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Lesson19 『己1人の信頼で生きている訳ではないと自覚せよ。』

冒険者カードが正式に刷り上がったので、今まで一緒にやって来た連中に配った。



『ポーター社長、問題を起こさないで下さいね。』



「俺にだけ言うなよーw」



『でも、社長ってやらかすタイプでしょw?』



「バレたかーw」



『あっはっはww』



友達のジェフにこういうのを渡すのは気が引けたが喜んでくれた。



「いや、逆だよ。」



『え?』



「冒険者はオマエの屋号だからな。

他の案件を持ち掛けられた時の対処に困ってたんだ。

実際、幾つかの話を保留してたし。」



『あ、そうだったんだ。

気を遣わせてゴメンな。』



「一々謝るなって。

えっと、じゃあ保留依頼を伝えるぞ。」



『あ、うん。』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【ジェフリー・フィッシャーの保留案件報告】



『ブルータウン』


街の対岸にある小島に数年前からロングスネークが大量発生し使用不能に陥っている。

全てのモンスターを完全駆除し小島を奪還して欲しい。


(成功報酬 銀貨5000枚)



『ブルータウン』


飛びモグラが棚田を荒らしている。

巣ごと破壊して根絶して欲しい。


(1巣 銀貨100枚)



『中州の村』


村の名産であるヨモギ餅の材料のヨモギが不足して困っている。

採集をお願いしたい。



(1㌔銀貨3枚 乾燥粉末状態であれば1㌔銀貨5枚)



『グリーンタウン』


ドブ攫い作業員を紹介して欲しい。


(日当銀貨15枚)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「以上だ。」



『ジェフは凄いな。

こんなに多くの依頼を持って来るなんて。』



「違う違う。

皆の目当てはオマエだ。

俺はオマエへの伝言を頼まれただけ。」



半分は本当かも知れないが、相手がジェフだからこそ相談し易かった者も多い筈だ。

例えば俺はブルータウン特有のDQN漁師のノリが苦手なのだが、そこで生まれたジェフは輪の中心で会話が出来る。

だからブルータウンには、ジェフを通してなら俺に依頼してくれる者がいるのだ。

だって俺はあの街に何度か行ってるが対岸の小島の話なんて初耳だもの。


他にはポーターだな。

ガタイが良く声のデカいポーター社長は職人や肉体労働者から一目置かれやすい。

だから、その界隈の情報は俺がどれだけ調べても分からないのに、ポーターが一般知識として知っている事も多い。

冒険者カードを渡したので、この先ポーター経由で依頼を獲得するケースもあるだろう。


また別格なのがクラーク女史である。

実は先日、学術研究の為の鉱石採取を相談された。

俺にはさっぱり理解出来ないのだが、王都魔法アカデミーが次回の研究発表会で用いるらしい。

ただ半分ボランティアなので単価はあまり良くなく、手弁当となり兼ねないから請けなくても構わないとのこと。

クラーク女史は詳細を教えてくれたのが、俺の頭では何を言っているかすら分からなかった。

言うまでもなく、文盲の俺にこんな依頼が舞い込む訳がない。


要するに、冒険者カードの保証人と言っても俺が一方的に信用を担保している訳ではなく、寧ろ彼らの築いて来た信用のおかげで俺に話が回っているだけなのだ。



「で?

どうする?

俺じゃあ判断が出来ないから保留しているが、返答を急かされてるんだ。

彼らにはどう答えればいい?」



『分かった。

どこまで出来るか分からないけど、依頼は拒否しない。』



「おお!」



『但し、俺達に実行する能力や意欲が無ければ、その依頼は進めないぞ。

例えばロングスネークなんて本来は騎士団が討伐するようなモンスターだからな。

俺の地元じゃ《森の殺し屋》って言われて恐れられていた。

またドブ攫いも声を掛けてはみるが…

みんなが嫌がる仕事だからな…

それを銀貨15枚だろ?

