Lesson21 『手を汚せ。』
結局、ドブ攫いの依頼は誰も請けなかった。
そりゃあ、そうだろう。
キツい、汚い…
おまけに結構危険なのだ。
『ハアハア。
ホーンラビットよりもデカいじゃないか。』
俺が携帯用棍棒で殴り殺したドブネズミ。
こんなデカいのが棲み付いているなんて説明はなかった。
ポーター社長の顔よりデカいぞ。
なるほどな。
おかしいと思った。
街中の掃除は行政案件である。
公共事業免許を取得する為の足掛かりなので、普通なら余所者に話は回って来ない。
恐らくは巨大ドブネズミの存在を恐れて作業員が集まらなかったのだろう。
なので余所者の俺達にお鉢が回って来た。
「うわー。
ごめんねー、こんなバケモノが棲み付いてるなんて知らなかったよー。」
視察にやって来た役人は知らぬ存ぜぬで押し切るつもりらしいが、明らかに知ってた雰囲気である。
「ウォーカー君だったか。
いやあ、本当にゴメンねー。
でも規則だから銀貨15枚しか払えないんだ。
じゃ、私は帰るから残り時間もお願いね。」
俺が反論する間もなく、役人は鼻を摘まみながら早足で立ち去ってしまった。
やれやれ。
世の中、割の良い仕事なんて中々見つからないよな。
『うおっ!
また出た!』
今度は更に大きなドブネズミ。
酔ってる時のポーターの顔くらいに大きい。
『この! この!』
噛まれそうになったが、何とか棍棒で迎撃。
6発殴ってようやく絶命した。
『ハアハア…
これでは掃除をしに来たのか、戦闘をしに来たのか分からんな…』
全身から汗が滝のように流れていた。
ドブ攫いなんて、ただでさえ苛酷な仕事なのに、30分に1回のペースでモンスターとの戦闘が発生するのだ。
心身共に疲れ果てていた。
『え!?
またエンカウント!?
勘弁してくれよー!!』
結局、勤務終了時間までに12匹の巨大ドブネズミとの戦闘を強いられた。
騎士用の皮手袋を装備していたから何とか無傷で済んだが、普通の清掃用手袋なら酷い目に遭っていただろう。
「えー、ウォーカー君凄いねえ。
こんなに倒したんだ。
流石は冒険者(笑)だ。
キミ、軍隊にでも入れば出世できるのに。」
『あいにく、農奴の生まれでして。』
「ああ、農奴かぁ。
じゃあ駄目だな。」
『よく言われます。』
「じゃ、約束の銀貨15枚。
ちゃんと確認してからサインしてね。
何かあった時に怒られるのは私なんだからさ。」
『…13、14、15。
はい、確認しました15枚です。』
「Good!
いやあ、助かったよ。
人が全然集まらなくてね。」
『…そりゃどうも。』
「でさあ。
物は相談なんだけど。」
『はい?』
役人の相談はシンプル。
明日からもこの仕事を続けて欲しいとのこと。
しかも来週の予算会議の展開次第では日当の減額もあり得るらしい。
『すみません。
俺も忙しいので。』
「だよねー。」
『じゃ、話も終わったみたいなんで…
俺はこれで。』
「あのさあ!」
『はい?』
「これは独り言ね。
あくまで私の独り言ね?」
『はあ。』
「ぶっちゃけ幾らならこの依頼を続けてくれる?
成り手が居なくて困ってるんだよ。」
『いや、そうは仰られましても。
俺も下水事情に詳しい訳ではないので。』
「独り言だから!
あくまで独り言!
だからキミの独り言を聞かせてよ!」
『…今回の依頼ですと、戦闘と掃除という異なる作業を強いられる訳ですよね?
そもそも無理があると思いますよ。
戦闘をこなせるような腕自慢がドブの掃除なんかしたがるとは思いませんし、清掃を生業にするような連中は戦闘が苦手だからモンスター退治は引き受けないでしょう。』
「お!
キミ、今凄くいいことを言った!!
そういうロジックが欲しかったんだよ!
私も苦労してるんだよ!」
役人の表情を見るに、どうやら彼は彼で板挟みになっているようだった。
『俺が発注サイドなら。
まずドブネズミの一掃から始めます。
戦闘要員がドブネズミを完全に駆除し終わってから、清掃の専門家を現場投入。
勿論、戦闘要員への報酬支払は清掃が終わるまでは保留。
清掃中に仕留め損なったドブネズミが湧くごとに報酬を減額していく。』
「おおお!!!!!
いいね、そのアプローチいいよ!」
『ああ、その前に調査から始めた方がいいでしょう。
この巨大ドブネズミって、最近発生したんですよね?』
「うん、先々月まではそんな報告は一切上がってない。」
『じゃあ、先に発生原因を調べるべきですね。
モンスターって原因を取り除かないと、際限なく湧くものなので。』
「おおおおおお!!!
キミ、やっぱり凄いね。
うっわー。
ゴメンね、今まで私はキミの事を【冒険者(笑)】って認識していた。」
『まあ実際問題(笑)ではありますけど。』
「いやいやいやいや!!
