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Lesson27 『人前で話す癖をつけろ。』

誤算だった。

俺が入手したトラバサミに対してのリアクションがイマイチ弱い。

皆が猪害に苦しんでいると言っていたので、ドワーフに貰った時は喜んで貰えると思ったのだが…



  「落とし穴を掘った方がコスパいいんじゃない?」


  「それは【虎】ってモンスターを退治する為の道具だよね?

  猪に効果あるのかな?」


  「随分トゲトゲしてるけど、これは危険じゃないの?」



大体こういう反応。

導入に反対まではされないのだが、ビジュアル的に凶悪過ぎる所為か、自分の村への導入には皆が難色を示した。

実は俺も彼らと同じ意見なのだ。

ドワーフが自慢するほどなので、恐らく威力はあるのだろう。

問題は、誤って踏んでしまった場合である。

どう見ても足が砕けてしまうこと必至だろう。


唯一、古戦場村の若村長だけが導入を決断してくれた。

流石に19歳だけあって果断である。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



逆に皆の注目はハンモックに集まった。

俺はトラバサミの話題をしたいのだが、皆はハンモックに興味津々である。



「あ、あの。

ウォーカー君、少しだけでワシも使わせて貰っていいかい?」



『ええ、どうぞ。』



  「ワシもワシも!」


  「次、俺もいいっスか?」


  「じゃあ、その次はワシ!」



『え、ええ。

別に構いませんけど。』



俺が呆然としていると老人達がキャッキャと燥ぎながらハンモックを取り合っている。

いや、確かに面白い道具だとは思うのだが…

でも皆は獣害に困ってる訳だよね?

じゃあ、遊んでる暇があったらトラバサミの効果を検証するべきではないだろうか?



「ウォーカー君!!

これ滅茶苦茶いい!!

最高の寝心地!!」



『あ、はい。

お気に召したようで何よりです。』



参ったなぁ…

みんなもっと真面目に仕事の話をしようよ…

でも、年長者相手に細かいことをゴチャゴチャ言うのも憚られるしな。



それが帝国から帰ってから一週間の話。

喜んでくれているのは何よりだが、思ってたのと違うなぁ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ブルータウンに戻った俺達は網元に復命。

帝国の最辺境に辿り着き庄屋ケルヒャーと面談したこと、ドワーフにサンプルとしてフカヒレを渡した事を説明する。



『すみません。

ある程度のキャッシュが得れれば良かったのですが。』



「いや、迂闊に値段を付けなかったのは正解だな。」



『え!?

そうなんですか?』



「うっかり安値を付けてしまうと、その価格を基準にされてしまうからね。」



『あ、そっか。

確かに。』



「結果として良かったと思うよ。

ドワーフは商魂逞しいから、もしもカネになるのなら絶対に向こうから再接触を図ってくる筈。

逆に彼らがカネにならないと判断したのなら、どのみち我々では換金不可能だろう。

何せ、ドワーフの中には帝国皇帝の私有鉱山の管理を任されている者もいる程だ。

コネなら我々より彼らの方があるに決まっている。」



網元はそう言って倉庫に案内してくれる。

そこそこの数のフカヒレが二重天井に隠されていた。



「増産はしない。

領主サイドに発見されるリスクが大きいし、そもそもドワーフが販路を開拓してくれる保証がないからね。」



『分りました。』



「ただ、保存は効くみたいだから、粘り強く彼らのリアクションを待とう。」



『俺、暇な時に営業進捗を尋ねに行ってみましょうか?』



「うーーーん。

私は反対かな。

売り急いでいると思われたら、今後買い叩かれる恐れがある。」



『なるほど。』



「ドワーフに対しては

【売れれば儲けもの程度にしか思ってませんよ。】

という姿勢で応対しよう。

足元だけは見られないように。」



『はい!』



水産業・水産加工業は動く金額が大きい。

なので大商いに慣れている網元のレクチャーは俺にとって非常に有益なものとなった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



特に拠点を定める予定はなかったのだが。

宿を提供してくれた上にトラバサミの試験設置にまで応じてくれたので、自然と古戦場村に腰を落ち着ける事になった。


【冒険者の宿】


これが本当に便利なのだ。

まず、ポーター社長の馬車を停めておける。

なので彼の維持費が浮き、厩舎代の為にしたくもない仕事をする必要がなくなった。

次に、元果樹職人達がドヤ街を転々としなくて済むようになった。

生活の安定した彼らは、夕方にビリヤードやダーツを楽しむ余裕すら手にする事が出来た。



『村長のお気遣いのお陰です。』



俺は視察に来た若村長に改めて礼を述べる。



「いえ、ウォーカーさんの仲間が弊村を中心に駆除活動をして下さってます。

そしてクラークさんも様々な資料を提供して下さりました。

いやあ、ようやく一息付けましたよ。

村長職を継いだ時は、内心諦め掛けてましたが…

再興への希望が何とか見えて参りました。」



そう言って若村長はポーチから草束を取り出す。



「クラークさんが主要薬草の絵図を描いて下さりました。

おかげで、私のような素人でも、ほら。」



『え?

