Lesson18 『背伸びをしてでも体裁を整えろ。』
レッドタウンから帰った俺はグリーンタウンの酒場を全て回る。
『今日レッドタウンから帰って来たんです。』
そう言うだけで、皆が色々と話を聞きたがった。
商売人は街の景気を、農夫は田畑の成育を、御者は道路事情を、それぞれ知りたがった。
当たり前だが、誰もが自分の業界の情報を少しでも知りたがっていた。
まだ上手く言語化出来ないのだが、冒険者という職業の本質が見えてきた気がする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ただ、垣間見えているのは本質だけであって、現実はさっぱり見えていない。
『いや、だから上納金とか言われても困りますよ。
その代金は皆さんが討伐に成功した報酬なんですよね?
普通に皆さんで分配すれば良いのではないですか?』
「レイモンド社の時は受け取ってくれたじゃないですか。」
『いやいや、あの時は俺も仕事に参加しましたから。
でも、今回のホーンラビット退治は完全な初耳ですし…』
「いやいやいや。
その駆除方法を見つけたのがウォーカーさんじゃないですか。」
『いえ、見つけたのはクラーク女史です。』
『うーん。
難しい人だなぁ。』
果樹職人達は余程モンスター退治を気に入ったのか、本業よりも討伐に軸足を移したいようだ。
ただ、発注者である川沿いの村々は、《大きな案件はテッド・ウォーカーを通したい》と主張して、果樹職人達に額の大きな依頼を回してくれないとのこと。
「…正直に言いますね。
村人はウォーカーさんに依頼しているんであって、俺達はその使い走り程度にしか思われてないです。
だから事あるごとに、《ウォーカーさんに話は通ってるのか?》って尋ねられて…
特にミゲル村と馬借村は俺達じゃ話も聞いてくれないんですよ。」
『うーん、分かりませんね。
能力的には山を歩ける分、皆さんの方が俺なんかより上でしょうに。』
「いやー、やっぱり村落に入って行こうと思ったら信頼ありきですよ。
それに何より、ウォーカーさんは【冒険者】ですから。
やっぱりインパクト凄いみたいで。」
『あー、確かに皆から言われます。
【冒険者】って響きが如何にも百戦錬磨っぽく聞こえるみたいで。』
「だから俺達も冒険者のウォーカーさんの派閥に入ってる事をPRしたいんです。
上納金払いますんで、下に付かせて貰えませんか?
このチャンスをモノにしたいんですよ!」
気持ちは分かる。
彼ら果樹職人は大規模果樹園を渡り歩いて造成や収穫業務に従事する。
様々な現場を経験したベテランと言えば聞こえはいいが、様々な雇用主の元を渡り歩くので立場が非常に不安定だ。
(しかも果物はコモディティなので労働単価も安い。)
同じ不安定なら、モンスター駆除の方が暴れられる分楽しい。
しかも果樹職人は雇用主の果樹園でしか働けない。
つまり他の仕事同様、相手が気に入らない雇用主でも契約期間中はその場所に拘束される。
その点、駆除は良い。
馬の合わない依頼主の仕事は後回しにして、自分達を大事にしてくれる依頼主の仕事を優先出来る。
そう、この業務には自由があるのだ。
「最初は…
モンスター退治なんて怖かったんですけど。
駆除に成功すれば敬意を払われますからね。
やっぱり俺達も男ですし、強さを称えられるのは気分がいいですよ。
別に果樹が嫌いになった訳でもないんですけど…
多少収入が落ちてもこの仕事をさせて欲しいんです。」
『わ、分かりました。
じゃあ、各村に俺も同行して、皆さんが仲間であると証言します。』
「おお!
わざわざありがとうございます!!」
そんな遣り取りがあったので、手近な馬借村に果樹職人達を連れて挨拶に向かった。
「うーーーーん。
まあ、ウォーカー君が言うなら…
うん、後ろの人達に案件を振っても構わないよ。」
『ありがとうございます、村長!』
「ただね!」
『え?』
「こういう言い方はしたくないんだけど。
ウォーカー君、一筆書いてくれないか?」
『え?
