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Lesson16 『現場を味方に付けろ。』

さて、グリーンタウンに顔を出す。

全ての酒場で安酒を1杯ずつ頼みながら挨拶回り。



「ちょっとウォーカー君。」



『あ、はいマスター。』



「レイモンド社長がキミを呼べってしつこいんだよ。

大至急本社事務所に顔を出して。」



『え?

急に言われても。』



「さあ行った行った。

さもないと俺が怒られるんだからな。」



『あ、はい。』



やれやれ、用件の想像が付くとは言え億劫だな。

酔い覚ましに街をテクテク歩いてレイモンド社を目指す。

一応、こんな辺境の街にもオフィス街っぽい区画はあって、その端っこに本社事務所はあった。



『どもー、テッド・ウォーカーです。』



「あ!

来た!」



俺が扉を開けて挨拶をした瞬間、ソファで腕を組んでいたレイモンド社長と目が合い事務所に引き込まれる。

狭いが調度は悪くない事務所である。



「キミ!

酷いじゃないか!」



『え?』



「え、じゃない!

開墾新田村の連中から聞いたぞ!

ワシの従業員を使って人面キノコの駆除をしたそうじゃないか!」



『あ、はい。

しました。』



「そういう引き抜きをするなんて見損なったぞ!」



『あ、いえいえ。

別に引き抜いてないですよ?』



「いや、誤魔化しても無駄だ!

調べはついている。

キミがリーダーになってあちこちで駆除を行ってるそうじゃないか。

日当幾らで引き抜いたんだ!」



『え?

払ってないですよ?』



「え?」



『いや、誤解があるみたいなんで解かせて欲しいんですけど。

俺は彼らを雇ってませんし、銀貨1枚たりとも支払ってません。』



「いや、ちょっと待ってよ。

じゃあ彼らに無償で人面キノコの駆除をさせてるってこと?」



レイモンド社長が食い下がるので、簡単に討伐報酬の仕組みを解説する。

社長は中々納得してくれなかったが、中洲の村などの実例を挙げると反論をやめた。



「で、でもさ。

キミがリーダーだって、皆が言ってるよ?」



『うーん。

依頼を取ったのが俺なので、そう見えるんじゃないですか?

どんな世界でも発注側って発言力強いですし。』



「まあ、ワシもメーカーだから言いたい事は分かる。」



『彼らも今日か明日にはグリーンタウンに戻ってくるみたいですし、普通に発注したらどうです?』



「うん!

是非そうしてみるよ。」



『じゃあ、誤解も解けた所で俺はこれで。』



小腹がすいていた俺はグリーンタウンの屋台でイノシシ肉のホットドッグとオニオンスープを貪り、街壁沿いを見物してから良い気分で宿に戻った。



「ウォーカー君!」



『うわっレイモンド社長!』



嘘だろ、このジジー宿に押し掛けてきやがった。

俺、もう寝るつもりなんだけどな。



「ワシの話を聞いてくれ!」



『え?

俺も流石に今日は眠いというか…』



「さっき街門で従業員達と会ったんだよ!」



『あ、彼らが戻って来たんだ。

良かったじゃないですか。』



「良くない!

奴ら弊社への就業をやめると言い出した!」



『ああ、じゃあ払った給料が無駄になっちゃいましたね。』



「いや、まだ給料は払ってないけど。」



『え?

じゃあ、別に従業員でもなんでもないのでは?』



「…奴らからもハッキリとそう言われた。」



『まあ雇用なんて労使の合意が全てですからね。

また他の従業員を雇えばいいじゃないですか。』



「いや、果樹園造成ってノウハウ仕事だから…

誰でも出来るものじゃないんだよ。

あのチームはサンドイッチ伯爵領でも実績があるし、業界じゃ結構有名人なんだ。」



『あ、そんなに凄い人達だったんですね。』



「そのチームが全員抜けてしまった。」



『あー、そりゃあ残念でしたね。

まあ気を取り直して別の果樹園作業者を探しましょう。』



「いや、それでは遅いんだよ。

果樹園増設を見込んで苗を保存する為の倉庫を1棟借りている。

本当は今頃植え終わって、倉庫も解約する予定だったんだ。

キミも荷運び業が長いなら知っとると思うが…」



『ええ。

倉庫の一棟貸しって、かなり高額ですよね。』



「しかも弊社の場合は街道沿いの馬車スペース付きの倉庫をレンタル中だ…」



『え?

