Lesson17 『情報の売買を絶対に怠るな。』
さて、俺はグリーンタウンから内陸に進んだ工業都市のレッドタウンに来ている。
ポーター社長が、この街への配達を請け負ったので便乗してきたのだ。
「なあ、ウォーカーよ。
本当なら、こんな案件は絶対に請けないんだぜ。」
『ええ、我儘を聞いて下さって感謝しております。』
商会は旨味のある大口仕事は独占するのだが、手間だけ多くて儲からない小口仕事に関しては、ポーターの様な零細業者に横流しする。
ただでさえ低単価な仕事から更に商会が中抜きするので全く旨味の無い仕事となってしまう。
だが仕事のない零細運送業者は振られた仕事を泣く泣く請けざるを得ないのが現状。
「まあ、オマエが銀貨を300枚もくれると言ってくれたからな。
仕事を請ける事にしただけの話よ。」
『まあ、のんびり行きましょう。』
俺が自腹を切ってまでポーターにレッドタウン案件を受注させた理由はシンプル。
少しでも多くの街を見聞しておきたかったからだ。
【冒険者】を名乗っている以上、一般人より広い知見を持っていないと看板倒れになってしまうからな。
機会があるのなら、積極的に地図を埋めなくてはならない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はーい、到着ゥー。」
『お疲れ様でーす。』
「後出しで申し訳ないが、配達手伝ってくれるんだよな?」
『えー、本当に後出しだなー。』
「まあまあ、ちゃんと賃金払ってやるから。」
『幾らっすか?』
「銀貨ごまーいww」
『だから人が集まらないんですよーww』
「『はっはっはww』」
本当は自由時間に移行したかったのだが、ポーターがうるさいので一緒に荷物を運ぶ。
顧客は鍛冶屋だったので、金床とか小炉などの想像しただけで悪寒が走るような重量物を運ばされる。
(これで銀貨5枚とか悪夢にも程があるだろ)
「おーう、ご苦労さん。」
『ハアハア、どもです。』
作業が終わると依頼人の鍛冶親方が冷茶を振舞ってくれた。
ふー、生き返る。
「すまんなー。
武器職人の工房なんて重量物ばっかりだっただろ?」
『いえいえ、いい勉強になります。』
そうか鍛冶屋の中でも武器専門か…
どうりで荷物が重かった訳だ。
「なあ、兄ちゃん達。
グリーンタウンの景気はどうだい?」
『え?
景気と申しますと?』
「いやいや、鍛冶屋が知りたいのは他の街の鍛冶屋が儲かってるかどうかさ。」
『あー、すみません。
そこまで意識した事は無かったです。』
「ふーん。
なーんだ、折角他所の街の奴と話す機会だったのに…
がっかりだぜ。」
親方はつまらなさそうな表情で長椅子に身体を沈めてしまった。
どうやら、かなりの期待外れだったらしく、以降は俺がどんな話題を振っても上の空だった。
仕方ないので一礼して工房を後にする。
「え? そんな事言われたのか?
まあ、気にすんな。
鍛冶屋なんて偏屈者の集まりなんだ。
一々真に受けてたらキリが無いぞ。」
『いや、それはそうなんすけど。
親方に申し訳ないなって思って。
あの様子だと結構楽しみにしてくれてたみたいですし。』
「まあな。
鍛冶屋って職業柄工房に籠るからなあ。
取引業者以外に外との接点が無い奴も多いんだよ。」
ふむ。
ポーターの言う通りである。
俺は最近ずっとフラフラしてるから忘れてたけど、普通は仕事してたら職場に張り付く羽目になっちゃうよな。
『…そうか。
そういうことか。』
「ん?
どうした?」
『皆さんが冒険者に求めてる事が少し分かった気がするんです。』
「え?
求めるって、駆除とか配達とかだろ?」
『ええ、それは通常業務なんですけど。
皆は俺が【冒険者】であると聞いたら、顔の広さや話の引き出しの多さも内心期待すると思うんです。』
「ああ、確かになあ。
俺もオマエが新規顧客を紹介してくれる事を期待してるわ。」
だよな。
仕事だけしてればいいって訳じゃないんだ。
反省反省。
『ポーター社長。』
「んー?」
『もしも遠い外国の商人と話す機会があれば、どんな話を聞きたいですか?』
「え?
いや、そんなの決まってるじゃん。
ソイツの国の配達相場とか厩舎料金とか。
教えてくれるなら酒くらい奢るぜ。」
『…どうして、そんな事を知りたいんですか?