一筆と申しますと?』
「…うーん。
まあ、監督責任というか、保証人というか…
分かるでしょ、私の言いたいこと。」
『まあ、何となくは。』
「普通は余所者に駆除なんて頼まないよ。
だって知らない奴が村の敷地に入って来るって怖いじゃない?」
『ええ、仰る通りです。』
「私がウォーカー君に依頼したのはね?
君が冒険者という稼業を起ち上げて、街の学者さんまで雇って頑張ってるからなんだ。
ミゲルの奴も君を猛プッシュしてるしね。
言わば君個人への応援の意味で依頼したんだ。」
『ありがとうございます!』
「そういう関係性に基づいた依頼だったのにね?
別の人達が来るって、それはこちらとしても想定外かなぁ?
私の言ってること、間違ってる?」
『あ、いえ。
仰る通りです。』
「まあ、荷運び経験の長い君はよく知ってると思うけど…
私達馬借衆は信用商売だから。
何せお客様の荷物を運ばせて頂く訳だからね。」
『ええ。』
「新人を仕事に加える時は、必ず発注元に連れて行って挨拶をさせる。
それで保証人として署名させられる。
要は新人がヘマや悪さをしないように監督する義務を負わされるんだ。」
『はい。』
「いや、ウォーカー君のことは信用しているし、後ろの人達も誠実なタイプである事は理解してるんだ。
ただモンスター駆除となると、村の敷地に入る訳だからね。
私達が扱っている馬が非常に高価な事は説明する必要はないよね?」
『署名します!』
「ゴメンね。
若い人相手にクドクドと。
じゃあ、申し訳ないけど身元保証書の書式は運送業のフォーマットで構わないかな?」
『あ、異存はないのですが…
俺は読み書きが出来ないんです。』
「え?
嘘ォ!?」
『以前にも少し話ましたが、農奴の生まれでして…』
「ああ、ゴメンね。
知らないこととは言え…
何か失礼な発言をしていたら許してね。」
『いえいえ、村長にはよくして頂いております。』
「参ったな…
読み書きが出来ない人を保証人にさせるのは法律で禁止されているからねえ。」
『そんな法律あるんですか?』
「あるよ。
規制しなきゃ、悪い奴が騙すでしょ。」
『分ります。
俺も親父も何度かやられました。』
「えー?
それじゃあますます強要出来ないな。」
『あの、1つ疑問なんですが。』
「ん?」
『読み書きが出来ない親方ってたまに居るじゃないですか?』
「あー、建設とかそっち方面には居るねえ。」
『彼らはどうやって従業員の身元保証をしてるんですか?』
「ん?
いや社員証みたいなカードを発行して従業員に携帯させてるよ。」
『あ、現場で何度かそれっぽいのを見た事があります。』
「うん、多分それだよ。
鳶職人カードとか、左官カードとか…
職業名のカードがあるんだよ。
持たされる側は一々提示させられるから面倒だって嫌がるけどね。
昔は馬借も学が無かったから、100年くらい前までは馬借カードってあったらしいけどね。」
『へー。
世の中色々あるんですねえ。』
「うん、この村長室にも保管されたと思うよ。
えーっと、確かこの本棚に…
お、あったあった。
見なさいウォーカー君。」
『本当だ。
この字知ってるー。
うまー。』
「…カードの表には従業員の氏名と出身地。」
『へー。』
「そして裏には、保証人の署名だね。
今回の場合だとキミだ。
従業員が何かやらかした場合は…
キミが責任を問われる。」
『そうあるべきだと思っております。
トップは発生した問題すべての責任を負わなくてはならない。』
「GOOD。
素晴らしい考え方だと思う。
じゃあ申し訳ないけど、職業カード形式でお願いしていい?
但し、カードを作ってくれたら、私も誠実に発注するから。」
『はい!
早速グリーンタウンに戻ってカードを作ってみます。』
「うん。
じゃあ、冒険者カードの作成を待っているよ。」
『ぼ、冒険者カードですか?』
「ははは、そりゃあそうだよ。
冒険者のキミが署名人になるんだから。」
『…冒険者カード』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
グリーンタウンまでの道のり、果樹職人達に詫びる。
『ごめんさないね。
俺が読み書きさえ出来たら、わざわざカードなんか携帯せずに済んだのに。』
「いや、逆ですよ。」
『え?』
「カードって形で貰えた方が嬉しいです!」
『え?
