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Lesson28 『気質に合った生業を選べ。』

薄々感じていた事であるが、森で出逢ったグスタフはまさしく英雄だった。

まず基礎スペックが途方もなく高い。

森の中をまるで平地でも進むように走り跳ぶ。

身長はスラリと高く目鼻も整っている。

サバイバル能力に優れ、釣り・伐採・採集・採鉱・水泳・野営の全てを得意とする。

まさしく万能。


そして特筆すべきは、やはり弓の腕前だ。

百発百中。

しばらく行動を共にしているが、外した場面を見た事が無い。

一射で2羽の鳥を串刺しにして落とす射法を見せて貰った事があるが、神技以外に形容する言葉が思い浮かばなかった。


もしもこの男が古代に生まれていれば、必ずや伝説的英雄として歴史に名を刻んでいたであろう。



「そこまで褒められると逆に居心地が悪いなあ。」



『いや、実際グスタフは凄いよ。

俺、いつも感心させられてるんだから。』



「うん。

でもゴメンな。」



『いや、怒ってる訳じゃないよ。

グスタフは何も悪くない。』



そうグスタフは何も悪くない。

ただ、英雄には英雄の通弊があるだけなのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



王国と帝国は不倶戴天の敵同士である。

ぶっちゃけ王室と帝室は同祖な上に両国民も同民族なのだが、その話はしてはならない事になっている。

と言うか、その話題を禁ずる法律まで存在する。

同祖論を提起しよとして処刑された者も少なくない。

両国の権力者にとって、互いの国民は敵国人であってくれねば都合が悪いのだ。


さて、その理屈で言うなら我が友グスタフは敵国人という事になる。

しかも休戦までは帝国軍に在籍していたので、王国領内に侵入している事自体が本来はアウトな存在。

騎士団に知られたら、スパイかテロリストとしてすぐに逮捕処刑されてしまうだろう。

当然俺も連座。


幾ら俺が愚鈍とは言え、それが分からないほど愚かでもないので、【グスタフの正体は内緒にする。】と堅く誓っていたし警戒もしていた。

それだけに初日でバレた時の衝撃は大きい。



「え?

なんで帝国の人が一緒なの?」



迎えに来てくれた網元の第一声がそれ。

有無を言わさずグスタフはフードを被らされる。



「どうするデッド。

俺、このまま帰ろうか?」



『流石に護衛料くらい払わせてよ。

俺達2人だけじゃ、危ない場面多かったし。』



「王国に来て分かったんだけどさ。」



『ん?』



「やっぱり全然違うんだな。」



グスタフの感想は正しい。

断絶が長かった所為だろう。

生物学的には変わらない筈なのに、王国人と帝国人では仕草や顔つきがやや異なる。

特に言語。

森の中で一緒に居た時は然程気にならなかったのだが、イントネーションが決定的に異なっている。



『手ぶらで追い返すのも筋が通らないしな。

ささやかだけど謝礼を払いたいから、少しだけ泊まって行きなよ。』



「俺も貧乏だからカネは助かるんだけどさ。

オマエらの貨幣は受け取れないぞ?」



そうか、そうだよな。

王国と帝国、銀貨の重さや形は同じなのだが彫られている文言が異なる。

表面の肖像は当然互いの元首の横顔であるし、何より裏面の文言。

国号や発行年度と共に、【我が臣民に与える】との1文が挿入されている。


要は、通貨を含めた全ては王の所有物であり、その慈悲により使用を許可してやっている、とのコンセプトで両国は運営されているのだ。

従って通貨を使用する事自体が(タテマエ上は)発行者の主権下に入った事を意味する。

つまり、他国の通貨を所持すること自体が王に対する反逆を意味するし、それが不倶戴天の王国(帝国)であれば如何なる弁解の余地も無いという論法。


ちなみに、ヤンチャな人達は相手の通貨を鋳潰して怪し気な銀塊にロンダリングしているそうだ。



『そうだな。

カネはヤバい。

…銀貨以外で金目の物を贈らせてよ。

何か欲しいものはない?』



「え? 何だろ?

