Lesson22 『営業回りを途絶やすな。』
クラーク女史の疲労が激しい。
司書勤務をこなした後、図書館に残って夜遅くまで資料制作をしてくれているからだ。
「いえ、テッドさんの頑張りに比べれば何ともありませんよ。」
『そうは言っても、最近もドブネズミについて調べて頂いたばかりです。
少しは休憩なさって下さい。』
女史はしばらく考え込んでいたが、ポシェットから冒険者カードを取り出して無言で微笑む。
まあ、言いたい事は分かるがな。
「テッドさん、まだドブ攫いを続けておられるんですよね?」
『ただの生活費稼ぎですよ。』
「やっぱりマージン10%は大変だと思います。
皆さんの装備も自腹で買い揃えてあげてるんでしょう?
どう考えてもテッドさんの持ち出しじゃないですか。」
『うーん、まあそうなんですけど。
俺の名前で仕事を頼んでいる以上、怪我とかさせる訳にはいかないんで。
流石に丸腰でモンスターと戦わせる訳にはイカンでしょ。
まあ自腹支給と言っても手袋と棍棒だけですよ。』
「それでも、纏まった数を買い揃えるのは…
大変だと思います。」
まあな。
ぶっちゃけ大変だ。
でもさ、俺だけテントを持ってて、俺だけ立派な手袋をしてるのっておかしいだろ?
別に彼ら全員を養ってやるつもりはないけどさ、発注者として最低限の義務ってあるじゃない。
『じゃあ、俺も少しは手元に残しますんで、クラークさんも少しは休暇を取って下さい。
何か休日にしたい事はないんですか?』
「…学生時代は、休日は図書館に行ってました。」
『ふふふ、クラークさんらしいですね。
じゃあ、今は行きたいところはないですか?』
「…。」
『…。』
「笑わないで聞いて頂けますか?」
『勿論です。』
「冒険に行きたいです。」
『え!?』
「ふふふ、ごめんなさい。」
『あ、いや怒ってる訳ではないんです。
ただ、御婦人にあんな過酷な仕事をさせる訳にはいかないので。』
「大変ですか?」
『昨日なんかポーター社長の顔より大きいドブネズミと戦っておりました。』
何がおかしいのかクラーク女史は愛おしそうに笑う。
「テッドさん。
私、幸せなんです。」
『え?
今の暮らしがですか?』
「子供の頃から、世界がどうなっているか知りたかったので。
親や友達からは変わり者扱いされてましたけど…
でも、女が学術なんておかしい事は自覚しているんですけど…
それでも、王都の神聖防壁の外の世界を見てみたかったから。」
『…。』
「テッドさんのおかげで夢が叶いました。
そしてその夢は日々膨らみ続けています。」
分からない。
聞けばリコ・クラークの実家は男爵家であるという。
分家なので王都の中では身分が低いが、叔父が統括するクラーク本家は子爵位の世襲が許されており、小さな領地まで持っているそうだ。
詮索するつもりはないが、口ぶりからして縁談から逃げる為に司書の道を目指した気配がある。
分からない。
こんな田舎町で農奴の俺なんかと一緒に居る事に何のメリットがあるのだろう。
いつか尋ねてみたいが…
目の前の幸せそうな表情を見ていると、問い質すのは間違っているような気がする。
「ではテッドさん。」
『あ、はい。』
「時間を作って調査を再開します。
調査が必要なのは
【飛びモグラ】
【ロングスネーク】
【ヨモギ】
【大カラス】
【ポイズントード】
【鹿】
【野営知識(概要)】
【保存食知識(概要)】
で宜しいですね?」
『…。』
「テッドさん?」
『いや、明らかにクラークさんに負担が掛かり過ぎですよ。
それに、俺はこれから活動範囲を広げる予定なんです。
ますます調査をお願いする機会が増えるでしょう。』
「ふふっ、テッドさんのお役に立てるのなら嬉しいですけどね。」
『お言葉は光栄ですが、身体を壊してしまっては元も子もありません。
大体、俺が軽率でした。
司書のお仕事も大変なのに、それが終わってから調査を頼むなんて。
軽く考え過ぎていたと反省してます。
…お願いしたのは俺ですが、もう兼務は終わりにしましょう。
仕事にだって優先順位があります。
これ以上貴女に負担が掛かるのは我慢出来ない。』
思わず本音が出た。
でも仕方ないじゃないか。
クラーク女史は出逢った頃より明らかに窶れてしまっているのだから。
本人は否定しているが、巨大ドブネズミの対策レポートを書き上げる時は相当無理をした気配がある。
良家のお嬢さんにこんな事をさせてはならない。
もう写本は他の者に頼むしかない。
出費は増えるかも知れないが、背に腹は代えられない。
「…分かりました。
何事にも優先順位がありますものね。
はい、もう兼務はやめます。」
『おお!
