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Lesson24 『相手の立場を尊重せよ。』

ドワーフの砦の眼下を抜け、スライムの沼を大きく迂回し進んだ。

大型の奇妙な斑点を持つトードを7匹ほど始末して、長い斜面を登り続けた。

遠目に浮かんだのは見覚えのあるトーテム。



「テッド。」



『ああ、帝国人の集落だ。』



俺とテッドはゆっくりと歩く。

集落には柵も見張り台もあったが、俺達が抜けて来た森の側にはない。

つまり、俺達は存在のみならず進路すらもイレギュラーな存在だった。

しばらく歩くと藁を荷馬車に積んでる男と鉢合わせる。



「え!?」



やはり森からの侵入は想定外なのだろう。

男は絶句して硬直してしまった。



『こんにちは。』



「王国人!?」



出来るだけ平坦な発音を心掛けたつもりだが、彼にとっては王国訛り以外のなんでもないのだろう。

悲鳴を上げながら手元の鋤を引き寄せる。



『市民権持ってないんで、厳密には王国人では無いのかも知れません。』



「嘘だ!

確か王国でも徴税の為に市民登録が強制されてるって聞いたぞ!」



『本百姓の人達は登録させられてるんですけど、俺は農奴身分なのでそう言う話が回って来た事はないです。』



「…。」



『背中に焼印が押されてるんですけど、見ます?』



「…いや、まあ。

キミが軍人とかでは無い事は理解したよ。」



『ありがとうございます。』



「えっと、こういう場合は庄屋への通報義務があるんだけど…」



『はい、問題ありません。

王国でも似たような規則がありますし。』



俺は男に促され、村の集会所に連行された。

手錠や首枷を覚悟していたのだが、それらは用いられなかった。

集会所の中庭に座らされる。

ムシロが敷かれているので彼らなりに気を遣ってくれたのかも知れなかった。


途中、庄屋の奥様らしき婦人が現れ、何やら周囲を叱責し始めた。

その後、椅子が2脚運ばれて来て、ムシロの上の椅子に着座するという珍妙な絵面となった。



「はじめまして。

庄屋職のケルヒャーです。」



言葉は慇懃だが眼光は異常に鋭い。

村長職が世襲されがちな王国と違って、帝国は軍階級順に庄屋職が任命されるからな。

眼前に立つ初老の男もかなりの軍歴の人物なのだろう。



『テッド・ウォーカーです。』



「ジェフリー・フィシャーです。」



「最初に確認しておくが、軍属ではないね?」



『いえ。

3ヶ月前まで軍の荷運び人夫をしておりました。』



「休戦解雇かね?」



『偉い人が奥さんの邸宅を建てる事になったそうです。』



「なるほど。

よく分かった。


キミという人間が。」



『…。』



「申し訳ないが荷物の中身を確認させて頂いた。

ご用件はアレの商談ということで宜しいか?」



『帝国の人は鮫のヒレを食べると聞きまして。

買ってくれたらいいな、と思って参りました。』



「キミの誤認を1点訂正させてくれ。」



『はい?』



「我が国の偉い人達は食べられる。」



『庄屋さんは召し上がらないのですか?』



「王国ではどうか知らんが、我が国の庄屋は偉くない。

これは義務であって権利ではないからね。

ここに来る途中、痩せ細ったジャガイモ畑が広がっていただろう?

そういうことさ。」



『もし失礼な事を申し上げていたらお詫びします。』



「いや、謝罪には及ばないよ。

戦場以外で王国人に会える日が来るなんて想像もしていなかったからね。

こちらこそ非礼があれば許して欲しい。」



ケルヒャーはフカヒレを眺めながら眉間を押さえている。

どうやら帝国領にさえ持ってくれば現金化出来る訳ではないらしい。



「売ればカネになる。」



『え?』



「但し、私には高級品を売買する資格は無い。」



『なるほど。』



「勝手ながら重量を計測させて頂いた。

貴国の度量衡には疎いが、我が国の基準では計10.2キロ。」



『相違ありません。』



「あくまで見込みだが、金貨10枚の価値はある。」



『え?

そんなにするんですか?』



「私は富と無縁の平民だ。

正確性には期待しないように。

だが、高級品である事は間違いない。」



『でも買取はして貰えないのですね?』



「予備役とは言え私は軍属だ。

外国勢力との商行為がそもそも禁止されている。」



『あ、そうですよね。

申し訳ありません。』



「無論、帝国人全員が軍人ではないし、行商人同士の商行為であれば外国勢力が多少関わったとしても違法性はない。

褒められる事ではないがな。」



『では、行商人の方を紹介して頂くことは…』



「ここに来る途中、痩せ細ったジャガイモ畑が広がっていただろう?

彼らにだって行商先を選ぶ権利はある。」



なるほど、やはり帝国の中でもかなり貧しい部類の村落なのだな。



「素直に退去してくれれば、荷物の接収は行わない。

退去に応じないなら駐屯地に通報し、証拠品として荷物を軍に提出する。」



『承知しました。

退去致します。

申し訳ありませんでした。』



「理解に感謝する。


驚いたね、まるで食い下がらないのだな。」



『ご迷惑を掛けているのはこちらですので。』



「…。」



俺とジェフは一礼して椅子から立ち上がる。

そしてケルヒャーに見送られジャガイモ畑を歩く。

なるほど、確かに物成の悪そうな土質だ。



「ここまでが弊村の領域である。」



不意にケルヒャーが宣言した。



『え?』



「貴君らが踏みしめている地面は村の管轄外。

私の職掌の範疇にない。

よって、君達の行動に干渉する事が出来ない。」



『…。』



「…いや、本当のことなんだ。

国境保全の意味でも、辺境村落は国境への接近を禁止されている。

分かるだろ?