急に言われても思いつかないなぁ。」



『何かあるだろ?』



「…じゃあ、自由とか?」



『グスタフは子供の頃から好き勝手ばかりするから困るってケルヒャーさんが言ってたぞ?』



「あ、ゴメン。」



『いや、俺に謝られても。

まぁいいや。

抽象的な話をされても困るからさ。

物質で言ってよ。

そっちで価値のある物質って何?

嵩張らないものの方がいいな。』



「うーん、確かに帰りは長いし、重い物を持たされても困るよな。」



『あ、宝石とかはどう?』



「駄目駄目。

俺みたいな田舎の貧民がそんなモンを持ってたら、有無を言わさず盗品扱いされるよ。」



『ああ、確かに。

俺が持ってても泥棒したと決め付けられるだろしな。

グスタフが持ってても怪しまれない貴重品ってある?』



「あー、どうだろ。

俺は狩人だから、多少希少なモンスター素材を持ってても怪しまれないと思う。

俺にしか狩れない獲物も多いし。」



『あ、そっか。

じゃあさ、ちょっとイレギュラーだけどグスタフにはモンスターのレア素材を贈呈させて。

あれだけ助けてくれたんだから、せめて休業補償くらいはさせて欲しい。』



「気を遣ってくれてありがとな。

お言葉に甘えるよ。」



古戦場村の山小屋にグスタフが泊まっているのは、それが理由だ。

ヤバい状況になったら山伝いに帝国に逃げろと言い聞かせている。

(普通は不可能だが、彼なら踏破出来てしまう。)



「それでさあ。」



『ん?』



「何でテッドまで小屋の隣でハンモック張ってるんだよ?」



『いや、連れて来たのに放置は申し訳ないでしょ。

ほら、これ王国の酒。

口に合うか分からないけど。』



「え?

差し入れまでくれるの?

ありがと。」



『友達だろ?』



「友達に休業補償するなよー。」



『友達にタダ働きはさせられんわー。』



2人で笑い合う。

笑い声は思ったよりも高く響き、やがて消えた。



「ゴメンな。

せめてこの村の狩りに参加してやりたかったんだけどな。」



『まあ、仕方ないよ。』



当初、グスタフは宿代代わりに古戦場村の狩りに助っ人するつもりだった。

だが、デモンストレーションとして鳥を落とそうした瞬間に若村長に身元を見破られたのだ。



「あれ?

アナタ、帝国第二師団の弓の人?」



「え? 何で分かったんですか?」



「いや、フォームとか独特ですし。

アナタ、我が国じゃ有名人ですよ?」



「えー!?」



そうなのだ。

グスタフは喋り方のみならず戦闘スタイルまで目立つ。

故に団体行動に混ぜるのは不可能なのだ。



我流で弓術を究めたグスタフは独特のフォームで射撃する。

軍隊の射法というのは帝国式弓術か王国式弓術に大別されるらしいのだが、世界でただ1人この男だけがグスタフ流のフォームを貫き通している。

そもそも弓兵というのは右構えが常識なのに彼だけが左に構える。

しかも股を開き腰を落として半身で射つ。

更には全帝国軍の中で唯一、軍弓ではなく長い狩猟弓で戦闘に参加している。

もはや軍人でも何でもないと俺ですら感じるのだから、同僚達からの風当たりは相当強かったのは当然だろう。

ただ、あまりにも腕前が傑出しているので、グスタフを保有する指揮官達は強引に特例を濫発して彼を重用した。

軍功は著しかった。

多くの王国指揮官を討ち取ったのだ。

特に王国屈指の猛将と恐れられていたコーネリアス大佐の射殺に成功したのは大金星であろう。

…そこまで活躍して追放されるのだから、余程嫌われていたのだろう。

まあ、俺も人の事は言えないが。



「いやー、お恥ずかしい話。

実質的な追放ですよ。

俺は帝国の為にもう少し頑張りたかったのですが。」



「なるほどー。

まあ、アナタは対陣する我々の目から見ても浮いてましたからねー。」



「やっぱり浮いてましたか?」



「ええ私の上官などは、露骨に眉を顰めてましたね。

軍人に必要なのは能力ではなく、一にも二にも協調性だそうです。」



「あー、それは俺も皆から言われました。」



「でしょうねー。」



グスタフと若村長は悲しそうな表情で軍隊時代を語り合う。



「え?

