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Lesson1 『自分を安売りするな。』

俺の名前はテッド・ウォーカー。

職業は単純労働者だ。

職場から職場へ、飯場から飯場を渡り歩いて食い繋いでいる。

口の悪い者は、俺を浮浪者と嘲笑する。


生まれは農奴。

国籍は一応王国人だが、国家から人間と見做されているかは極めて怪しい。

先々月から軍の荷運び要員として働いている。

給料は安く、契約外労働は多い。


ん?

契約外労働の意味が分からない?

うん、俺も最初は分からなかった。



「おーい、労務者クン。

ちょと来たまえ」



『お呼びですか、大佐。』



「予定より早いのだがね。

本日はここに布陣する事になった。」



『はい。』



「いつもの様に臨機応変に頼むよ。」



『…はい。』



大佐の言う【臨機応変】とはテント組み立ての事である。

勿論、これは兵士達の仕事である。

と言うより、防諜上の観点からテントの組み立てを民間人に委ねる事は軍規で禁止されている。

昔はもっと厳格だったらしいが、最近は軍規が緩んでいる。

その緩みのシワ寄せは俺の様な立場の弱い労働者に回って来るのだ。

つまり、これが今やらされている契約外労働。



「労務者クン。

随分手際が良くなったねえ。

キミ、案外軍人に向いてるかもねえ。」



『ありがとうございます。』



「後、何分くらいで組み上がりそう?」



『そうですね。

5分もあれば。』



「おお!

優秀優秀。

新兵共に見習わせたいねえ。」



農奴の子である俺は正規兵になる事が出来ない。

まるで正規兵のように最前線まで連れて行かれるのだが、給料は大佐殿の1割も貰えない。



『組み上がりました。』



「おお、見事だ。

いや、煽てている訳じゃないんだよ。

特にロープの張り方がどっしりしていて安定感あるねえ。」



『ありがとうございます。』



「それだけに残念だよ。」



『はい?』



「部隊の外注予算が削減されてしまってね。」



『ッ!?』



「いやあ、これ有名な話なんだけどさw

ほら、第七王子が第三夫人に熱をあげてるじゃない。

一緒に住む為の屋敷を新築するって噂。

あれ本当だったみたいだ。

その所為でアチコチの予算が削られちゃってさぁ。

とうとうウチの部隊にもシワ寄せが来ちゃった。」



『…つまり。』



「うむ。

つまり、労務者クン。

キミはクビだ。

暗くなる前に陣地を退去しなさい。」



『ここで放り出されるという訳ですか?』



「おいおいww

放り出すなんて人聞きが悪いなぁww

立場が違えど我々は同じ釜の飯を食った仲間じゃないかww」



無論、大佐の言葉は嘘である。

同じ釜の飯なんて食わせて貰った事はない。



「まあ、あれだ。

しばらく歩けばグリーンタウンには辿り着けるだろう。

途中、帝国領を通る羽目になるかもだが…

まあ臨機応変になんとか凌いでくれたまえ。」



『…分かりました。

では本日までの給料を支給して下さい。』



「言わなかったかな?

予算が削減されてしまってね。」



『…。』



「じゃ、そういう事だ。

キミとの旅は楽しかったよ。

縁があったらまた逢おう。」



『未払い給与の支払いを要求します。』



「はっはっは。

良い面構えだなー。

新兵共に見習わせたいわww

いやあ、最近の若者にもキミくらいの気概があればいいんだけどねww」



『…。』



「これはキミが一番理解している事だと思うが…

あまり騒がない方がいい。

ほら、軍隊ってムラ社会だろ?

民間人が思っている以上に情報共有が早いんだ。


…労務者の勤務評定とかね?」



『それは、今月分の給与は頂けないという事でしょうか?』



「今月分だけの取りっぱぐれで済ませてやりたいという私の親心が伝わると嬉しいなぁ。」



『…。』



「…。」



今に始まったことじゃない。

労務者なんて気分で解雇される存在だからだ。

現に、この部隊の募集に応じたのは5名だったが、残っているのは俺1人だからな。

(5人分の仕事をやらされてるんだよ、一々言わせるな。)



「分かった。

流石に無一文で解雇されるのはキミも納得出来ないだろう。

規則とは言え私も心苦しい。

なので、私財から支援金を供出しよう。」



意外にも大佐は貴重品箱から大きな銭袋を取り出すと俺に手渡した。



『お、重っ。』



ずっしり思い銭袋に喜び掛けるも、感触が不自然だったので中身を覗いてみる。

中に入っていたのは銀貨でなければ銅貨ですらなく。



『鉄貨ではありませんか!』



「ほら、先週ゴブリンの集落を討伐しただろう?

