Lesson2 『道具こそが貧民の資本。』
俺は取るに足らない単純労働者だが、このグリーンタウンではちょっとした有名人になった。
やはり【冒険者】という響きがキャッチーだったようだ。
物の弾みで名乗った肩書だが…
確かにインパクトあるよな。
冒険者か…
まるで百戦錬磨のサバイバーみたいだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
決して言葉に引きずられた訳ではないのだが…
節約も兼ねて野営を増やした。
いや、前程カネには困ってないのだ。
有名人になった所為か、ちょっとした小仕事を指名で頼まれる事が増えたからだ。
指名仕事は不特定多数として雇用される日雇い仕事などより、遥かにワリが良いからな。
それでも、意識して街を出て2泊程度の【なんちゃって冒険】の回数を増やした。
理由はシンプル。
キャラ付けの優位性を保持したいからだ。
やはり【冒険者】という聞き慣れない肩書は好奇心をそそるらしく、酒場で飲んでいるとテーブルに招かれる事が増えた。
酒やピクルスを奢って貰えると…
やはり嬉しい。
生まれて初めて誰かに認められた気がしたのだ。
そして話を聞きたがる者が増えるにつれ、俺にも妙な義務感が湧いて来た。
やはり奢って貰う以上は、相手に報いてやりたいし、皆の期待に応えるべきだと考えるようになった。
だから、冒険に出て話の引き出しを増やすのだ。
小銭が溜まった俺は雑貨屋で少しずつアウトドア用品を買い揃えていった。
それも背伸びして、一番良い品ばかりを選んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【新規所持品】
・折り畳み釣り竿 (銀貨27枚)
・簡易テント (銀貨30枚)
・大型リュック (銀貨12枚)
・万能ナイフ (銀貨37枚)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
釣り竿なんて、そこら辺の木の枝を削って即興で作れる。
少なくとも父さんはそうしていた。
でも、明かな道楽仕様の名品を持ち歩いている事に意味があるのだ。
少なくとも釣り好きの連中からは一目置かれるようになった。
「ウォーカー君、張り込んだねえ。
それ高いでしょ。」
『いえいえ。
仕事のうちですし。』
「そっかあ、冒険者だもんなぁ。」
『ええ、俺は冒険のプロですから。』
俺はずっと単純労働者だった。
雇い主の言われるままに、雇い主の利益の為に働いていた。
勿論、この構造に不満はあったが、何故自分がこんな境遇にあるのか上手く言語化出来なった。
だが、屋号を掲げた事で朧気に見えて来たのだ。
今までの俺は資本を持たなかった。
だからそれを持つ者の風下に甘んじ続けざるを得なかったのだ。
でも、今は違う。
この釣り竿やテントが俺の資本だ。
皆は笑うかも知れないが、掛け替えのない俺の資本だ。
そりゃあ、農地や工房を持つに越した事はないよ?
でもさ現実問題として、それらのような【ちゃんとした資本】を保有するチカラは俺に無い訳じゃない。
だから、出来る範囲で揃え始めているのだ。
【冒険者】というのが、どんな仕事なのか当の俺にも想像が付かないのだが、冒険というくらいだからテントくらいは持っているものだろう。
それがなけなしのカネを叩いてちゃんとした道具を買い揃え始めた理由。
笑っちゃうだろ?
でも、俺は俺を笑わない。
せめて自分くらいは理解者になってやらないと、あまりにコイツが哀れじゃないか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お恥ずかしい話だが、所持品が増える度に自分が強い男になったような錯覚に陥った。
誰も居ない森の中で必死で捕らえたホーンラビットを買ったばかりの万能ナイフで解体していると、【俺は案外タフガイの部類なのではないか?】などと言った妄想が沸き起こるほどだった。
『うおーーーーーッ!!!』
柄にも無く焚き火の前で咆哮してみると、歴戦の勇者にでもなったような気分になる。
悪い気はしない。
テントの中で大の字になって笑う。
周囲から見れば噴飯物の振舞だとは自覚しているが、それでもこれは俺にとっての大冒険なのだ。
程良く疲れた俺はナイフを抱き締めて眠りについた。
Lesson2 『道具こそが貧民の資本。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨6枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
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ご安全に。