勲章貰えて無いんですか?

スコット中佐もアナタが討ち取ったんですよね?

我が軍じゃ、その話で持ちきりだったんですよ?」



「いやー。

表彰状とか勲章が貰える話は何度かあったんですけど。

いつも立ち消えになって。

俺、部隊の同僚や先輩から異常に嫌われるんですよ。

アイツを外さないなら部隊全員で転属志望書を出すなんて事もありましたし。

それで、俺は8回転属させられましたもの。」



「8回!?」



指揮官からするとグスタフは、悪評は聞いているがそれでも使ってみたい魅力がある駒らしい。

それで思い切って隣の部隊から引き抜いてみると確かに活躍する。

だが、部隊の和が本当に乱れる。

洒落にならないくらい雰囲気がギスギスする。

それでは仕事にならないので指揮官はやむなく放り出す。

9人目の引き取り手が居なかった上に、王国との休戦も成立したのでグスタフは除隊させられた。

戦士としては誰よりも優れていたが、兵士としての適性が致命的に欠如していた。


「せめて右手で射てたらなぁ。」


それが別れ際の司令官閣下のお言葉。

そう、グスタフは雑兵の癖に各司令官から直接話し掛けられる存在だったのだ。

そりゃあ嫌われるだろ。



「なんかゴメンな。」



『いや、俺は軍人じゃないし。

別に気を遣わなくていいよ。

無理して周りと一緒に居なくてもいいし。』



「あ、それが1番助かる。」



『若村長にもグスタフ専用の猟区を設定して貰ったから。

ほらトラバサミの奥。

大型のホーンラビットが出没する噂もあるけど。』



「え?

多分、初日に殺しちゃった個体だと思う。

報告してから射った方が良かったかな?」



『いや、俺達は兵士じゃないから。

そこまで厳密じゃなくていいよ。』



「なぁ、じゃあ俺達って何なんだ?」



『冒険者だよ、決まってるだろ。』



「そっか、冒険者だったな。」



『今は消去法だけど(笑)』



2人で笑い合う。

俺も団体行動苦手だからな。

グスタフの心境は理解出来てしまうし、持て余した指揮官や排除に躍起になった同輩達の気持ちですら想像がつく。



『なー、グスタフ。』



「んー?」



『軍隊じゃないから厳しい事は言えないし、細かい規則も作れない。』



「ああ。」



『だからさ。

きっと自分自身が厳格な軍規であるべきなんだろうな。』



「自分自身って、そんなのやりたい放題じゃないか、」



『だから、だよ。』



「そっか。

だから、か。

ちなみに俺は俺に何て命令すれはいい?」



『うーん、協調性?』



「それが出来たら追放されてねーよ(笑)」



表向き笑っているが、グスタフが頑張ってくれる事を俺は知っている。

性に合ったポジションなら、人間は貧困や痛苦すらも然程は感じないのだ。

俺のでっち上げた冒険者稼業は金持ちにはなれないし社会的に信用もされないが、対人ストレスは薄い仕事だ。

なので森のハンモックで星を眺めて夜を過ごしても辛いとは思わない。



「テッド。」



『ん?』



「性に合ってる。」



『そりゃあそうだ。

人付き合いが苦手な、この俺がでっち上げた商売だからな。』



再び笑い声が響いてフクロウが飛び去る。



普通が出来る奴には分からないだろうけどさ、俺達がこうやって山で寝転んでるのも、俺達なりの社会性なんだぜ。





Lesson28 『気質に合った生業を選べ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨12枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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