そういうものなの?』
「だって駆除請負なんて、よく分からないビジネスじゃないですか?」
『まあ、確かに。
ぶっちゃけ猟師のなり損ないみたいなモノだよね。』
「でも、カードがあれば…
何かプロっぽいです!!
俺達もウォーカーさんみたいになれる気がします!」
『ははは、俺なんか目指してどうするんですか。』
「だってウォーカーさん本格的ですもん!」
『え?
そうかな?
つい最近ですよ。
この稼業を始めたのは。』
「いやいや!
その皮手袋とか、どう見ても騎士様が使うレベルですよ!
一体幾らするんですか?」
『え?
銀貨200枚です。』
「うわーーー!!!
プロだああ!!!!!」
『いやいや、凄いのは手袋であって俺ではないので。』
「そのセリフがプロっぽい!!!」
『…どうしろと。』
俺は英雄でも豪傑でもないのだが、背伸びして英雄や豪傑が用いるランクの装備を入手した。
傍から見れば、俺もその端くれに映るようになったらしい。
念を押しておくが、俺は何の取り柄も無い男だ。
農奴の子に生まれて学も力もない。
そんな俺でも立派な手袋を着け始めてから、世間は多少の加点をしてくれるようになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カードの作成人は大学卒業者でなければならないと法律で決まっているので、図書館の外門でクラーク女史の退勤を待つ。
小一時間ベンチに掛けていると、背筋を伸ばして扉から出てくる女史と目が合う。
相変わらず怒ったような安堵したような表情。
「あら、テッドさんご無沙汰しております。」
何だか言葉に棘がある。
『あ、どうも。
こんにちは。
今日は仕事を依頼したくて参りました。』
「あらぁ。
相変わらず仕事熱心ですのね。」
どうやら俺に対して怒っている事は分かるのだが、何をどう怒ってるのかは想像が付かない。
何せ女に縁のない人生だったからな。
『えっと、身元保証カードぉ…』
「あら、御商売を大きくされますの?」
『ええ、クラークさんのお陰で。』
その言葉を聞いた女史は一度だけ大きな溜息を吐く。
「一応説明しておきますが、身元保証カードは契約書に準ずるものです。
法的拘束力がありますから、みだりに人に渡してはなりませんよ。」
『あ、はい。
御忠告ありがとうございます。』
「丁度明日は私の休日ですので、役場で正式なフォーマットを作って参ります。
なので雛形をここで作成してしまいましょう。」
『あ、助かります。
お願いします。』
「くどいようですが、カードの持ち主が罪を犯したらテッドさんにペナルティが行きますからね。
カードは問題の無い相手にだけ渡して下さい。
特に最初の1枚は最も信頼している方に渡される事を推奨します。」
『あ、じゃあクラークさんで。』
「え?」
『え?』
冒険者カードはそんな経緯で生まれた。
おかげで果樹職人達は前より幅広い駆除依頼を請けれるようになった。
上手くは言えないが、こんなペラ紙1枚でも、形にして渡した事で結束の源泉になった気がする。
俺は前から果樹職人達を十分信用していたし大切に思っていたのだが、テッド・ウォーカーの署名の入ったカードを渡す事によりしっかりと伝わったらしい。
まあ、喜んでくれたようで何よりだ。
村々の待遇も少し良くなった。
上手く言えないが、単なる酔狂人ではなく職業人として扱って貰う機会が増えた気がする。
クラーク女史の機嫌が直れば尚良かったのだが、カードを渡してからの女史は更に俺にだけ怒るようになった。
俺は冒険者を名乗ってる癖に知らない事があまりに多いし、女のことはさっぱり分からない。
Lesson18 『背伸びをしてでも体裁を整えろ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨2枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ (未検証)
ラー油 (未検証)
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
【仲間】
リコ・クラーク (司書)
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。