分かってくれましたか!』
「はい。
司書は退職致します。」
『え!?』
理解不能。
この女は何を言ってるんだ?
王立図書館の司書と言えば知識階級を象徴するような花形仕事だ。
それを辞める?
え? どういうこと?
呆然とする俺を尻目にクラーク女史は駆け出してしまった。
但し、今までとは違って足取り軽く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
図書館司書というのは花形故か競争の激しいらしく、大学卒業者達が常に虎視眈々と空席を狙っている。
女子司書の場合は特に空きが少なく、幾ら王都で職業婦人なるものが流行しているとは言え、前任者の結婚退職以外に席を得る事が相当困難らしかった。
「先輩、本当にありがとうございますー♪」
「いいのよ。
私が退職する時はレオナを推薦するって約束だったでしょう。」
クラーク女史の退職宣言から5日後、眼前のレオナ・レオナール女史がグリーンタウンに到着。
諸々の引継ぎを終えて、その6日後に退職手続きが完了した。
俺は何度も翻意させようと説得したのだが、クラーク女史は良くも悪くも頑質だった。
そりゃあね、妙齢の貴婦人が1人でこんな辺境まで赴任して来ている時点で並の意志力ではないよね。
「ではテッドさん。
可処分時間を作りました。」
『え?え?え?』
「なので、これからは冒険者のお仕事に専念出来ます。」
『いやいやいやいや。』
「レオナ。
大学の時みたいに宜しくね。」
「はい先輩♪
お任せ下さい♪」
『いやいやいやいや。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな遣り取りがあって、司書の席はクラーク女史の親友であるレオナール女史に移った。
クラーク女史はリフレッシュ休暇も兼ねて…
『ポーター社長、貴方もグルだったんですか?』
「おいおいおい。
人聞きが悪いなあ。
リコちゃんの退職祝いに馬車遊覧をサービスしてやってるだけじゃねーか。」
『いやいやいや!
モンスターの駆除現場に貴婦人を連れて行くなんて正気の沙汰じゃない!
クラークさん、今からでも遅くありません。
街にお戻り下さい。』
何が可笑しいのかクラーク女史はさっきからずっとクスクス笑っている。
「本当にお堅い奴だなー。
そんなに心配ならオマエが守ってやれよw」
『騎士物語じゃあるまいし!』
「でもウォーカーは立派な手袋してるじゃーんww」
『立派なのは手袋だけですよ!
中身は俺なんです!』
「あっはっはwww」
そんな話をしている間にミゲル村に到着。
クラーク女史を皆に紹介して回る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【ミゲル村から受諾中のクエスト】
『ラー油の密造・密売体制を確立せよ』
1,村と瓢箪池を結ぶ山道の復旧を断念。
2,果樹職人チームに隠し路造成を依頼し成功
3,ラー油試作品が完成 ← イマココ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミゲル村ではラー油の試食。
『辛い!』
「コメと一緒に食うんだよ。」
『ぱくぱく。
旨い!!』
「どう?