これは?』



「センブリです。」



『おー!!!』



「あの人凄いですね。

流石に王都の大学を卒業されただけあって、要点を纏めるのが上手いです。」



そうなのだ。

クラーク女史は絵心まで備えており、主要薬草のスケッチイラストを描いてくれた。

女史の几帳面な性格を反映してか、色鉛筆で丁寧に着色までされている。



「いや、ウォーカーさん。

これは画期的なことなんですよ。

宿のボードに掲示されてるイラストを皆に公開してくれているのも頭が下がります。

普通、薬草の見分け方なんて村ごとの秘伝ですのに。

クラーク女史は美しい上に高潔な方だ!

ウォーカーさんもそう思うでしょう?」



『ええ、まあ、ははは。』



実はイラストを公開するのは俺の発案なのだが、水を差したくないので黙っておく。

だって、一々ポートフォリオから取り出して見せるのは面倒だしね。

こうやって冒険者の宿のロビー掲示板に誰でも見れる形で張り出しておけば、お互い無駄な手間を掛けずに済むというものだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺は宿屋業のノウハウを持ち合わせていないので、冒険者の宿で宿泊営業をする事は断念した。

若村長には申し訳ないが、仲間の宿泊所として活用させて貰う。

勿論、私物化の意図はないので、古戦場村まで手伝いに来てくれた者は空き部屋で寝かせてやる事にした。



『申し訳ありません。

宿屋を開業する自信が持てないんです。

俺もフラフラしてますしね。』



「いえいえ、ウォーカーさん。

寧ろありがたいですよ。

駆除仕事に興味のある人がウチの村に来てくれますから。

これで田畑も無事に回復しそうです。」



『そう仰って下さって助かります。

少しでも有効に活用出来るように頑張ります。』



「ええ、期待してますよ。」



若村長は優しいのだが心苦しい。

何故なら置き場に困ったハンモックを冒険者の宿の裏手に据えた所、駆除に興味の無いものが集まって来るようになったからだ。

そして俺がここに戻って来ると、口を揃えてハンモックを体験させてくれとせがむ。

ゴブリン団子の話も尾びれが付いて広まったらしく土産話をせがまれる。



『ポーター社長。

今日も来てるんですか?』



「おーう、千客万来だ。

オマエ、すっかり人気者だな。」



『勘弁して下さいよ。

これじゃあ仕事になりません。

今週は大根村に専念したかったのに…』



「まあ、確かにな。

これだけ毎日面会希望者が増えたら…

ウォーカーが身動き取れなくなっちまう。」



『何とかなりませんかね?

遠方から遊びに来て下さる方もおられるので、無下には出来ませんし。

こう毎日物見の来客が続くと…』



「じゃあさあ。

もうオマエが日付を決めろよ。」



『え?

どういうことですか?』



「週一でも月一でもいいんだけどさ。

オマエが確実に居る日を決めろ。

もう、その日以外は受け付けない事にしようぜ。」



『そんなの…

一方的に決めていいんですかね?』



「いやいや。

オマエは話を聞かせてやる側なんだから。

寧ろ、恐縮するのは来客側だろ?

大体アイツら身勝手なんだよ。

アポも無しに押し掛けて来やがってよ。」



『…そうですね。

正直、俺も限界ですし…

ポーター社長の言う通りにしますわ。』



「おう、そうしろ。

月イチにしとく?」



『10日に一回。

10日・20日・30日に纏めてハンモック体験会とゴブリン講話をします。』



「オマエもマメだねー。

ま、10日に一度なら負担も激減するだろうな。」



こんな経緯で来客制限を行う事にした。

若村長にも現状の混乱を詫びる。



「いえいえ。

お陰でウォーカーさんのおこぼれが弊村にも入って来てますので。

どうかお気遣いなく。

寧ろ感謝してます!」



どうやら古戦場村が細々と売っていたドブロクや干し肉を来客達が買ってくれるらしい。

村人も現金収入が増えた事を喜んでいるそうだ。



『あ、そうなんですね。

安堵しました。』



「ウォーカーさん。

折り入って相談があるのですが。」



『え?

はい。』



「ウォーカーさんが聞かせてくれたゴブリン団子の話ありましたよね?」



『ええ、それが何か?』



「ヨモギ味のキビ団子と伺いましたので…

勝手にこんな事をしたら怒られるかと思ったのですが…」



そう言って若村長は申し訳なさそうな表情で小袋から何かを取り出す。



『あ!』



「ゴブリン団子、作ってしまいました。」



『えー。

こんなもん作ってどうするんですかー。

団子なんてコメ以外で作っても仕方ないでしょうに。』



「あの、宜しければ試食して頂けますか?」



『え?

まあ、はい。』



俺は若村長の差し出した団子を咀嚼する。

ああ、確かこんな食感だったわ。

団子くれるなら、普通の団子を食わせてくれよな。



「如何ですか?