それってかなりの額を取られるんじゃないですか?』



「…ああ、ウチは名が売れて来たとは言え、実質的にはファミリービジネスの規模でしかない。

これ以上ズルズルと保管費用を払わされると…

経営へのダメージがかなり大きい。」



『ああ、そういう事情だったんですね。』



「だから、大急ぎで人面キノコを駆除して欲しいと彼らに頼んだんだが。」



『だが?』



「ウォーカー君経由でないと仕事を請ける気はないと言われてしまった。」



『え?

俺?』



「そうキミだよ。

だから仲介を頼むわ。」



『え?

いやいや、急に言われても困りますよ。』



「ワシは急がないとますます困るんだよ。

契約日を過ぎたら、再来月の倉庫代を支払わなければならない。」



『なるほど。』



「とりあえず、彼らはドヤ街の居酒屋に居るから…

キミも来てくれ!」



『えー、今からっすか?』



やばいなー。

もう帰って寝る気満々だったからなあ。

仕事スイッチが完全に切れてるんだよな…



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『あ、どもー。

ウォーカーです。』



「おお!

ウォーカーさん!

いや、リーダー!!」



『え?

リーダー?』



「ええ、リーダーです。

だから俺達はリーダーからの仕事しか請けません。」



果樹職人達は横に居るレイモンド社長に当てつけるように殊更に俺を持ち上げた。

まあ、俺も現場労働長かったから気持ちは分かるわ。

ここまで感情的にこじれたら、もうレイモンド社長の指揮下では動けないだろう。



『えっと、皆さん。

人面キノコの駆除はかなり上達したと思うのですが…』



「ええ、リーダー。

我々は人面キノコ討伐に関しては、この界隈では一番と言っても過言ではないでしょう!」



『おお、凄い。

後、俺はリーダーじゃないです。』



「いやいや、リーダーの的確な調査があってのことです。

我々なんぞ単なる駒に過ぎませんよ。」



『なるほどー。

じゃあ、レイモンド社長の新果樹園の人面キノコも…』



俺がその話題を挙げた瞬間に果樹職人達の表情が事務的なものに変貌する。



「すみませんリーダー。

ブルータウンや砂金村の人達からも色々頼まれてまして。

ちょっと手が回りませんねー。」



果樹職人はレイモンド社長を威圧する様にわざと大声で拒絶の意志を示す。



『あ、じゃあ俺も手伝いますんで…

余った時間でレイモンド社長を助けては貰えないですかね?』



「うーーーーーん。

リーダーの御命令なら喜んで従うのですけど…

我々もねー、知らない街に連れて来られて…

懐具合がねーーー。

うーーーん、時間なんて余るのかなー?」



『…なるほど、分かりました。

では1匹幾らなら時間が余りますか?』



「「「「銀貨50枚!」」」」」



予め示し合わせていたのだろう。

彼らは全員で声を合わせて即答した。



「いやいや待ってくれ諸君!!

開墾新田村の連中は銀貨10枚って言ってたよ!!」



レイモンド社長の抗議を無視して果樹職人達は俺に椅子や酒を勧めてくる。

それにしても、すっかり労使の力関係が逆転したよな。

つい先日までレイモンド社長は威張ってたのに、今は必死で機嫌を伺っている。


いや、理由はシンプルだ。

果樹職人達は元から手に職があり市場価値は高かった。

それに加え、人面キノコの駆除を行った事で現金収入を得た。

何より駆除作業を通じて、ここら辺に土地勘や友人が出来てしまった。

早い話が生活に逼迫していない状態になったのだ。

逆にレイモンド社長は嵩む倉庫代に怯えている。

ふむ、結局は力関係なんて懐具合か…



『じゃあ、レイモンド社長。

申し訳ありませんが…』



「…うん、分かった。

どのみちワシに選択肢はない。」



レイモンド社長はガックリ肩を落として帰っていく。

そりゃあね、1匹50枚の駆除代金なんて約束させられたらね。

果樹園は広いみたいだし、総額幾らになるんだろう?



「いやあ、リーダー様様ですよ!!

ウォーカーさんと出会ってから良いことばかりだ!!!」



一方、果樹職人達は大喜び。

そりゃね、1匹50枚の駆除案件を獲得出来たらね。

果樹園は広いみたいだし、総額幾ら儲かるんだろう。



『いえ、皆さんのご力量ですよ。

後、俺はリーダーじゃないです。』



「「「リーダー! リーダー!」」」」



余程溜飲が下がったのか、皆が目に涙を浮かべて俺に握手を求めてくる。

まあ、気持ちは分かるんだ。

労働者って経営者側にいつも泣かされてるからな。

日々仕返しする事を夢見ているが、それが実現した事例なんて殆ど聞かない。



「ねえ、ウォーカーさん。

少し怒ってるでしょ?