売れそう?」
『一般受けはしないかも。』
「正直で宜しいww」
クラーク女史は手元のメモに調査すべき項目を書き込んでいる。
「テッドさん。
【香辛料一覧】
も調査項目に加えておきますね。」
『あ、うん。
お願いします。』
同行に反対した俺だったが、正直助かっている。
幾ら現場を知っているとは言え、俺は無学者だ。
正規の学問を収めたクラーク女史が現場を再チェックしてくれるのは助かる。
今までは俺というボトルネックが挟まった伝言ゲームだったからな。
その後、ハンスに案内されてホーンラビットの巣穴跡を見学。
駆除方法を確立したことで、ホーンラビットの目撃数が激減したらしい。
村のみんなとグータッチして次の村に向かう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【馬借村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『大カラス駆除』
馬に危害が加えられている。
駆除したいが巣が高木にあり手が出せない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ポーターとクラーク女史が冒険者カードを提示すると、馬借村の村長は嬉しそうに破顔した。
まあ、彼の提案だからな。
形になるのは気分が良いのだろう。
「村名が示している通り、ウチは代々馬を扱っている。
運送や伝達でそこそこ儲けては居るんだが、泣き所もある。」
『それが馬へのモンスター被害ですね。』
「うむ。
何せ一頭一頭が高級品だからな。
カラスに突かれて死にましたなんて事になったら、やってられんのだわ。
まあ、既に被害は出てるんだが。」
クラーク女史が一歩進み出て、大ガラスの被害について詳しく聞き取る。
やはり学のある人だけあって、着眼点が非常に細やか。
馬借村村長も大いに喜んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【竹細工村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『大カラス駆除』
人参畑が襲われ今期の収穫は断念。
腹立たしいので仕返しをして欲しい。
『ポイズントード駆除』
村の奥にある豊穣沼は文字通りウナギや鯉が獲れる村の貴重な食料供給源だったが、近年ポイズントードが増殖。
今は近寄るのも怖い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『うわー。
いつ見てもポイズントードはデカいですねー。』
「そうなんじゃよー。
アイツら年々デカくなっててさあ。
もう沼の淵まで我が物顔よ。」
クラーク女史が手早く筆を動かしながら、被害状況について数点質問。
納得したような顔でウンウン頷いているので、彼女なりに道筋は立ったのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【大根村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『飛モグラ駆除』
巣を潰さないとキリがないので、個別討伐依頼は一旦取り下げ。
『飛モグラ巣穴殲滅』
根菜とモグラの相性の悪さは絶望的。
貴重な現金収入源である大根を守って欲しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『村長、ヨハンさん。
まずはお礼を言わせて下さい。
ヨモギ、あんなに早く集まるとは思いませんでした。』
「まあ、いい小遣い稼ぎになったよ。
さあ、依頼手数料だ。
ちゃんと確認してね。」
『ありがとうございます。
頂戴致します。』
「中州の連中に言っておいて。
儲けてるんだからケチケチするなってな。」
『ははは、お手柔らかに。』
「で、こっちの依頼は忘れてないよな。」
『はい、大根畑への獣害ですね。』
「うん。
これ以上被害が増えたら逃散も本格的に考えなきゃならん。
結構切羽詰まってるんだ。」
『どこも猪が酷いですね。』
「昔はなー。
マタギ連中が喜んで猪狩をしてくれたんだが…」
『今は大農園の専属契約なんですよね?』
「まあな。