再現出来ておりますでしょうか?」



『再現性はかなり高いです。

俺も口に含んで、あの日の景色を思い出しましたもの。』



「おおお!!!」



『まあ、所詮ゴブリンの食べ物ですから。

味に期待しても仕方ないですけどね。』



「…あくまでウォーカーさんの許可を得れればの話ですが。」



『はい?』



「これを弊村・古戦場村の名物とします!」



『え?』



「古戦場村名物! ゴブリン団子!!!」



『え?え?え?』



「今後はウチの村はこの路線で村おこしをしたいのです。」



『いやいやいや、正気ですか?

え? だってコレ、ゴブリンの食べ物ですよ?

団子なんて普通はコメで作るものでしょ?』



「はい、普通なら嫌がられます。

キビの団子を旅人に出そうものなら。

【あの村でキビを食わされた。】

と悪評をバラ撒かれてしまうことでしょう。」



『ええ、仰る通りです。』



「ですが!」



『?』



「弊村への来客目的はウォーカーさん見物が大半です。

みんな、ゴブリンから新ガジェットを仕入れたウォーカーさんを見たいんですよ。」



まるで珍獣扱いである。



「じゃあね?

いっそのこと、ウォーカーさんにちなんだ商品を名物にしてしまおうと。」



『なるほど。』



「しかもヨモギもキビも原価が安い!!」



若い癖に目端の利く男だ。

一般的に名物と言えば、手の込んだものが多いが…

うん、確かに原料がヨモギとキビなら、製造コストはたかが知れてるか。

売れたら儲けものだよな。

売れ残ったら晩飯にすればいいだけの話だし。



「ウォーカーさん。」



『あ、はい。』



「許可を頂きたい。」



若村長が膝をズイっと寄せて来る。

流石にこの歳で村長職を任されるだけあって押しが強い。


正直、俺は反対なのだが…

(いや団子ってコメで作るべきじゃん。)

冒険者の宿を提供して貰ってる以上、無下にも出来ない。



『分りました。

俺は反対しません。』



「出来れば!

反対しない、ではなく!

積極的にプッシュして頂きたい。」



『え?

プッシュ?』



「はい!

他所でゴブリン団子の話題になった時は!

古戦場村の村営売店で売っている旨に触れて頂きたい!」



内心、嫌なのだが…

トラバサミの実験にも協力して貰ってるしな…

若村長の機嫌は損ねたくないんだよな…



『…分りました。

古戦場村とセットでこの話題をする事を約束します。』



「やったぜ!」



若村長は拳を握り締めて喝采。

そりゃあね、思惑が当たると気持ちいいよね。

俺だってそうだもの。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『と言う訳で!

ゴブリン達が何を敷設していたのかは未だに分からず終いですが!

彼らにもインフラの概念がある事を知れたのは、非常に貴重な体験となりました!

では、お待ちかねのハンモックコーナー!!』



一斉に歓声が上がる。



『はーい、並んでいる間。

古戦場村名物のゴブリン団子!!

たったの銀貨2枚!

ちなみにゴブリンは鉄貨1枚で売ってくれます。

あ、ここ笑うところですよー。』



一同笑。



『はい。

冒険者の宿のロビーには鉄貨を飾っております。

ええ、仕事募集の掲示板はどなたでも応募出来ますので。


え?

お兄さん、狩猟経験あるんですか!?

お小遣い稼ぎに飛びモグラ案件いかがですかー?』



一同笑。



『はい!

古戦場村だけではなくてね。

川沿いの村全部で案件はありますから。

仕事をお探しの方は是非カウンターのお姉さんに声を掛けて下さい。

はい、あそこのお姉さんでーす。』



  「どもー。

  受付嬢のレオナでーす♪」



レオナール女史は陽気な美人なので、当然歓声が上がる。

結局、レオナ・レオナールは獲得した司書の仕事を一瞬で退職した。

敬愛する先輩のクラーク女史と共に歩むことを決めたらしい。

冒険者の宿に勝手に押し掛けて「住み込みで仕事をします!」と宣言された時は腹が立ったものだが、大学を出ているだけあって役には立つ。



『はーい、ハンモックは1人3分ですよー。

仲良く使って下さいねー。

じゃあ、次はドワーフについて!』



元来俺は人前で話す事が嫌いだし大の苦手なのだが…

流石にこれだけ場数を踏めばな。

いつの間にか不特定多数を捌くコツが身に付いたし、周囲曰く堂々たる司会ぶりらしい。

正直、キャラに合ってないので誰か変わって欲しい。

でも、皆が楽しんでくれているなら、それで満足するべきなのかな。



俺の名前はテッド・ウォーカー。

浮浪者扱いされるのが嫌で【冒険者】なる職業をでっち上げた男だ。

相変わらずカネには困ってるし、宿が埋まった為に今夜の寝床はハンモックなので、傍から見れば結局は浮浪者なのだろう。



でも、最近みんなが優しく声を掛けてくれるようになった。

それが俺にとって掛け替えのない冒険の成果だ。




Lesson27 『人前で話す癖をつけろ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨22枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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