我々がレイモンド社長に意地悪し過ぎたから。」



『いや、まあ…

俺も労働側だから、気持ちは凄く理解出来るんです。

ただ、彼も困ってるみたいだからお手柔らかにしてあげて下さい。』



「へへっ、程々にしておきます。

安心して下さい、仕事はきっちりしますんで!」



『ええ、明日は俺も手伝います。

宜しくお願いします。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



職人達は余程頑健なのか昨日あれほど呑んだ癖に、集合時間には力強い足取りで現れた。

途中でポーター社長の馬車も合流し、2度に分けてレイモンド新果樹園に到着する。

3日間を掛けて計471匹の人面キノコを駆除。

初日は俺も作業を手伝ったが、翌日からは隣接する村から騒音クレームが入ったので状況説明を行って回った。

総額23550枚という大金を支払わされたレイモンド社長は口数が少ない。



「リーダー。

最終チェックを終えました。

人面キノコは幼体も含めて全て駆除。

加えて人面キノコが発生しそうな窪みは全て埋めておきました。」



『え?

窪み?

後、俺はリーダーじゃないです。』



「そりゃあ、これだけ同じモンスターを駆除していれば嫌でも新しいノウハウを発見しますよ。

そもそも我々は果樹業のプロですし。」



『確かに。

皆さんにしか発見し得ない事柄はあったでしょうね。』



「帰ったら詳細を説明しますね。

モンスターの発生条件って知っておくべきだと思うんです。

ウォーカーさんのポートフォリオに追記される事を推奨します。」



なるほど、知識は図書館で得るものだと思い込んでいたが…

現場で新たに発見されるケースもあるのか。



「じゃあ、これリーダーへの上納です。

折半でいいですよね?」



『え!?

何で俺に?

困りますよ。』



「え?

だって、駆除方法を考えたのも単価交渉してくれたのもウォーカーさんですし。

魂胆を打ち明けると、これからも案件を取って来て欲しいですし。」



『いやいや、旨味のある仕事があれば皆さんに報告しますけど。』



「そう! それ!」



『うわっ、びっくりした。』



「ウォーカーさんは条件のいい仕事を取る名人なんですよ!

おまけに情報も自腹で調べてくれるし!!

我々もそういう出来る人にくっついていたいんです!」



『あ、いや。

誤解があるようなので解いておきますが、調べて下さったのは図書館のクラーク司書です。

念を押しますけど、俺は読み書きが出来ませんからね?』



分かったのか分かってないのか果樹職人達はニコニコしながら俺の周りに座っている。

流石に半分は取り過ぎなので端数の550枚だけ貰って、その中から300枚をポーター社長に渡す。



「え?

俺も貰えるの?」



『だってポーター社長も本当はキノコ狩りしたかったんでしょ?』



「まあな。

そりゃあ、歩合で稼ぐ方がテンション上がるよ。

でも、馬車を見張ってなきゃならんからさ。」



『ええ、なので受け取って下さい。

機会損失の補填です。』



「う、うん。

まあ、素直に貰っておくよ。

ありがと。」



その後、レイモンド社長にポーターを紹介し、倉庫の果樹苗を新果樹園に運ぶ段取りを打ち合わせした。

まあ、これでポーターの懐も少しは潤うだろう。



「ウォーカー君。

馬車を紹介してくれるのは助かるけど…

果樹苗を植える人手がない。」



そう果樹職人達は人面キノコの駆除こそ行ったものの、レイモンド社の果樹園造成に助力する事は断った。

こればかりは感情の問題なので仕方ない。



『御安心下さい。

このポーター社長は街で一番声がデカいんです。』



「人を脳筋みたいに言うんじゃねーよ!」



『ははは。』



翌日、レイモンド社長も誘って辻募集を掛ける。

相変わらずポーターは声だけはデカく、口上は通りの向こうまで響く程だった。

おまけにケチで有名なポーターが破格の日当(それでも相場よりは微妙に安い)で求人を掛けたものだから、好奇心半分で満足のいく数の労働者が集まった。

それから数日を掛けて皆で植樹を行い、大したトラブルもなくレイモンド社は新果樹園の稼働に成功した。

但し、財務状況が相当悪化したのか、最終日の俺達への謝礼は一部現物支給だった。


飲みきれない上に味に飽きたので、しばらくはポーターと一緒に苦笑しながらジュースのお裾分けに走り回った。




Lesson16 『現場を味方に付けろ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨489枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ (未検証)

ラー油  (未検証)



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒



【仲間】


ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。

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