貴族達は俺達に掛けた重税を原資に肥える一方さ。」
『…。』
「忘れてくれ。
済まないな愚痴ばかりで。」
『いえ、必ず解決します。』
「…うん。」
『村長。』
「ん?」
『俺が解決に向けて動くときは助けてくれますか?』
「ばーか。」
『そうですよね、失礼しました。』
「キミとは一蓮托生だろ。」
『え!?』
「まあ、まずは猪と飛びモグラだな。」
『はい、まずは。』
「…。」
『…。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【古戦場村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『薬草採取』
村の奥の森に製薬植物が群生しているのだが、近年薬草知識の保持者が連続して病没した為、判別方法が失伝してしまった。
ケアをお願いしたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ウォーカーさん。
まずは謝罪します。」
『村長が謝る事はないですよ。』
「いえ、村長と言っても名ばかりの若僧です。
…兵役から戻って来てみれば祖父を始めとした古老が全員病没しておりました…」
『それで薬草知識が失われてしまったと。』
「笑って下さい。
ウォーカーさん達にセンブリの採取を依頼しながら、肝心の僕はどれがセンブリか分かっていなかったのです。」
眼前の村長は19歳。
帝国との戦争が激化したので徴兵され、帝国と休戦条約が結ばれたので除隊を認められた。
流行り病で村の老人が全滅したことで失われたノウハウを必死に復元しようと悪戦苦闘している。
『それにしても彼らの存在は幸いでしたね。』
「ええ、ウォーカーさんが元果樹職人を紹介してくれたのは天の配剤ですよ。
それで、厚かましいお願いなのですが…」
『はい、彼らに頻繁に古戦場村に立ち寄るよう促しておきます。』
「ありがたいです!」
『そして猪対策も必ず成し遂げますので。』
「頼もしいです!」
『猪に関しては川沿いの村が全て被害に遭ってます。
共同して対策した方が良いかも知れませんね。
多分、一匹一匹個別に対処するよりも、もっと抜本的な対策が必要になると思うので。』
俺がクラーク女史の様子を盗み見ると何か言いたそうな表情だったので発言を促す。
「絶滅危惧種リストというものがあります。」
『「?」』
聞き慣れない言葉に俺と若村長は身を乗り出す。
「動物やモンスターの中には環境変化や乱獲が原因で絶滅する種も少なくはないのです。」
『「…。」』
「グリーンタウンに戻ったら、猪やその近縁種の絶滅事例を調べてみます。
…あまり好ましくない手法ですが、逆算的に害獣を根絶する方法があるかも知れません。
と言うより、あるでしょう。」
「クラークさん、お願いします。」
「村長。
これはお願いなのですが、前金で調査費用を頂けませんでしょうか?」
『クラークさん?』
「テッドさん、私に話させて下さい。」
『…はい。』
「調査費用ですか…」
「今まではテッド・ウォーカー個人が自腹を切る形でモンスター資料を制作しておりました。
今、お見せしているポートフォリオがそれです。」
「ええ、偉業だと思います。」
「図書館の入場料が1日毎に銀貨100枚。」
「…結構高額ですね。」
「まずは川沿いの村々に…」
「僕が100枚払います!」
「…もしも何か希望がありましたら。」
「猪駆除の…
いえ、川沿いのモンスター駆除の拠点をこの村に定めて頂きたい!」
「テッドさん。」
『俺は構いませんが、人が集まって古戦場村にメリットはありますか?』
「冒険者が集まることにメリットがあります!」
『…。』
「僕は若僧なので難しい理屈は分かりません。
他の皆さんのような思慮もありません。
でも、損得くらいは分かりますよ。
テッドさんが居てくれれば村は潤います。
いや、違うな。
貴方は逗留地を決して粗末にしない人だ。」
『分りました。
テントはこの村に張りま…』
「街道沿いの宿屋!」
『え?』
「今は休業中ですが、建物の使用権を差し上げます!」
『いやいやいや。
意味が分かりません。
村で再稼働すれば現金収入になるではありませんか。』
「これは賭けです、それも極めて勝率の高い賭けだ!
テッド・ウォーカーさん。
あの古戦場の宿を差し上げます!