うーーーん、やりたがる奴はいないんじゃないかな?』



「飛びモグラはどうだ?

大根村も依頼してくれてるんだけど、あそこは平地。

ブルータウンの棚田は街道沿いの丘の反対側だからな。

俺は地元だから知ってるけど、行くだけで1日仕事になるぞ。」



『だよな。

俺もその視点は最近まで意識してなかったんだけど。

近場と僻地で全然コスパ違うよな。

俺ならグリーンタウンとミゲル村の間でなら、多少単価の安い仕事でもそんなに苦にならない。

気心知れてるし、いつも用事で通ってるから。』



「だな。

俺はブルータウンの雑用なら楽勝だ。

何せホームだからな。」



だよなー。

誰だって自分の近所なら、そんなに苦にならないのだ。



「あ、じゃあヨモギはどうする?」



『ああ、ヨモギかあ。』



「うん。

薬草採取なんて女子供の仕事だからな。

うっかり引き受けたらオマエの看板に傷が付くんじゃないかと思って保留したんだ。」



『いや、俺はあんまり気にしないよ。

報酬が貰えるなら、それも立派な仕事なんじゃないかな。

ただ、俺も子供の頃ヨモギを集めさせられた事があるんだけど。

1㌔って結構な量だぜ。

銀貨3枚だろ?

俺も野草の配置までは詳しくないし、コスパは良くないなぁ。』



「じゃ、断る?」



『うーーん。

まあ、皆に声を掛けるくらいはしてあげていいんじゃない?』



「OK。

じゃあ、中洲の村を通る時にその旨を伝えておくわ。」



軽くグータッチしてジェフと別れる。

アイツは話が早いから助かるんだよな。

生活圏が隣接しているのも地味に助かるし。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



皆に依存してばかりでは申し訳ないので帰り道に村々を立ち寄って御用聞き。

今までは依頼を請けるばかりだったが、今日からは俺も振ってみることにする。



『大根村にヨモギは生えてませんか?』



「え? ヨモギ?」



『はい、中洲の人達から頼まれて。』



「ああ、アイツら街にヨモギ餅を卸してるからな。

何?

ヨモギくらい幾らでも生えてるだろ。」



『いえ、どうも採り尽くしたっぽいんですよ。』



「そりゃあ、あれだけ量産してたらなあ。

で、ウチの村のヨモギを寄越せって?」



『あ、いえいえ。

㌔銀貨3枚で頼まれたんですよ。』



「オイオーイ。

相変わらずケチな奴らだなあ。

儲けてる癖しやがってよー。」



『まあまあ。

乾燥粉末なら㌔銀貨5枚って仰ってますし。』



「それ、割に合わないぞ?

アイツら薄利多売が染みついてるからな…

アホだよなー。」



『まあまあ。

同じ川沿いの仲間じゃないですか。』



「欲が無いのはウォーカー君の美点なんだけどさ。

良いように使われてちゃ駄目だよー?

最近は色んな連中の保証人になってるみたいじゃない。」



『恐縮です。』



「それと瑪瑙だっけ?

あんなモン何に使うの?」



『いえ、実は俺もよく分らないんですけど。

王都の魔法アカデミーの人が国中の瑪瑙を集めて勉強会をするみたいで。

まあ、こっちも報酬が低いので無理しなくていいですよ。』



「ばか、逆だよ!」



『え?』



「国家とか学術とか、そういう依頼は無理をしてでも請けなさい。」



『やっぱり請けた方がいいですか?』



「若者に厳しい言い方をしたくないが、ウォーカー君は開業したてなんだろ?

しかも冒険者って業種自体がキミの思い付きじゃないか。

なら、もっと真面目に信頼を築いて行かなきゃ駄目だ。

多少あざとく思われても、偉い人からの依頼は積極的に請けなさい。

もしも成功したら、王都の魔法アカデミーに納入実績があるって言えるだろ?」



『ですよねー。』



「瑪瑙だな?