プロだわ。
発想がプロだわ。
もう今日から(笑)は付けない事を約束する!」
『そいつはどうも。』
よく分からないが、役人は俺を気に入ったらしく手を何度もパンパン叩いて褒めてくれた。
巨大ドブネズミの死骸をどう処理するかの指示を仰いだが、要領を得なかったので焼却の許可を取らせ、布袋に入れて街の外まで運んで念入りに焼いてから土に埋めた。
全ての作業が終わると深夜だったので、テントを組み立てる気力もなく、岩にもたれて眠った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し後になってから知った事だが、グリーンタウンの住民が様々な依頼を(ちゃんとした価格で)出してくれるようになったのは、このドブ攫いが原因だったらしい。
あの日の俺は疲労困憊であり、周囲を気にする余裕など全く無かった。
だから、俺の作業ぶりを街中の人間が横目で見ていたことなど全然気が付かなかったし、それどころか巨大ドブネズミを焼いて埋める所まで観察されてるなんて思いもよらなかった。
『でもマスター。
俺、1日ドブ攫いをしただけですよ?
それで街からの信用を得たなんて…
あり得るんですか?』
「ふふふ。
謙遜せんでいいよ、ウォーカー。
オマエがドブネズミ巨大化の学術報告書を提出した事は評判になっとる。」
『いや、ですから。
何度も申してますが、あれはクラーク女史の活躍なんですよ。』
「あの美人司書さんの保証人がオマエというのも有名な話だ。
まあ、俺も最初は半信半疑だったが、冒険者って職業はアリだな。」
『ありがとうございます。』
「みんなもさぁ。
最初はオマエらのこと、ゴロツキの集まりだと思ってたんだぜ?」
『ゴロツキは酷いなあ。』
「だって、徒党を組んで棍棒振り回してモンスターと戦ってる訳じゃん?
荒事が苦手な奴から見れば新手のゴロツキ集団みたいなもんじゃん。」
『まあ、俺も乱暴者が苦手だから分かります。』
「それがさ?
汗水垂らして皆の嫌がる仕事をして、学者を雇って研究提言までしてくれた訳じゃない?
みんなの見る目変わったよー。
冒険者ってゴロツキとは違うんだなってさ。」
『へえ、そんなもんすか。』
「結局さぁ。
人が嫌がる仕事を手を汚してやってくれる奴には頭が上がらないんだよ。
だって、そういう奴が居てくれないと社会が回らないもん。」
『…そんなものかも知れませんね。』
「なあ、【冒険者依頼】って村単位じゃないと貼っちゃ駄目なのか?」
『え?
なんで?』
「いや、客達がウォーカーを紹介しろって、うるせーんだよ。
みんな仕事を探してるし、仕事を振りたい社長さんだってウチにはいっぱい来る。
だからウチの酒場でも【冒険者依頼】を貼りたいんだよ。
だって酒場って儲け話が転がってないか探す場所だぜ?」
『あ、いえ。
別に村単位には拘ってません。
たまたま川沿いの村長さん達が先に声を掛けてくれただけなので。』
「え! マジ!?
じゃあ、ウチにも冒険者掲示板を作っていいの?」
『いやいや、冒険者専用の掲示板をわざわざ作らなくても。』
「バカヤロー。
儲け話専用の掲示板にしないとバカな奴が【彼女募集】とか貼っちゃうだろうが。」
『ああ、そういうフシダラなのとは一緒にされたくないですね。』
「よーし、じゃあ余ってる掲示板がカウンターの物入れに…
あったあった!
おいウォーカー!
奥の壁に設置するからそっちを持ってくれ。」
『あ、はい。』
「どっこいしょっと。
じゃあ、デッカく書くぞー。
冒険者掲示板っと。
じゃウォーカー君。
署名頼むわ。」
『え? 署名?』
「いやいや、そりゃあそうだろう。
冒険者はキミの屋号なんだから、キミの許可を得た証拠を書いて貰わなきゃ私が皆から泥棒扱いされてしまうよ。」
『ああ、確かに。』
釈然としないながらも、俺は署名する。
「ふははは!!!
これでウチも冒険者の酒場だ!!」
『何すかそれww』
「男の子っぽくて格好いいじゃんww」
『えー、やってる事はドブ攫いっすよww
下水を這いずり回ってるだけっすww』
「ばか、冒険って言えww
洞窟冒険!!
男心をそそるぞーwww」
『やれやれ。
マスターには敵わないなあ。』
『「あっはっはっはwww」』
それまで猜疑の目で見られていた冒険者稼業であるが。
決して汚い商売ではないと街が認めてくれたのは、俺が手を汚した賜物だった。
もしもビジネスにターニングポイントがあるとすれば、それはきっとあのドブ攫いだったのだろう。
Lesson21 『手を汚せ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨33枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ (未検証)
ラー油 (未検証)
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
ドブネズミ
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。
ご安全に。