いや、あれは【冒険者の宿】だ!」
『ぼ、冒険者の宿!?』
「はい。」
『それは、どんな宿屋なのですか?』
「分かりません。」
『…。』
「でも、貴方なら有用な使い道を思いつく筈だ。」
『俺は無知無学の農奴です。
思いつかなければ、建物を丸々失うんですよ?』
「いや、仮に思いつかなくても貴方なら思いつく人を探してくれる筈だ!」
『いえ、はい、いえ…
そうですね、俺なら多分そうすると思います。』
「ウォーカーさん。
宿の鍵です。
内装は売り払ってしまいましたが、ベッドはある。
何より街道から馬車で入れる。
悪い話ではない筈です。」
『…分かりました。
謹んで使用させて頂きます。』
「我儘を申し上げて恐縮です。
クラークさん。
猪と薬草の調査、何日掛かりますか?
薬草はイラストでお願いしたい。」
「猪に3日、薬草に3日、予備日に1日。」
「OK!
契約成立です!
古戦場村は調査料として銀貨700枚を冒険者パーティーに支払う。
さあ、確認して下さい。」
『え?
冒険者パーティー?』
「だって、一緒に居られるのはテッドさんの仲間でしょ?」
『あ、はい。
行動を共にする仲間です。』
「テッドさん個人の力量は勿論のこと、その組織力にも頼りたいってことですよ。」
なるほど。
俺に人脈を含めた総合力を発揮せよという牽制か。
流石に19歳で村長職に推されるだけあってクレバーだな。
『はい!
俺達一丸となってご期待に応えます!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【砂金村から受諾中のクエスト】
『モンスター駆除』
一律銀貨一枚で駆除して欲しい。
『モンスター巣穴破壊』
一律銀貨一枚で駆除して欲しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「待って! 待って! 待って!」
『はい?』
「ウォーカー君、今笑顔で会釈してさらっと通り過ぎようとしたでしょ!」
『いやいや誤解ですよ村長。
じゃ、俺達はこれで。』
「待って! 待って下さい!
報酬だよね? 報酬の事で怒ってるんだよね?
我々の間に深刻な行き違いがあるようだ!
話し合おう! 是非歩み寄ろうじゃないか!」
砂金村というのは、その名の通りかつて砂金が獲れた村だ。
その時蓄積した富で国債やグリーンタウンの賃貸物件を保有しているので、川沿いの村の中では例外的に裕福である。
ロビー活動にも長けていて、新領主が赴任する度に気の利いた贈り物で素早く取り入る。
そして自分達だけが減税制度などをこっそり適用して貰えるのだ。
必然、周囲の村落から激しく嫌われている。
『じゃあ、村長。
また遊びに来ますので。』
「そう言って来てくれたことないじゃーん!」
信じ難いことに砂金村の村長が疾走して馬車の荷台に手を掛けてくる。
やむを得ないので、ポーターに馬車を停車させ茶飲み話に付き合うことに。
「テッドちゃーん。
頼むよー。
キミからお仲間に口添えしてくれよ。
彼らは他の村とは親密な癖に、ウチだけ素通りするんだ。」
『いや、彼らにも生活がありますし…
砂金村さんの討伐単価では…
ちょっとペイ出来ないかな、と。
危険作業ですから強要する訳にも行きませんしねえ。』
「えー、リーダーはキミでしょ?
強要出来ないの?」
『リーダーの仕事ってメンバーに得をさせる事であって、損をさせる事ではないですからね。』
「あ、うん。
政治批判は勘弁してね。
巻き添え怖いし。」
『いや、別に王様が悪いとは一言も言ってないですからね。』
「あ、うん。
そういう屁理屈はやめてね。
キミも30過ぎてるんだからホントは理解してるよね?」
砂金村の村長は誠実さの欠片もなく口先だけの男である。
皆はこの男を嫌っているのだが、俺は内心好んでいる。
まあ単価が低いから、このお茶を飲んだら立ち去るのだが。
「待って! 待って!
ビジネスの話をしよう!
損はさせないから!」
『あ、はい。
手短にお願いいます。』
「まず!
私はキミを儲けさせたいと強く願っている!
ほら、身て!