お雇いとは言え軍で働いていたなら。」



『ええ、何となくは。』



「もてなせなくて済まないな。

だが、そこより奥でテントを張って休息することは合法だ。」



『何か、気を遣って頂いて申し訳ありません。』



「武器を携帯していない以上、君達は侵略者ではなく旅人だ。

誇り高き帝国軍人の任務には旅人の保護も含まれている。

気にする事はない。」



ケルヒャーは曳いて来た馬のサイドバッグから酒瓶を取り出し、こちらに放り投げる。

意匠からして帝国軍の支給品なのだろう。



「規則により村内の物資を提供する事は出来ない。

なので君達に贈る事が出来るのは、それ一本だけだ。

合戦の褒賞品であるだけに、やや気は引けるが。」



『謹んで頂戴致します。』



森の側でのキャンプを許されたので、俺とジェフは目立たない程度に焚き火を起こし鍋を沸かせた。

何を煮込むのかって?

決まっているじゃないか。



『おーい、そこの方。

料理を作り過ぎたんです。

一緒に食べませんか?』



「おーう。

さっきからチョコチョコ動いてると思ったら、王国料理でも振舞ってくれるのかね?」



『いえ!

帝国料理です。

資料を読み聞かせて貰っただけなので味は保証出来ませんが。』



そんなに香りは立たない。

だが、煮込み料理特有の可食物が生まれる気配が周囲に漂った。

村人が互いを呼び合って鍋の周囲に集まった。



  「いいのかい、こんな物を我々なんぞが食べて。」


  「宮廷料理だろ?

  後から不敬罪とか勘弁だぜ。」


  「へー、まあ食感は面白い。」


  「お貴族様はこういう料理好きだよなー。」



まあ、珍味だからな。

腹を減らした村人達にとっては、そんなに刺さらないのだろう。

ただ、一生縁のない食材を口にした感動は大きいらしく、村人達の表情は先程とは異なり随分と友好的なものになった。

俺達に雑談を求めて来る者すらいた。



『ケルヒャーさんも是非!』



「スマンな。

軍規により外国勢力から接待を受けることを禁止されている。」



『あ、それは知らぬこととは言え申し訳ありません。』



「だが1人の村人として、同胞に振舞ってくれた事に対して感謝を述べさせてくれ。」



『…勝手なことばかりして申し訳ありません。』



「いや、君達が我々のルールを尊重する姿勢は伝わった。

故に勝手だとは感じていない。」



俺は改めてケルヒャーに頭を下げる。

彼が自分の職掌の範疇でギリギリの便宜を図ってくれている事が痛い程伝わって来るからだ。



「これはただの独り言だが。」



不意にケルヒャーが俺を見据えたまま言う。



『はい?』



「グスタフは本当に困った奴だ。

狩りと称して森をフラフラしているんだからな。」



『…グスタフさん、ですか。』



「この前なんぞは王国人と森の奥で釣りをしたなんて大法螺を吹いていた。」



王国人と…  釣り!?



『あ!!』



軍を追い出されてグリーンタウンに向かう際、この森を横切り、そして帝国の狩人と出逢った。



「おいハンネス。

グスタフの奴は最近どうしてるんだ?」



  「え? 多分鳥撃ちじゃないっすかね?

  ほら、先週公民館に勝手に雉を納めてたじゃないっすか。」



「アイツもなー。

獲物さえ分ければ大目に見て貰えるって思いこんでるからな。

私が甘やかし過ぎたかな。」



  「まあグスタフが獲物を置いてくれるから…

  助かってる奴が居るのも事実っすけど。」



「まだ雉は獲れるかね?」



  「どうでしょ?

  例によって千年樹に登ってるんじゃないっすか?

  アイツ、ガキの頃から行動パターン全然変わってないんで。」



「ああ、千年樹なあ。」



そう言ってケルヒャーはゆっくりと背後の森を指さす。

この角度からでも見える高木。

あれの事か?



「ウォーカー君と言ったね。」



『はい。』



「この村を預かる者として申し渡す。

今回は初回である為に看過するが、以降はこの村に立ち入ることを禁ずる!

万が一、一歩でも村の敷地に立ち入った場合、即座に逮捕し駐屯地に連行する!」



『はい。

承知致しました。』



「まあ、キミが今立っている場所は敷地外だから…

どれだけ居座られても私にはどうする事も出来んがな。」



『…ありがとうございます。』



「帝国と言ってもここは最辺境。

見ての通り名産も名勝も存在しない。」



『…。』



「まあ、森の中では立派な雉が獲れることくらいかな。」



それだけ言うとケルヒャーはフカヒレスープに舌鼓を打つ村人達を残して去っていった。

俺とジェフは頭を下げ続けてその大きな背中を見送った。




Lesson24 『相手の立場を尊重せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨57枚

鉄貨91枚 (ゴブリン経済圏でのみ通用)



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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