どれくらい必要?」



『1㌔あれば恰好が付くそうなのです。

但し銀貨10枚しか報酬は払えないと。』



「いやいや先に言えよ。

その程度なら何とでもなるわ。」



『え?

そうなんですか?』



「あのなあ、私は村長だぞ?

この大根村の住人のことなら、誰がどんな生業をしていて、どんな趣味を持ってるかを把握している。

石集めならヨハンだな。

私とは相婿に当たる男で気心も知れている。

今なら戻ってる筈だ、行くぞ。」



『あ、はい。』



トントン拍子で話が進み、奇石集めが趣味のヨハン宅(村長邸の真向かい)を訪れる。



「おーう、ヨハンすまないな。」



「おーう、隣に居るのは冒険者クンじゃねーか。」



「うん、彼がな。

瑪瑙を買いたいって言ってるんだ。」



「はははw

物好きも居るもんだなーww」



「オマエ、ガキの頃から集めてただろ。

売ってやってくれ。」



「え? マジにカネくれるの?」



『ヨハンさん、スミマセン。

先方は銀貨10枚と仰っておられまして。』



「10枚かあ、地味にショボいな。」



『申し訳ないです。

何せアカデミーの案件でして。

地域によっては学者さんが無償で集めているケースも多いんですよ。』



「え!? マジ!?

アカデミー?

その話聞かせてよ!!

面白い面白い!

ちょっと待って、物置に瑪瑙あるからキミもおいでよ!」



アカデミーという単語を聞いてヨハンにスイッチが入ったのか、満面の笑みでコレクションを披露して貰えた。

田舎村の奇人趣味と期待していなかったが、丁寧に仕分けされていて鉱石に興味のない俺でも見ていて楽しかった。



「ほら、この川で採れた瑪瑙だ。

1㌔でいいのか?」



『はい、1㌔ジャストで王都に送るそうなので。』



「ふーん。

じゃあ、やるよ。」



『あ、じゃあ銀貨10枚払います。』



「え?」



『はい?』



「あ、ゴメン。

こんな事を聞いていいのか分からないんだけど。

依頼額って幾らよ?」



『え?

ですから銀貨10枚で頼まれました。』



「あ、いやいや。

本当の額は幾ら?」



『いえ、本当も何も俺は銀貨10枚としか聞かされてないので。』



「いやいやいや!

キミ本当に商売人かー?」



『そうは仰られましても…』



「仮に本当に銀貨10枚の案件だったとしたら、キミは運び損になっちゃうじゃない。」



『まあ、グリーンタウンに戻るついでですし。

損とか得とかは…』



「駄目駄目駄目。

えー、何言ってるの。

ちゃんと中抜きしてくれなきゃ困るよー。」



『え? 何でヨハンさんが困るんですか?』



「いやいやいや、俺がキミをタダ働きさせた事になっちゃうじゃない。

この石にしたって拾い物だから原価は掛かってないしさ。

俺が村の中で悪者になっちゃうよー。」



『あ、スミマセン。

そこまで気が回らずに。』



「じゃあ、今決めて。」



『え?』



「キミのマージン率だよ。

ちゃんと徴収してくれないと俺の評判が下がる。

いや、村全体の信用問題だ。

大根村は若者をタダ働きさせる村だなんて悪評が立ったら収穫期の求人に支障が出ちゃうでしょ?」



『た、確かに。』



「じゃあ、何割?」



『え、えっと。

1割にします。

銀貨10枚の中から1枚だけ下さい。

残りの9枚を支払います。』



「オイオイオイ。

ガキの使いじゃないんだからさあ。

1割って低すぎだろ?

え? 何で1割?