私の目を見て!」
うわー。
俺も人の事は言えないが、性根の腐った目をしてるなー。
小狡い生き方が目に現れてるよなー。
他山の石としよう。
『どうやって儲けさせてくれるんですか?』
「その方法を考えるのはキミに任せる!
願わくば、ウチの村が大儲けしつつキミも儲けるアイデアを出してくれ!」
『前向きに善処します。
じゃ、俺達はこれで。』
「待って待って!」
ヤバいなー。
俺、このオッサンかなり好きだわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【開墾新田村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『人面キノコ駆除』
駆除方法確立の為、討伐依頼は一旦取り下げ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
開墾新田村とは気心が知れている。
ジェフも馬が合うらしく、村のパブで晩酌をする事が多いらしい。
ほら、今も居る。
「おーうテッド。
お疲れー。」
『随分ご機嫌じゃないか、ジェフ。』
笑ってグータッチ。
喉が渇いていたので出されたエールが旨い。
「俺が驚いたのはリコちゃんが司書を辞めたことだな。」
「ふふふ、すみません。」
「そして俺が喜んでいるのはリコちゃんの表情が明るくなった事だ。」
「分かります?」
「ああ、太陽のように可憐だ。」
「ありがとうございます。」
「続きの誉め言葉はテッドに任せる。」
「あら、テッドさんが褒めて下さるんですか?」
『え?
えっとえっと。』
「リコちゃん、歩みは遅いが確実なのが我が相棒の美点だ。」
「はい、のんびりお待ちしております。」
何がおかしいのか皆が笑う。
そしてそんな風に盛り上がっていると村長が遊びに来て、酒食をご馳走してくれる。
うーん、幸せ。
『村長、いつもありがとうございます。』
「ふふふ、親切には裏があるから気をつけなきゃ駄目だよー。」
冗談めかして村長が言う。
目は半分笑ってない。
『酒場の安請け合いには気を付けろでしたね。』
「お!
私の教えをちゃんと覚えているじゃないか。
偉いぞー。」
『ははは。』
「ところでホーンラビットを1匹銀貨2枚で駆除する事は可能かね?」
『ふふっ、教えをちゃんと守るとしましょう。』
「ははは、一本取られたな。
じゃあ、御礼に全モンスターの駆除報酬を砂金村の倍額で依頼するってのはどうだ?」
皆で大爆笑。
勿論、開墾新田村の村長は仕事には極めて誠実な男なので、猪を広域駆除する案には積極的に支援を申し出てくれた。
口だけではなく、駆除積極派の若者を紹介してくれる。
そして部外秘の地図を広げて、クラーク女史がスケッチすることさえ許してくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【中州の村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『大ガラス駆除』
ジェフが無双しているので最近明らかに個体数が減った。
『ヨモギ採取』
無事に必要量が集まったので一旦依頼取り下げ。
大根村との取引を仲介してくれて感謝。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おーう、ウォーカー君。
ヨモギ餅、無事に納品出来たよ。
ありがとね。」
『大根村は近いんだから俺を挟む必要ないでしょ。』
「いやいや、この川沿いの村は昔色々あったから。
水利権とか色々ね。
分かるでしょ、そういうの。」
『まあ、同じ川の水を使っている以上…
利害は相反しがちですよね。』
「今なんか平和なものだよー。
昔なんか毎年死人が出てたからね。」
『…。』
「ここだけの話さ。
キミが間に入ってくれて助かっとるんだ。
摩擦は少なければ少ない程いい。
そうだろ?」
『ええ、まあ、はい。』
「これだけ太い川が流れてるのにさ。
村を繋ぐ水運が存在しないんだ。
もうこれが答えでしょ?」
『…はい。』
「安心して。
共同駆除は賛成。
ただ、仲の悪い村には立ち入らない。
これはプロジェクトに反対している訳ではなく、むしろ成功率を上げたいから。
だから我々はキミの指示に忠実に従う。
キミの指示にはね。」
『…ありがとうございます。』
「ごめんね。
暗い話をしちゃって。
でも、キミが本気で取り組んでいる事を知ってるから、私も齟齬が無いようにこちらの恥を晒した。
分かってるんだよ、我々みたいな田舎村同士の軋轢が他所からどう映っているかなんてさ。
当事者である私達が痛いほど理解している。」
そう。
これは感謝しなければならない事なのだ。
普通は余所者にここまで赤裸々に本音を語らない。
彼らは俺に胸襟を開いてくれているし、その姿勢に俺も応えなければならない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【溜池スライム村から受諾中のクエスト】
『猪駆除』
猪害が収まらない。
早急に対策を求む。
『スライム駆除』
ジェフ無双で絶滅。
依頼完了。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おーう!