その戦利品だよ。

いやー、あんな野蛮種族でも通貨を使うなんて。

文献では知っていたが、目の当たりにすると衝撃だよねー。」



『こんな物を貰ってどうしろと!!』



「無論、受け取りを強制はしない。

不要なら置いて行きなさい。

遠征が終わったら懇意の骨董屋にでも買い取らせるつもりだった。」



『…。』



「…。」



『退去手続に移ります。』



「いやあ、物分かりが良くて助かったよ。

お互いにとってねw」



話はそれで終わり。

結局、最後の週はタダ働きをさせられた上に、その場で従軍許可証を没収されて追い出された。

去り際、補給部隊の馬車が10台ほど野営地に入って行くのが見えたので、或いは交代要員が増員されたから俺が解雇されたのかも知れなかった。



非正規労働者が未払い分を踏み倒されてクビになった。

相手は軍隊。

泣き寝入りするしかなかった。

ただそれだけのよくある話だ。

少なくとも俺の人生にとっては。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



国境際での解雇だったので帰路が大変だった。

紛争地帯やモンスター注意報が出ている土地を避けて帰るには、帝国領や共和国領を通らざるを得なかったからだ。

特に休戦中とはいえ帝国領を通る時は本当に怖かった。

途中、帝国の猟師と鉢合わせてしまい一触即発ムードになった時は流石に死を覚悟した。



『職場をクビになったから、泣く泣くこの森を通ってるんです。』



「そいつは奇遇だな。

俺も似た様な立場さ。」



聞けば猟師は元々帝国軍の下級兵士であり戦意も愛国心も十分だったが、早期除隊させられたとのこと。



『何かあったんですか?』



「アンタらの王様が休戦条約に署名しちまったのさ。」



猟師は寂しそうな目で溜息を吐いた。

日も沈みかけていたので、2人で小さな湖に向かって釣りをした。

たかが魚釣りでも王国式と帝国式では全然やり方が違っており、随分驚かされた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



猟師と別れ、ドワーフやゴブリンの支配地の端を通り抜け、国境の街・グリーンタウンに辿り着いた頃には、2週間が過ぎていた。

髭も剃らず水浴びも出来なかったので、我ながら随分汚らしい風体になってしまっていた。



『さて、ようやく街に着いたか。

まずは宿を探すか…』



そう呟いてから手持ちが殆ど無い事に気づいたので、なけなしの銀貨2枚で最低限の安宿を借り井戸で身を清める。

(カネがあれば銀貨5枚を払って個室宿に泊まれたのだが、俺にとっては夢のまた夢である。)

疲れていたのか8人部屋で泥の様に眠った。



『さて、問題は今日からだな。

まずは次の仕事を探す為のカネを稼がなくては。』



本当に酷い話だよな。

カネを稼ぐのにもカネが掛かるんだから。



『チェックアウトします。』



フロントに靴を返して貰って早朝に街に出る。

日払いでいいので仕事を見つけないと今夜も野宿する羽目になるからな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



グリーンタウンを歩き回り辻募集を探す。

俺が出来る仕事は、せいぜい荷運びくらいのものなので、荷運び仕事を探す。



「募集ー! 募集ー!

荷運び労働者、誰か居ないかー!」



馬車の側に立っている男が大声で労務者達に声を掛けているが、冷ややかに無視されていた。

どうやら人遣いが荒い上にケチな事で有名な零細商会らしい。



「おっ!

そこの兄さん!

荷運びって単語に反応したね?

雰囲気からして経験者だろ?

どう?

ウチで荒稼ぎしていかない?」



『賃金幾らですか?』



「ん?

賃金?

ふふふ。

ウチの賃金はねー?」



言いながら男は俺の身なりをジロジロ観察している。



「銀貨5枚!」



『え?』



一般的に荷運び仕事の相場は新入りでも銀貨10枚が相場である。



『いや、最低でも10枚が相場でしょ?』



「ふふふー。」



男は俺の身なりを再度観察しながらニヤニヤ笑っている。

そう、文字通り足元を見ているのだ。

俺のような流れ者はその日の飯代にも困っているケースが多い。

(今の俺がまさしくそうだ)

なので、法外に安い賃金でも泣く泣く同意せざるを得ないのだ。



『…背に腹は。』



「(ニヤニヤ)。」



一瞬、妥協し掛けた。

だが、思い直す。

別に俺に気骨がある訳じゃない。

妥協させられる事にもう疲れたのだ。



『ふーーー。』



「どうする?

こっちはアンタじゃなくても別に構わないんだけど?」



俺は心の中で静かに拳を握り締めた。



『生憎、カネには困ってないんだ。』



「ははは、強がりなさんな。

その風体で無理があり過ぎるぜww

ってかアンタ、浮浪者だろww」



『浮浪者?

それは違うな。』



「?」



俺は大佐から貰った銭袋を取り出してジャラジャラ鳴らした。



『俺は冒険者だ。』



「え?

ぼ、ぼう…?

何?」



『冒険者。』



「え?

それ、仕事?」



『ああ、仕事さ。

俺はちょっと出張しているだけのつもりなんだが、クライアントから見ると冒険しているように見えるみたいでさあ。

いつの間にか【冒険者】って商売として認識されてたよ。

面倒だから今はそう名乗ってる。

冒険者にはあらゆる依頼が舞い込むからな。

モンスター退治や稀少植物採取、犯罪者追捕や国境監視を請け負っている。』



「え?え?え?

そんなに凄い人だったの?」



『身なりが汚いのは国境監視業務から帰ったばかりだからだ。』



「こ、国境!?」



『おいおい声が大きいよ。

ゴブリンやら帝国やらの動向をチェックする仕事が無い訳がないだろ。』



「いやいや、そういうのって軍人さんの仕事だろう。」



『だから。

帝国さんとの休戦協定が結ばれたばかりなのに、軍は動かせないだろう。

俺なら万が一捕まってもトカゲの尻尾切り出来るしな。』



「な、なるほど。

確かに。」



『そういう訳だ。

金持ちぶる気はないが、カネや仕事には窮していない。』



俺は再度、銭袋をジャラジャラ鳴らす。

男が茫然とした表情になったので、話が終わった物だと思い背を翻した。



「アンタ!

いや、冒険者さん!

ちょっと待ってくれよ!」



『?』



男が御者台から俺に手を伸ばしていた。

その顔は先程までの値踏みする意地悪なものではく、プロに対して仕事を依頼する事業者の顔だった。

仕事が終わったのは15時過ぎ、俺は20枚の銀貨を日当として受け取った。



俺の名前はテッド・ウォーカー。

浮浪者なんかじゃない、冒険者だ。





Lesson1 『自分を安売りするな。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨17枚




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


本作を見つけて下さり感謝しております。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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