。
そんな趣旨だそうです。
ただ、文章の真偽を確かめる手段が俺にはありません。』
「アンタさあ。
今時、読み書きも出来ないなんて社会人失格だと思うぜ。」
『読み書きが出来ない事は不便だと感じますが、貴方を社会人失格だとは思いません。』
「…。」
やはり見立て通り元大工は筋が良く、説明した事を全て一発で覚える。
そして俊敏な動きでドクダミを1㌔集め終わった。
『お見事です。』
「いや、あれだけ丁寧に説明してくれれば俺みたいな素人でも対応出来るよ。」
『どうします?
下まで降りて来てしまったので、一旦換金手順を体験してみますか?』
「そうだな、頼む。」
元大工と俺は冒険者の宿を再度訪れ、レオナール女史に計量をお願いする。
「計量が完了しました。
ドクダミ1.1㌔です。
規約により1㌔扱いとなりますが、それで宜しいですか?」
俺が振り向くと元大工は静かに頷く。
『どうぞ。
本日はお疲れ様でした。
初めての山歩きに関わらず素晴らしい身のこなしでした。
さあ、報酬の銀貨3枚です。
どうぞ。』
「言わなかったか?」
『?』
「俺は薬草採取なんて絶対にしない。
アンタの仕事を見学させて貰っただけだ。」
『採ったのは貴方じゃないですか。』
「違う。
意欲の無い俺ですら理解出来るように説明してくれた。
それがアンタの仕事だ。
見事な仕事ぶりだったよ、ウォーカーさん。」
元大工は俺が差し出した銀貨を優しく押し返した。
この男の気性なら絶対に受け取ってくれないと予想が付くので支払いを諦める。
「社会人失格なんて言って悪かった。
あの発言を撤回するよ。
そして冒険者という仕事を侮辱した事も謝罪する。」
『貴方も…。』
「ん?」
『俺と一緒に働いてくれませんか?』
元大工は笑って背を翻した。
完全歩合という報酬体系が、どうしても性に合わないらしい。
ただ、彼の仕事ぶりが気に入ったので駄目元で厩舎の補修を頼んでみる。
「ん?
俺は大工だ。
ちゃんと前金で払ってくれるのなら請けるぞ。」
『それはありがたいです。
実はこういう仕事が出来る人が見つからなくて。
お幾らになりますか?』
「銀貨3枚。」
『え?
いや、流石にそんな少額では申し訳ないです。
採算が取れないでしょう。』
「俺は自分が納得した仕事しか請けない。
3枚以上でも3枚以下でもお断りだ。」
予想通り元大工は見事な仕事ぶりを見せたが、冒険者掲示板に対しては一顧だにしなかった。
冒険者依頼には心底興味を失ったらしく、今ではグリーンタウンでフリーの大工業を営んでいる。
生来さっぱりした気性なのだろう。
たまにグリーンタウンの酒場で逢うと快活な笑顔で話しかけて来てくれる。
そして修繕依頼についても快く請けてくれるのだ。
Lesson29 『輪の外の仲間こそが真の仲間である。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨9枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
トラバサミ
ハンモック
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
薬草概要
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
レオナ・レオナール (受付嬢)
グスタフ・グリルパルツァー (狩人)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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ご安全に。