フィッシャー君! ウォーカー君!
来たまえ! こっちだ!」
この村は川沿いの村の中でも一番貧しい金欠村である。
ブルータウンが近いので気の利いた者は全員そちらに逃げてしまった。
『おお!
溜池復活してるじゃないですか。』
「フィッシャー君のお陰だよ。」
「いや、村長。
それは違うぜ。
手柄はここに居るテッドとリコちゃんのものさ。
この2人がスライム駆除の道筋を整えた。
俺がやった事は網元かに強請った塩をバラ撒いたことだけさ。」
ジェフは笑って街道に戻って行った。
相変わらず己を誇らぬ男である。
溜池も塩抜きが終わり、田畑への再接続も先日始まった。
溜池村が貧乏ながらも笑顔で溢れているのは、その為である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【ブルータウンから受諾中のクエスト】
『サンドシャーク駆除』
被害甚大。
何とかして欲しい。
『ロングスネーク駆除』
対岸の小島がロングスネークに占領されてしまった。
何とかして欲しい。
『飛びモグラ駆除』
棚田で被害。
街道からかなり離れており不便な立地だが助けて欲しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『網元、御無沙汰しております!』
「おーう、ウォーカー君。
ウチのジェフがいつも世話になってるな。」
ここは網元邸。
かつては遠洋漁業で荒稼ぎしただけあって、敷地は相当広い。
俺達が招かれたのはその中庭。
「さてウォーカー君。
注文通りに作ったぞ。」
『これがフカヒレなんですか?』
「はっはっは。
キミが分からないのなら、私はもっと分からん。
だが、こっちは水産加工のプロだ。
乾燥食品としてなら完璧に仕上げた自信はある。」
当初、ジェフはフカヒレを海岸で干そうとした。
だが網元が制止したのだ。
「直感的にヤバいと思ったんだ。
役人たちは水産物には疎いが、金目の物に対する嗅覚は異常だからな。
この中庭なら、まず見つからない。」
『ええ、丁度死角になってますね。』
網元は無言で全てのフカヒレを俺達に渡す。
そう全て渡したという事は、この先何があっても知らぬ存ぜぬで通すつもりという意味。
『じゃあ、ポーター社長。
クラーク女史の送迎を任せましたよ。』
「ああ任された。
でも、これは本来オメーの仕事だからな。」
『ええ反省してます。』
「どれくらい反省してるんだ?」
『銀貨ごまーい♪』
「全然駄目じゃねーかww」
クラーク女史はグリーンタウンに帰り各種調査を行う。
司書ではなく1利用者としての調査効率は本人にとっても未知数。
クラーク女史を送り届けた後、ポーター社長は古戦場村の冒険者の宿に向かう。
そして厩舎等の設備がどこまで使えるかをチェック。
「テッド、準備はいいか?」
『ああ、いつでもいいぜ。』
リュックにはありったけのフカヒレ。
隣には頼れる相棒。
目指すは国境の向こう。
きっとこれこそが、世間一般の人が思い浮かべる冒険なのだろう。
Lesson22 『営業回りを途絶やすな。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨57枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ
ラー油
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