外国の相場が高かろうが安かろうが、社長の取り分は増減しないでしょ?』
「いやいや、自分が得してるか損してるか確かめたいじゃん。
自分が相場だと思ってる受注価格が実はボッタクられてるだけかも知れないし。
大体、仕事してりゃあ業界の相場が気にならねー訳ないんだよ。」
『なるほどー。』
「オメーは気にならねーのかよ?」
『え、だって同業者なんか見た事ないですし。』
まあ、そもそも冒険者なんて俺が適当にでっち上げた職業だからな。
これが仕事かどうかすら怪しい・
ちなみにこの職業を思いついた切っ掛けが、このオッサンに煽られたからである。
『ポーター社長。』
「んー?」
『さっきの武器屋に戻って来ていいですか?』
「この馬車の荷主はオマエなんだから好きにしろよ。」
『ありがとうございます。』
「うん。
あ、ウォーカー。」
『はい?』
「グリーンタウンの武具相場。
かなり下がってるぞ。」
『え?』
「根拠を聞かれたら、こう答えろ。
【騎士団が定例納品を返品したから
グリーンタウンの鍛冶ギルドが慌てて倉庫を押さえた】
ってな。」
『そうなんですか?』
「ああ確報だ。
レイモンド社長が苗木用に押さえてた倉庫あるだろ。
解約した瞬間に鍛冶ギルドが在庫を搬入して来たぜ。
鍛冶ギルドの搬入馬車相手に確認作業をした俺が言うんだから間違いない。
全ての在庫を見た訳じゃないが、徴募兵用の武器防具が100セット返品されたのは確報だ。」
『ありがとうございます!』
「やれやれ。
客と雑談なんてカネにならないこと、俺なら絶対にしないんだけどな。」
ポーターから思わぬ情報提供を受けた俺は先程の親方の元に走って伝える。
親方は半信半疑だったが、後からノソノソと戻って来たポーターが補足すると何度も深く頷いた。
そりゃあね、長年グリーンタウンで運送業に携わっているポーターの情報は信憑性高いよね。
おまけに怪力で有名なポーターは、新人時代から武具の搬出入を割り振られる事が多かったので、ある程度は軍需ビジネスを理解していた。
親方にとっては有益な情報が幾つか混じっていたらしく、頬を紅潮させてポーターに何度も握手を求めた。
(俺にもついでに一回だけ握手してくれた。)
「ウォーカー。
俺は馬車を厩舎に預けて来るから。
今日は解散だ。
お疲れー。」
『あ、お疲れ様です。』
ポーターが先に帰ったので、流れで俺が親方の雑談相手になることになった。
親方はもっとポーターの話を聞きたかったようだが仕方ない。
でも、先程よりは俺に対する態度が軟化していて、少しは話しやすくなった。
「えっとウォーカー君だったか。」
『あ、はい。』
「さっきポーター社長が仰ってたけど…
冒険者?
それって仕事なの?」
『ええ、一応自分の中では仕事のつもりなんですけど。』
「うーん。
あまり厳しい事を言いたくないが、あまりいい加減な生き方をしない方がいいぞ。
ポーター社長を見習って、もっと真面目に生きなさい。」
『はい、彼からは真摯に学ぼうと思います。』
「うん、それは良い心掛けだ。
彼とはよく一緒に仕事してるの?」
『ええ、たまに配達仕事を手伝います。
グリーンタウンでタンスを運んだり。』
「うんうん。」
『人面キノコを駆除したり。』
「ん?
え? 今何て?」
『あ、人面キノコです。
俺、村々を回ってモンスター駆除を請け負ってるんです。』
「え!?
キミ、モンスターと戦ってるの!?
いや失礼だけど、そんなに強そうに見えないんだけど。」
『いえいえ。
モンスターと言ってもスライムとかホーンラビットとか、そういう小さな魔物の駆除ばっかりです。』
「ああ、なるほど。
騎士団がやってるみたいに、ロングスネークやジャンピングコングと戦ってる訳じゃないんだな?」
『ははは、俺なんかじゃ逆立ちしても勝てませんよ。』
「…ふむ。」
『すみません。
期待外れで。』
「いや、寧ろ良いんじゃないか?
戦闘を始めた奴って自分の力を過信して破滅しがちだからさ。
キミの慎重・謙虚な姿勢は好感が持てる。」
『ありがとうございます。
恐縮です。』
そんな遣り取りを終えて帰ろうとすると、親方が独り言のように呟いた。
「小型のモンスターをメインに扱うのならな。」
『あ、はい。』
「武器や防具に張り込む前に丈夫な皮手袋を装備しなさい。」
『え?
手袋からですか?
お、お言葉ですが、剣とか盾とか…
そういうのから買い揃えようと思ってました。』
「うん。
強いモンスターを狙うなら、そっちからだな。
でもな?
ホーンラビットみたいな小型サイズのモンスターって石をぶつけるだけで殺せるんだよ。
相手の攻撃も落ちてる木の枝とかで防げるからな。
寧ろさあ、怖いのはトドメを刺したり解体する為に相手の身体に触れる瞬間なんだよ。」
『え?
そうなんですか?』
「急に息を吹き返して暴れられた経験ってないか?」
『…言われてみれば、何度か。』
「うん、その時に掌を突かれたり、指を斬られたりする。
その傷が元で手に障碍が残る奴って結構多いよ。」
『ああ、そうなんですね。
あ、じゃあその皮手袋を買って帰ります。』
「あのなあ。
グリーンタウンで武器余りが始まってるって教えてくれたのはキミだろうが。
皮手袋なんてどこの武器屋でも扱ってるんだから、そっちで買いなよ。」
『あ、いえ。
貴重なお話を伺えたので、情報料の意味も兼ねてこちらで買わせて下さい。』
「ふふっ、情報はお互い様だろうに。
まあいい、売ってやる。
これなら銀貨10枚でいいぞ。
安いから流行ってるんだよ。」
『えっと、親方が見せてくれたこっちの皮手袋は?』
「ばーかww
これは本職の騎士が使う逸品だよww
確かに性能はいいが銀貨200枚もするんだぜ?」
『払います!
確か財布に…
ありました!
ギリギリ残ってます!
ははは、見事に空っぽだw』
「おいおい、有り金全部叩いて明日からどうするんだよ?」
『ポーター社長に泣きついてタンス運びでもやらせて貰います。』
「やれやれ、あんまりポーター社長に御迷惑を掛けてはいかんぞ。」
そんな出来事があったので、レッドタウン滞在中は朝から晩までポーターにコキ使われる羽目になった。
Lesson17 『情報の売買を絶対に怠るな。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨2枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
騎士用手袋
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ (未検証)
ラー油 (未検証)
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
【仲間】
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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