そんな低マージンは聞いたことがないよー?」



『あ、俺は全くの無学なんです。

細かい計算は全然ダメで。

折半か1割なら辛うじて理解出来るんですけど。』



「じゃあ駄目元で折半って言いなよ。」



『いや、幾らなんでもそんな暴利は人間として許されないでしょ。』



「うん。

同感だけど政治批判ととられかねない発言は(両人差し指でバッテン」



『あ、スミマセン。』



「キミもいい歳なんだから、年貢率六公四民の国で生きてる自覚を持とうな。」



『はい。』



そんな流れで俺のマージン率は1割と決まった。

まあ皆に迷惑が掛からなきゃ何でもいいよ。



『村長、ヨハンさん。

もし差し支えなければ、大根村の人でヨモギ集めを請け負ってくれる人を探して下さい。』



「いや差支えも何も、案件を振ってくれるのは助かるよ。

だって村の現金収入を考えるのが私の仕事なんだからな。」



『後、グリーンタウンでドブ攫いの求人があるんですけど。

それは流石に嫌ですよね?』



「幾ら?」



『日当銀貨15枚です。』



「相変わらずシケた行政だよなー。」



『スミマセン。』



「それに15枚だとキミへの支払いどうするんだ?

銅貨を混ぜてもいいのか? 困るのか?」



『あ、いや。

そこまでは…

じゃあもうその場合は銀貨1枚だけでいいですよ。』



「うーーん。

それは逆にいい加減な人間だと思われて信用なくすぞー。」



『スミマセン。』



「まあ、そういう細かい点もきっちり考えなさい。

それも含めて商売だから。」



『御教示ありがとうございます。』



「今日は小言ばっかり言って済まなかったな。」



『いえ、勉強になりました。』



「ただ。」



『はい?』



「キミが搾取的な手口を使わない人物だと理解出来たよ。

なあヨハンもそう思うだろ。」



「おう、こっちが心配になるくらいの男だ。」



「ウォーカー君の持って来た案件なら、安心して村の連中に紹介出来る。

そうだ、村の掲示板にヨモギの件を貼っておいてあげるよ。」



『え?

いいんですか?』



「だってキミのおかげで、銀貨9枚ものキャッシュが村に入ってきたんだよ?

村長としては末永くお付き合いしたいじゃない。」



『ありがとうございます!』



「じゃあ、善は急げだ。

忘れないうちに木札に書いておくか。

えっとタイトルは…

冒険者(クエスト)依頼】

になるのかな。」



冒険者(クエスト)依頼ですか?』



「だってキミが募集してるんだろ?」



『あ、はい。』



「えっと、生ヨモギが㌔銀貨3枚。

乾燥ヨモギは幾らだった?」



『銀貨5枚です!』



「しょっぼいなー。

乾燥ヨモギは㌔銀貨5枚っと。

まあ、カネが欲しい奴なんて幾らでも居るし、誰かが請けるんじゃない?」



『何から何まで…』



「恐縮する必要はないって。

じゃあ、今度からはもっと気軽に村長邸に来なさい。

キミの冒険者仕事に興味のある村民が居ないか探しておいてあげるから。」



『ありがとうございます!』




俺は無学の流れ者だ。

力も弱く頭も悪い。

そんな俺がどれだけ声高に叫んでも、ちゃんとした仕事は回って来ない。

でも、信頼されている人達が俺を信じてくれれば?

俺の器以上の依頼を託してくれるのだ。


握り締めた1枚の銀貨。

これを自分の力で稼いだ等と思い上がってはならない。


クラーク女史の経歴、大根村村長の紹介、ヨハンの好意。

それらの恩恵によって与えられた銀貨なのだ。


無力な俺には、まだ何の報恩も出来ないが…

精一杯真面目にこの冒険者稼業に取り組もう。

そして、他の皆からも信頼して貰える為に進もう。


それが俺の冒険なのだ。




Lesson19 『己1人の信頼で生きている訳ではないと自覚せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨23枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ (未検証)

ラー油  (未検証)



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒



【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。

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